序の口(レイン視点)
天界へと到着した私達は、今の状況を確認しながら、足早に移動を開始していた。
「……ここがどこかは我もよくは分からんが、まあ二時間程度は歩くことになるだろうな。適度に休憩を取りながら目的地へと向かうぞ。歩いて行く内に、天使達の集まる場所を感じ取れるハズだ」
レーディルさんが辺りを警戒しながら、そう呟く。
天界は普通の世界と同じような広さがあるが、魔法陣でここまで来たため、そこまでの時間は掛からないハズだ。
魔法陣でここへ来る時もレーディルさんは、なるべく天使が集まる所に行けるように、ランダム仕様の規模を小さくできるように、魔法をかけてくれていたそうだ。
一体レーディルさんは魔法をどれだけの数使えるのだろう、と疑問を感じながらも、私は歩く足を速める。
「……気味が悪いくらいの殺風景だな。天界とはいえ、まさかここまで白一色で塗りつくされているとは」
コハクさんが、辺りを見ながらそう呟いた。
私とレーディルさん以外は天界へ来た事がないのだから、辺りの風景に驚愕するのも当然と言える。
「ホントですね。なんか私とお母さんはこの景色には似合いそうにないのですが……」
「いや、そりゃあ私達は悪魔系統のモンスターだからね? というか、属性的に相性良かったりするんじゃないの。天使って事は、光属性でしょ?」
「そんな事もないみたいですよ~?」
ライアさんが、アルゼルトさんの方を見ながら。
「外見だけじゃ、属性っていうのは分からないみたいなんです。めっちゃ光っぽい格好してるクセに、闇属性の魔法使ったりするめんどくさい魔王グループの幹部もいたそうですよ」
「あら、そうなの? ……まあ私達は見た目通りの属性だけどね。今度からもっと明るい格好しようかな」
アルゼルトさんが何やらブツブツと呟いているのが聞こえる。
アルゼルトさんは……やっぱり黒っぽい格好が似合ってるんじゃないかなあ?
そんな益体ないことを考えながら、私は明るい格好をしたアルゼルトさんを想像して、思わずクスリと笑ってしまう。
「……む、我のフードが、何やら強い気配を感じ取っている。……これはマズイな」
唐突に、レーディルさんがそんな事を言い出した。
フードは、強い気配は感じませんよ?
そう思いながら、何やら困惑した表情を浮かべるレーディルさんに、私も緊張してしまう。
―――と、その時だった。
「……貴様らが侵入者か。ゼウス様がお怒りになっている、排除しなければ」
数十人ほどの、天使達が私達の前に現れた。
その中のリーダーと思われる男の天使が、私達に鋭い眼差しを向けている。
私が数十人の天使達に、緊張しながら後ずさっていると。
「『ウォーターデッド・ファイナルフリーズ』」
―――突如、天使達の頭上に、大量の冷水が降り注いだ。
「……えっ」
リーダーと思われる天使が声を上げるも、それはもう既に遅く。
天使達は、見事に冷水を体中に浴びてしまった。
「……っぎゃあああああああああああああ!! ああああ!? あ、あびゃはあああああ!?」
「た、隊長! しっかりあああああああああああああああああ!?」
「『フリーズ・カインド』」
降り注いだ冷水はパキパキと音を立て、段々と天使達を凍らせていく。
後ろを振り返ると、予想通り、アークさんがやれやれといった表情で魔法杖を片手に立ちすくんでいた。
「やっぱ数の多い敵相手には、この魔法が一番相性良いんだよね。瞬殺できるし。……私今ので結構魔力使ったから、次は皆、よろしくね」
アークさんの勇ましさは一体どこから来ているんだろう。
本当に瞬殺だった。まさに一瞬だった。
天使達はというと、身動きが取れなくなり、固まった状態のまま地面に寝転がっている。
するとそれを見て、アルゼルトさんが。
「……こりゃあ負けてはいられないわね。皆、アークに続くわよ!」
「そうですね! 次は私のグラビティで瞬殺します!」
「いや、ここは私の弓で……」
皆さん、まだまだ元気が有り余っているみたいだ。
私はその光景を見て、また笑いを零してしまう。
……しかしこれはまだまだ、序の口に過ぎていないという事を、この時の私は知らなかった。




