アイツ
俺はすぐに身体を再生させ、立ち上がった。バラバラにされた身体も、今ではすっかり元通りである。
コキコキと首の骨を鳴らしながら、俺は腕を横に振った。
「『デッド・フレア』」
「……!?」
俺の放った魔法は悪魔のオッサンに命中する。
派手に吹っ飛んだ悪魔のオッサンの隙を見逃さずに、俺は翼で羽搏いた。
「……テ、テメエ……! なんで再生すんだよっ……!? クソッ……」
「『オーバーデッド』!」
「ぐっ!?」
魔法で俺は肉体強化をする。そしてそのまま踵で悪魔のオッサンの腹を蹴った。
「……がっ……。へん……やるじゃねえか、糞ガキ」
「……そうかよ」
「俺も負けてらんねえなあ。『グレート・ナイト』!」
「なっ……!?」
悪魔のオッサンの魔法で、純白だった空間が一瞬で黒に塗りつぶされる。
「見えねえっ……」
「俺は見えるぜ? オラッ!」
「ッ―――!?」
背中に激しい衝撃が走る。俺はそのまま遠くに吹っ飛ばされた。
つま先で何とか踏ん張るも、背中が動かない。多分、これはもう折れてしまっている。
暗闇の魔法が解けると、悪魔のオッサンの挑発的な表情が視界に入った。
「どうした? もう終わりか。立てよ」
「……ははっ」
俺は口から血を垂れ流しながら、乾いた笑い声を上げる。
……誰が終わりだなんて言ったんだろうか。
全力で闘うって、決めたんだ。だからっ……!
「立て立て立て立て立て立て、立てよ。僕……の身体……!」
……もう、最後?
やだよ。まだ、闘わないと。守るって、決めたんでしょ?
まだだ、まだ、死んじゃダメ。
なら、最後までやらなくちゃ。
「守る守る守る誰を皆を俺をだから倒す目の前の敵を」
「……どうした? 頭おかしくなったか、おい」
「ははははははは」
俺の背中から、更に新しい二本の翼が生える。
計四本。
「……知ってる? 人間ってな、すごーく弱い生き物なんだ。悪魔みたいに、強くない。じゃあ俺は? 俺は、どうなるの? 強いの? 弱いの? ……教えろよ」
俺は悪魔のオッサンに襲い掛かる。
「強いと弱いの中間点? 中間の基準ってどこだよ?」
「……テメッ……!」
俺は悪魔のオッサンの骨を容赦なく折る。
さっきのお返しだ。というか、倍返し。
しかしそれを耐え抜いた悪魔のオッサンは、俺の首根っこを掴む。そして、ギリギリと締め上げてきた。
「このまま殺してやるよ。じゃあな、イカレ悪魔」
俺は、ヒーローなんかじゃない。馬鹿な理由で死んだだけの、ただの人間だ。
でも―――。
それは、「何もしない」っていう言い訳にはならない。
だから、勝ち目がなくても。カッコよく決められなくても。
―――守るぞ、俺は。
「『ドラゴニック・バースト』!」
「!?」
俺はバク転で距離をとる。そしてその間に回復魔法を唱え、背中の痛みを癒した。
もう、逃げない。闘う。絶対。
そう誓いながら、俺は悪魔のオッサンと睨み合う。しかし、俺の顔には不思議と笑みが浮かんでしまった。
「……? 何笑ってんだよ」
悪魔のオッサンが、怪訝そうに首を傾げる。
「いや、まさかアンタと闘う事になるとは、思ってもいなかったなって。こんな要らない能力もたせた張本人とこうして闘うとは」
「……俺だってテメエには渡したくなかったよ。……でも、アイツがな」
「アイツ?」
「……ああ。……ホラ、来たみてえだ。めんどくせえ」
悪魔のオッサンはめんどくさそうに顔をしかめる。
すると悪魔のオッサンの背後から、黒い靄の様なものが現れた。
「……我が主。まさか直接会う事になるとは」
「……フレア……!」
俺は、アイツの名を無意識に呟いていた。




