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エピローグ

 俺が「願い事」をしたあの日から、数日が経った。

 今日は、俺が魔王サタンを打ち破ったという事で、パーティーが開かれるらしい。それも、かなりの多人数。

 貴族達なんかも来るらしい。そこのお偉いさんに「君はパーティーを開くにあたって最も重要な人物だ。是非、前に出て、一言喋って欲しい」なんて言われちゃいまして。

 必死で言葉も練習したし、覚えてきたけど、正直言ってあまり自信がない。


 ……俺は着ているスーツを鏡の前で直しながら、緊張した面持ちでキメ顔をしていた。


 全く、こんな機会今まで無かったものだから、随分と緊張してしまう。心拍数上がりまくりだ。

 もう少しでパーティーが始まるというのに。しかも俺が今いる場所は舞台裏。

 ヤバイ、もうちょいキメ顔しとかないと! パーティーぐらい、かっこよくびしっとキメないと! 

 

 そんな事を思いながら、俺がいい角度を探しながらキメ顔していると。


「アッハハハハ! 何やってんですか、京夜さん!」

 

 その声に震えた俺は鏡に顔面を打ち付けた。

 

「なっ……! お前、入ってくんなっつったろ! ……ってああ! なんで全員入ってくんだよ! ああ、折角整えた髪が台無しじゃねえか!」


「いいんじゃないですか? 男前ですよ、京夜さん! アハハハハ!」


「てめえ、バカにしてんだろ! 自分はヒラヒラのドレス着てバッチリキメやがって!」


 俺を指さしながらゲラゲラと笑うライア。

 くっ……スーツとかこういうのがあまりに合わない自覚はあるが、ここまで笑われると腹立つ。こうなることを想定してなかった俺も無鉄砲だとは思うが。


「まあまあ、京夜。そんなに緊張しなくても、ありのままのお前でいい。……まあ、確かに面白いが……くくっ」


「ちくしょおおおおおおお! どうしてくれんだよ、この顔! ぶつけたから赤くなってんじゃねえか! これじゃお偉いさんと話せねえよ!?」


「その時はその時って事じゃないのか? まあ我はお前みたいに似合わなくはないが」


「うるせえニマニマ野郎! お前はまずその変態面をどうにかしろ!」


 ハアハアと息を切らしながら、俺はその場にへにゃりと力なく崩れ落ちる。

 ……ああ、なんかもうすでに疲れた。

 と、その時。舞台裏内にあるスピーカーから。


『会場内にいる皆様にお知らせします。まもなく、パーティーが開催されます。特に佐々木・京夜様とその一行は、足早にパーティー会場にお向かいください』


「……あ、京夜お兄ちゃん。もう始まるみたいですよ?」


「うおっ、マジか! 急ぐぞ、お前ら! もうすぐで始まるって!」


「なかなかに面白い顔芸するじゃない、京夜。それじゃ脱力して歩けないわよ」


「もう分かったから俺の顔いじりやめろ! 面白いしスーツも似合わないのはわかったからさ!」


 早くしないとパーティーが始まってしまう。舞台裏とはいえ、舞台裏事態が広いので会場まではそこそこの距離があるのだ。


「も~きょーやはあわてんぼうだねえ。もう少しのんび~りしててもいいのにさ」


「お前はのんびりしすぎだ! ほら、行くぞ」


「え~。だ~る~い~~~」


「お前に一々ツッコむ方が俺は怠いんだよ!」


 俺はパーティー会場へと急ぎ足で向かう。それに続いて皆も、ゾロゾロとけだるそうについてきた。

 ―――と、そのとき。ふと俺の右腕が握られた。

 握ってきたのはレインだった。俺を見上げながら、どこか満足そうに「にまー」と笑みを浮かべている。


「……なんだよ?」


「いや、やっぱこんな雰囲気が、私たちには似合ってるなあって。幸せだなあって思うんです」


「……まあ、そうかもしれないな。つっても、俺がまた大変になるけど」


「そうですね。その時はまた、よろしくお願いしますって事で。……まったく、このパーティーには問題児が多くいますからねえ……」


「お前は何自分が優秀みたいな言い方してんだ! お前も十分問題児だろ!」


「え? 私は問題児ですけど? 何を今更」


「開き直っちゃったよコイツ!?」


 俺達はそんなバカなやりとりをしながらも、笑い合った。レインは、嬉々とした表情で俺の手を握っていた。


