天才魔法使いガーブくん(イケメン)
だいぶ回復してきた舌の様子を見ながら、歩くこと数分。
なんか知らないけど俺たちは美少年・美少女二人がいる場所へやって来ていた。
「ああ、京夜たちに説明しなきゃな。コイツらは、ガーブとピューラ。俺の仲間だ」
俺は何とか動いてきた舌で「よろしくお願いします」と挨拶する。
すると二人はニッコリと手を差し出してきて、握手してくれた。天使じゃん。
でもなんでこの二人はティールみたいな筋肉男と一緒にいるんだろう。もっとカッコいい感じのチームに入れば良かったのに。
「……お前今何か失礼なこと考えてなかったか?」
「い、いや!? 別に何も!?……いってえ」
俺はまだ少し痛む舌を出しながら、目を逸らした。
コイツ、なかなかに鋭いな。侮れん。
「で、村まではどうやって行くんだガホバヒヘッ!!」
「……もういい、お前は喋るな。村までは、馬車を使っていく。ホラそこに二台あるから、分けて使えばいい」
ティールが指さした先を見ると……わー、キレイなお馬さん。
なんか神話に出てきそうなペガサスみたい。もちろん翼は生えてないけど。
「じゃあ村までは自動的に馬が連れて行ってくれるハズだから。何せ俺の馬は超・優秀だからな。おそらく30分ちょいで着く」
そう言ってティールたちは、片方の馬車へと入っていってしまった。
さりげなく馬について自慢していたが、これで別方向へ走っていったらタダじゃおかないぞ。
「わーお! かわいいお馬さんですねー!」
気付けばライアたちは、馬車に乗りこんでしまっていた。
俺も慌てて乗り込むと、馬はゆっくりと走り出していく。
「ちょ、なんかスピード速くない?」
「……本当ですね。なんか嫌な予感……」
「これはっ……フラグだよきょーや!」
「ヤバいんじゃないかヤバいんじゃないかヤバいんじゃないか」
言ってる間にも、馬は徐々にスピードを上げていき、ついには全く違う別方向へと駆け出していった。
「ヤバいからヤバいから! ゴフッ」
「死にましたねコレはヤバいヤツですね」
「ひぎゃああああああああああああああああ!!」
「…………(既に意識がない)」
どこが優秀だよ!? ピピに負けず劣らずのバカっぷりじゃねーか!!
ピピはというと、必死にライアの肩へとしがみついている。お前はいいよな、しがみつけるところがあって。
ピピがライアの肩にしがみついても怒られないのに、俺がライアの肩にしがみついたら怒られるのは差別になるのだろうか。同じ生き物なのに。
「痛い痛いあばばばばばばばばヴァ↑↑↑」
ヤベえ、吐く。
そう俺が思った瞬間、どこからか魔法を唱える声が聞こえた。
「『ウィンドリーフ・バインド!!』」
その一声で、馬車の動きはピタリと止まった。
あぶねえ、出るとこだったぞ。マジでやめてほしい、走る馬車の中吐くとか。
一体何が起きたのかと窓から顔を出してみると、馬の脚には無数の木のツタが絡まっている。誰がこんなことを……
「大丈夫? ケガはないかい?」
そう言って馬車の中に入ってきたのは、先ほどガーブと名乗った少年だった。
え、なにこのイケメンボイス。
おそらく魔法使いなのだろう。右手には緑色に光る杖を持っている。
「まったく、ティールがちゃんとしつけないから……ごめんね、代わりに僕たちの馬車に乗りなよ。ティールには罰としてこの馬車に乗らせるから」
「いえ、そんな……大丈夫ですよ、ティールさんケガしちゃいますよ」
「いいって別に。君たちも、こんな馬車乗ってたら危ないだろう?」
そのライアの言葉に笑顔で返すガーブ。
なんかイケメンスマイルで言ってるけど、よくよく考えたらサラッと恐ろしいこと言ってるよな。
「ティール、罰としてこの馬を完璧にしつけろ!」
辺り一面に、ガーブの甲高い声が響き渡った。