落ちた先には……
「おお、起きたか人間よ」
俺が目を覚ますと、一匹のネズミが俺に話しかけてきた。
もうこの時点ですでにおかしい。ドラ✕もんじゃねえんだから。
「アンタが……俺を助けてくれたのか?」
このまま黙っているワケにもいかないので、俺は取りあえず適当に話しかけた。
……なんかこの世界、やけにドラ✕もんネタ多くないか? ジャ✕アンシチューだの、透明マ✕トだの。
「うむ、その通りだ。お前さん、なんでこんな場所にいるのか覚えているか?」
「いや、待ってくれ。状況確認させてくれ。頭が回らん」
俺はキョロキョロと周りを見回した。
どうやらここは……洞窟の中か? 分からんけど。
「む。どうやら記憶に無いようじゃの。仕方ない。まず私たちが、倒れていたお前さんをここまで運んで来たのじゃ。人間一人を運ぶのはネズミ一匹の力じゃとても無理だからの」
そりゃあご親切にどうもありがとうございます。
よく見ると俺の体の所々には、包帯が巻かれている。
「ちょっといい? 俺ホントに生きてる? ここ天国じゃないよね?」
「何を言う。お前さんは今私にしっかりと話しかけているではないか。当然、私たちも死んでなどいない」
「なんで俺ネズミと会話できてるんだよ……」
俺は生きてるということには安心したが、そもそもネズミと話してる時点でおかしいことに気付いた。
もしかしたら俺は、本当にハ✕ジの力を持っているのかもしれない。
「さあ、それは私にも分からんよ。お前さん、何か特別な力でも持っているのか?」
「何かって……」
「やはり何かありそうだな。私は長年の経験で、表情から何を考えているのかを読み取ることができるのじゃ」
ぎくっ。このネズミ、鋭いじゃねえか。
俺が今話しているネズミはネズミたちの中でもリーダー格っぽいネズミで、初老といった感じのネズミだ。
……ああもう、ネズミネズミうるせえ! 名前訊こう。
「よし分かった、話してやる。その前に名前教えてくれないか?」
「私か? 私はセギアという。お前さんは?」
「俺は、京夜。佐々木京夜だ」
ついついノリで苗字まで名乗ってしまった。
ネズミ―――――セギアは、珍妙そうな顔で目を丸くすると。
「これはこれは、珍しい名前の人間もいるもんじゃの。それでは京夜、お前の過去を訊こうじゃないか」
「……いいぜ」
俺は誰にも打ち明けなかった秘密を、セギアに話した。
なんとなくセギアは口が堅そうだし、人間にべらべら喋るような性格じゃない気がする。
何より、相手はネズミだし。人間ならともかく、動物ですから。
俺は一通り話し終えると、ふう、と一息ついた。
セギアはというと、かわいそうな物を見るかのような目でこちらを見つめている。
ネズミにそんな目で見られると、俺がネズミ以下の様な気がしてきてホント嫌だ。マジでやめてくれ、悲しくなってくるから。
「お前さん……ずいぶんと不憫な人生を送っているようじゃの。悪いが私たちには、どうすることもできない。ただ一つ言えるのは―――――お前さんを悪魔にした奴に頼めば、きっと人間に戻してもらえるだろう、ということじゃ」
「……どういう意味だよ」
「そのままの意味じゃ。無論、悪魔に会うなんてことは普通無理だとは思うけどな」
そう言ってセギアは、フムフムと興味深そうに頷いた。
……悪魔にした奴に頼む、か。
もう一回死んだらオッサンに会えるかもしれないけど、それじゃあ本末転倒である。
となるとやっぱり、生きた姿のまま会うしかないんだけど、まあそりゃあ無理だろうな。
でも、有力な情報にはなった。ありがたい。
俺は準備を終えると、ネズミたちに別れの挨拶をした。
「ありがとうな、セギア。他のネズミたちも。感謝するぜ」
「私も久々に人間と話せて楽しかった。縁があったらまた会おう」
「ああ、いつかまた会いにくるぜ」
俺は洞窟を抜けながら、ネズミたちに手を振った。
俺の後ろからは「頑張って下さい、悪魔の人間さん!」や、「応援してます!」だの声が響いている。
ううっ、マジで泣けてきた。
……今思えばあんな簡単に俺の秘密を話してよかったのかとも思うが、まあそれはそれでいいだろう。
一人――――――いや、一匹ぐらい相談できる相手がいた方が、俺も気が楽だしな。
俺は洞窟から抜けると、入って来た日差しに顔をしかめた。
時刻を見ると――――――11時ピッタリ。
昼になる前には、アイツらと再会しなければ。
俺は体を大きく伸ばしながら、小さな一歩を踏み出した。