           ■


「開会の言葉」を頼まれた俺は、おぼつかない足取りで壇上へと上がっていた。

 思った以上に人が多い。というか二階にいる人達とかも合わせたら一万人以上いるんじゃないだろうか。

 当然、そんな大人数を前にすれば緊張もする。俺は体中の震えが止まらなかった。

 俺は何とかステージの上に立つと、必死で練習した言葉の第一声を―――


「……み、みなひゃま! ひょんかいはごあちゅまりひぃただき……」

 

 噛んだ。それも思いっきり。

 そしてその直後、ドッと会場内に笑い声が起こる。中には仲間たちの姿も見えた。

 案の定、アイツらはゲラゲラとこれでもかというくらいに笑っている。

 ……クッソ! アイツら、終わったら絶対シバいてやる!

 俺は気を取り直すと、今度は失敗しない様に慎重に口を開く。


「皆様。今回はご集まり頂き、誠にありがとうございます」


 その声で、会場内が静寂に包まれた。

 俺は失敗しない様、一つ一つ頭の中で言葉を考える。


「……皆様ご存知の様に、俺は魔王サタンを討伐しました。でも―――俺が普通の人・・・・・・間じゃない・・・・・って、皆様知っている事かと思います」


 そう。―――俺が悪魔だという事は、結局多くの人達に普遍する様になった。

 

 ……これは、俺自身が決意をして決めた事である。


 もう、隠し事はしたくない。そう思った俺は、受付嬢さんにその旨を伝えたのだ。

 

 しかし受付嬢さんは、少し目を丸くしただけで、俺を殺したり、討伐したりする様な事はしなかった。

 

 ……この世界の人達は、優しい。ここ一年近くの経験で、その事を十分に知った。


 だから―――きっと大丈夫。


 その証拠に、会場内がどよめいたり、罵声であふれかえる事はなかった。


「……俺は、確かに魔王サタンを討伐しました。でも、違います。俺一人の力で、魔王サタンを討伐できた訳ではありません。……仲間の皆がいたから、俺は勝利する事ができました」


 俺一人の力じゃ、本当に何もできていなかったと思う。


 ありきたりな言葉かもしれないけど、これは本当の事だ。


「……俺は、魔王サタンを倒した事については、あまり誇りに思っていません。それで終わりじゃないからです。魔王グループのボスを倒したとはいえ、まだまだ魔物モンスターは多く存在しているし、強いモンスターだっている」


 俺の言葉は、ほとんどアドリブになっていた。伝えたい事がすぐ頭に浮かんでくるからだ。


「……仲間たちを、俺は護り続けたい。大切なものを……護れる様に、もっと強くなりたいと思っています。……これは俺だけに限りません。ハンター誰しもが思っている事だと思います」


 大切なものを護りたくない人間なんていない。少なくとも俺はそう思っている。

 俺は伝えたい事を、そのまま口に出す。


「……俺は、誰かの為に命を懸けてみたいと思いました。……大切なものを護るって事は、自分自身を変えるって事と同じなんだと思います。……自分自身を変え続けるって事が、ハンターとしての生き方につながるんだと思います。だから―――大切なものを護れるように、生きていく。大切なものに寄り添って、生きていく。これが―――」


 俺は息を大きく吸うと。


「これが―――俺の、幸福理論です!」


 会場内が、拍手であふれかえった。俺は一礼すると、冷や汗まみれの頭を拭くのだった。


        ■


「きょーや、かっこよかったよ!」

 会場の外へ出た俺は、アークからそんな褒めの言葉を受けていた。

 

「最初噛んじまったけどな。お前ら散々笑ってたじゃねえか」


「いやあ、あれは誰だって笑っちゃうよ。第一声でいきなりあれは面白いよ」


「『ウォーター・リフレイン』」


「ひゃああ!?」


 俺はアークの首筋を軽く凍らせる。こうやって仲間に軽いお仕置きをするのも久しぶりだ。

 そんな事を思っていると、後ろにいたコハクが。


「そういえば、京夜。お前の戦友達がこの後駆けつけてくれるそうだぞ? ティール達やレイトたちも来るらしい。後で顔を合わせてきたらどうだ?」


「え、マジかよ。……あいつら散々からかってきそうだなあ……」


「良いじゃないか。たまにはともに休む事も大事だぞ」

 

