悪魔の化身
「……全く、やってらんねえよなあ。何が何回も永遠に殺し続けるだよ、もうこちとら慣れちまったっての」
とうとう痛みというものを全く感じなくなった俺は、一人で愚痴をこぼしていた。
勿論、今も鎖につながれた状態のままである。
「なんか、助けに来るとか言ってたけどよ。もう既に三回殺されてんだぜ? 痛覚も鈍くなるっての」
昨日の夜から続き、俺は既に計三回殺されていた。
殺されたと言っても、死後の魂をゼウスがコントロールして、天界にまた戻し生き返らせているのだから、なんかそんなに意味ない気がする。
それにもう、痛覚が鈍くなってしまったのだから、苦しめるもクソもない気がしてきた。これじゃもう趣旨が違っちゃってるよね。
ゼウスは俺を苦しませようとしたかったんだろうけど、もう苦しみようがないのだからどうしようもない。
俺はため息をつきながら、真っ白な空を見上げる。
ああ、暇だ。ゲームでもあればなあ。
そんな事を考えながら、ぶつぶつと文句を言っていると。
『随分と退屈そうにしているではないか、我が主』
ほーら来た……。
アイツだ。
「お前さ、一つ訊きたかったんだけど。消えたんじゃなかったのかよ。なんでまた俺のとこに来たんだ?」
『おやおや、随分と退屈そうにしているから、こうやって来てあげたのではないですか。貴方が造り上げた『私』が、自分の意志で動ける様になったのです。折角ですから、少し話でもしましょう』
「おう、丁度退屈してたとこなんだよ」
『それはそれは、随分と好都合な事で。……おっと、ところで今現在、貴方の仲間が、貴方を救いに天界に来ようとしてるみたいですよ?』
「ええ……? アイツら、マジで来るのかよ。助けに来てくれるのはすげえありがたいんだけど、大丈夫かな……」
『ええ、大丈夫じゃないと思いますよ』
「……なんで?」
『気になりますか、では教えて差し上げましょう。未来を知っている、この私が。……結論から言ってしまうと、貴方の仲間達は三時間後には殺される事になりますかね』
「……!? なんでだよ」
『天使達にまとめて始末されるからに決まってるじゃないですか。大体、天界というのは、かなりの広さがあるのです。魔法でランダムで天界に来たとしても、この拷問部屋にたどり着くのには二時間ほど掛かるでしょう。移動でただでさえ疲れているのに、そこに天使の集団なんてやって来たら、とても戦えたもんじゃありませんよ』
「……どうすれば、助けられる?」
『さあ、それは貴方次第でしょうね。未来を、変える事の出来る能力が貴方にあるなら、の話ですが。……というよりも、貴方のその態度に、私は先ほどから違和感を感じているのですが』
「……え? 何が?」
『最初にお会いした時よりも、随分と落ち着いているではないですか。貴方を安心させたのは、一体何なんですか?』
「……さあな」
『……そうですか。まあ私としては、大体予想はついてるんですけどね。……おっと、もう時間だ、『地獄』へと戻らなくては』
「なんだ、もう行くのか」
『ええ、私も暇じゃないのでね。……魔王サタンに仕える、悪魔の化身として』
「……え? 今、何て――――?」
『ではさようなら、我が主。また次の良き夢でお会いしましょう』




