街での襲撃
ドⅯ仕様に納得がいかないまま、テキトーに歩き続けること数十分。
ついに俺は街っぽい街に到着した。
「うおお……なんかすげえな。やっぱりちょっと前世とは違うのか?」
街には食料を売っていたりする店や、衣類などが売っている店もある。
やっていることは前世とあまり変わっていないが、少し雰囲気や街の賑わい感が違う気がするな。
そして何より、建物らしい建物が少ないのである。
普通街なら宿泊施設なども整っていると思うが、この街ではあまり見当たらない。
今街にいる人たちは、もっと遠いところに住んでいるのだろうか。
というか、「ちょっと違う」どころじゃない。「かなり違う」。
……なーんか、嫌な予感がするなあ。
まあ、今は気にしないでおくが。
「うわ……俺の格好ひでえな……どうすりゃいいんだろ」
先ほど悪魔の能力を発動したせいで、ところどころ衣服は破けてるし、靴もどこかに落ちていってしまった。
とりあえず服を買いたいが、あいにく金がない。
というか何もなしに転生したのがそもそも間違いだったのかもしれないな。バカ、俺のバカ。ニート部屋スタートなんて迂闊な事考えるから。
さてどうしようか、と俺が考えていた、その時。
「ストーップ!! そこどいてええええ!!」
……え?
「ごぎゃぶっ!?」
いきなり突っ込んできた一人の少女に、俺は受け身を取ることもできず、見事に吹っ飛ばされた。
ああ、我ながらカッコ悪い。もう少しカッコよく宙を舞いたかった。
……いや、そうじゃない! 街に来て1分も経たない内にぶっ飛ばされるとかマジで意味分かんないから。ね?
俺が顔を上げると……。
「すみませ~ん、大丈夫ですか? ちょっと急いでいて……」
ドキン! と俺の心臓は高鳴った。
なんとぶつかって来た相手は、女の子だったのである。それも美少女。
少女を見てみると、見とれるくらい綺麗な姿をしていた。ヒキニートの心臓には非常によろしくない。
長い金髪に、青色に染まった瞳。多少髪は乱れているものの、顔だちはどこか幼く、可愛らしい印象を与えている。
年齢は、俺より2つくらい年下に見える。
俺の今の年齢が17歳だから、15歳ぐらいか……?
あいにく俺にロリコンのスキルはないぞ。
「あ、ええと……大丈夫ですよお。大したことないぃのでえ……?」
クソォッ、やはり三年もヒキニートをやっていたせいか口調がぎこちない!
でもまあ、俺にしては上出来だろう。話しかけることができたただけでも。
だが、こういうところはやっぱりニートは不利だ。
「ホントですか? 見た感じかなり吹っ飛ばされてましたよ?」
「い、いィや、大丈夫だあって……」
手を伸ばしてくる少女を横目に、俺は何とか自力で立ち上がる。
本当は全身痛くてたまらないが、心配させるわけにもいかない。
待て俺、いい加減落ち着こう。いくら心がトキメキ始めてるからって、このままこんなぎこちない口調で会話してたら通報される危険がある。
俺はゆっくりと口を開き、心を落ち着かせ。
「――――でも、なんでそんなに急いでたんですか?」
この出会いのフラグを見逃さまいと、とりあえず俺は少女に話しかけてみた。 よし、上出来。コミュ障とは思えない程、完璧にキメてやった。
なんだろう、不思議とあまり緊張はしない。頭が混乱しすぎているのだろうか。
―――――まあ、それはともかく。
……事件のニオイがする。ここはこの名探偵京夜くんが解決してあげるしかないようだな。コ✕ン君じゃないけど。
少女の返答を待つと、少女は少しだけ俯きながら、俺に説明してくれた。
「じ、実は一緒によく狩りに行く友達が怪我をしたかもしれなくて……連絡が取れないままなんです」
……狩り? なんのこっちゃ?
話の内容についていけない。しかしもう、引き下がることもできない。どうしようもないんです。
まず、狩りってなんだ? 縄文時代からされていたというあの狩りか?
よくわからんが、ここは取りあえず少女の助けになってあげなければいけない。男としても、……そして、人間としても。
いやぶっちゃけ、聞いたらどうにかしてあげなければいけないという俺のプライドの方が高い。
「あの……僕で良ければ手伝いますよ? 特にやることもないので」
「え? でもその装備……」
少女は俺の服装を見た後、ポンと手を叩いた。
「あ、そうか! 他の装備が別の場所にあるんですね! ありがとうございます! お願いします!」
「え? あ、はい……?」
……なんだろう。早くもよくわからん。
装備とは、ゲームでよくあるあの装備だろうか。
あいにく俺は初期装備すら持ってないぞ。無念。
「じゃあ三十分後にここに来てください! 助かりました! 手伝ってくれる人が居て。あと、私の名前はライアって言います。よろしくお願いします!」
「えーと? ……京夜です。よろしくお願いします……」
俺の名前を聞いて一瞬ライアはえ? というような表情を見せたが、すぐに走り去っていってしまった。
……え、え?
なんかとんでもないことになっちゃった気がする。
ヤバい! 俺の方が事件になっちゃったじゃねえか! もしここで逃げたら「男の変態旅人、少女の助けを断って逃走!?」なんて新聞記事が上がってもおかしくない。
やっぱり、手伝うなんて言わなきゃよかったかな? いやでも、せっかくの出会いだしカッコいいところを見せたいんだよ。ニートだとしても。たとえ、非モテ系男子だったとしても!
夢見る資格は、誰にでもあるぜ?(笑顔)
……話を戻して。そもそも俺この街のことについてすらよく知らない。誰かに訊くしかないのだろうか。
絶対不審者扱いされる気がするんですよ、俺の今の格好だと。
なんだか悲しい。目から水がダバダバ出てる。
泣くな、俺。負けるな、俺。
「ううっ……はあっ。仕方ねえ……」
俺は重いため息をつきながら、最初の一歩を踏み出した。
街に迷い込んだ京夜くん。いったいどうなるのか。
引き続きよろしくです。