 あいつらと一緒にいたら余計疲れそうなんだが。そう心で俺は呟く。

 さて、今後はどうすればいいのだろうか。魔王サタンを倒したから、さぞかし大金が俺達には入ってくる事だろう。


 ……今後、かあ。


 俺は何とはなしにポケットの中に手を入れる。すると、ある物に指先が当たった。

 

 取り出してみると、そこには―――いつの日かセギアにもらった勾玉があった。


「……なあ、お前ら。これってなんだかわかるか?」


 正直、俺はこれが何なのかイマイチよく分かっていない。

 なんかすごい力がある物だっていう事はわかるのだが……。


「……あれ。これってひょっとして、『四龍の勾玉』じゃないですか?」

「……へ? なにそれ」


 シオンの言葉に、俺は首を傾げる。なんだそれ。

 四龍の存在自体は知っているのだが。前に会った事あるし。


「……これは、肌身離さずつけておいたほうがいいですよ。もし四龍全匹を見つけた時に、特殊な力を発揮する勾玉です」


「……それって……具体的には?」


「具体的には、世界が平和になる様な勾玉です。たぶん全匹見つけたらそうなります」


 世界が平和になる、か。

 それこそ本当にハンターの役目がなくなっちゃうんじゃないか? 


 俺は苦笑いを浮かべながらも、夏の空へと近づき始めている快晴を見上げた。


 すると、隣にいたライアが。


「京夜さんの願い……叶ってますね。私達は今、幸せです」


 俺と同じ様に、空を見上げながらそんな事を。


「そうだな。我も幸せだぞ。このほんわりした雰囲気こそがいいのだ」


「そうねえ。やっぱ私達はこうじゃないとね」


 そこには、初めて出逢った頃と何ら変わりない仲間達の姿があった。

 ほんわり……か。


「……きょーや。私達、これからどうするの?」

 俺の横にいたアークが、そんな事を俺に尋ねてきた。

 それはもう、決まってる。


「京夜さん、まさかお家でダラダラするという考えをまだ持ってたりします?」

「かつてダメ人間だったから、それもあり得なくはないかもしれんな」


 後ろにいるレインとコハクがうるさい。

 俺は大きく息を吸い込むと、仲間達に向かって言う。


「そりゃあ―――やっぱ、これからもモンスター討伐しなきゃだろ!」


 俺は―――きっと、変われたんだと思う。

 

 平凡だった、あの引き籠もりから。


 何の才能も特技もない、ただの人間から。


「そういえば、家にもしばらく帰れてないしなあ。パーティーが終わったら、一旦帰らないと」


「ピピもお腹空かせて待ってますよ。戦闘は危険だから置いて来ちゃいましたし」


「あ……そっか。帰ったら、アイツとも一緒に冒険しないとな!」


 ピピも、俺達の重要な仲間だ。アイツに助けられる事も、多々あった気がする。鳥に助けられるってのも、なんかおかしな話だけどな。

 

 と、俺が苦笑しながらそんな事を振り返っていると。


「佐々木・京夜殿! 是非貴方のお話しを伺いたい! どうか会場内まで!」

 会場内から、そんな貴族達の声が聞こえてきた。

 俺は仲間達と笑い合うと、扉に手を掛ける。


「行こうか」


「はい」


 俺達は歩き出した。


 

 ―――まだまだ続いていく、新しい道へと。


 

 



 

 




これにて完結です。今まで読んでくださった皆様、本当に本当にありがとうございました。

約半年間に渡って書いたこの「あくおれ」。書いててとても楽しかったです。

新人賞で何かアドバイス貰えたらいいなあ……なんて思っちゃったりして。「小説家になろう」でのあくおれとでは、性格や口調が異なっちゃったりしてるんですけどね。


……ああ、なんか書いてて泣けてきた……。まだ終わらせたくないよおおおお!!

しかし、物語には終わりがあるもの。これからも京夜の成長を願ってやってください。


今まで本当にありがとうございました! あわよくばまた、新作を作る時にでもお会いしましょう!


                            紅羽 ユウ


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