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小さな一歩(レイン視点)

「……いいですか、皆さん。今から、京夜さん救出作戦を実行します」

 私は急速にパーティーメンバーの皆さんを集めて、そう言う。

 私達は、京夜さんを救うべく―――パーティーメンバー全員を集めて、作戦会議をしていた。

 ちなみにパーティーメンバーの他に、協力者としてレーディルさんにも来てもらっている。

 レーディルさんは城での仕事が忙しかったそうなのだが、特別に許可を得てここまで来てもらったそうだ。

 私は改めてレーディルさんに頭を下げると、皆さんに向き直る。


「京夜さんは、恐らく天界の、ゼウスの拷問部屋にいるハズです。先ほどレーディルさんの魔法を使ってテレパシーを送った時に、かすかにゼウスの声が聞こえたので。……時間がありません、皆さん、協力してくれますか?」

「協力しないワケないじゃないの」 

 そう言って前に出たのは、アルゼルトさんだった。

 アルゼルトさんは腰に手を当て、私の代わりに宣言する。


「いいわね、あんたたち! 京夜を救出するためよ。絶対成功させるわよ!」

 その言葉に、場にいた全員が「おーっ!」とやる気に満ちた声を上げた。

 この緊急事態でも、こうやってやる気を出せるところが、皆さんのいいところなのかもしれない。

 私はいつもと変わらない仲間達の様子にホッとしながら、レーディルさんに「お願いします」と頼んだ。

 するとレーディルさんは素直に頷き、私達のすぐ傍に、天界へ行くための巨大な魔法陣を張る。


「いいか、汝ら。まず天界に着いたら、ゼウスの手下の天使達を躱しながら、迅速に拷問部屋へと向かうぞ。なるべく上級者の天使達は避けるようにしてな。……レイン、京夜と会話した感じだと、ゾンビは全て駆逐されたようなのであろう?」

 クイッとフードの裾を持ち上げるレーディルさんに、私は「はい」と頷いた。

 以前レーディルさん達がゾンビの群れを天界に送ってしまったらしいのだが、それも全て駆逐されてしまったらしい。

 少しでも数が残っていたら、天使達の足止めに利用できるかと思っていたのだが、まあそれは仕方がない。

 私が少し不安になりながら京夜さんの事を心配していると、レーディルさんが、落ち着いた口調で。


「では汝ら、この魔法陣に入れ。天界のどこにワープするかは我も分からんが、天界へ行く方法はこれしかない。もし天使と鉢合わせになれば、全力で戦うように」

 レーディルさんの言葉に、コハクさんが「私の矢で、一撃で仕留めてやる」と弓を手に持ちながら応えた。

 そのコハクさんの一言で、メンバー全員が「私が一撃で仕留めるの!」だの「私が!」だの、争いが起こり始めている。

 私は苦笑いを浮かべながらも、横目でレーディルさんを一瞥する。

 すると、レーディルさんは。


「……全くこやつらは、何故、天界という場所にすら行ったことがないのにこんなに余裕そうなのだ。それほどまでに自信があるのか、ただの馬鹿なのか……。ほら、入った入った!」

 そのレーディルさんの言葉に、慌てて私も魔法陣の中へ入った。

 やっぱりレーディルさんは凄いなあ……。魔法もしっかり使いこなせているし、皆さんをまとめるのも上手い。

 普段はニマニマしてるただの変態かと思っていたけれど、いざという時には頼りになるものだ。

 

 ……それに比べて、私はどうなんだろうか。

 一度京夜さんが、魔法を使えるようになったじゃないかと褒めてくれたが、まだ私、全然成長してない。

 私は、誰かの力になれるのだろうか。足手まといに、ならないだろうか。

 どうしようもない不安が、私の心を蝕んでいく。

 ―――私のせいかもしれないのに。私のせいで、京夜さんが危険な目に遭ってるのかもしれないのに。

 以前京夜さんに泣きついてしまった時も、きっと京夜さんは困っていたんだと思う。

 ……迷惑かけてばかりだなあ、私。全然……強くなんかなれないなあ。

 

「わっ、レイン!? どうしたの!?」

 気付けば、私は泣いていたらしい。アークさんに声を掛けられ、私は慌てて服の裾で涙を拭った。

 ……ホラ、また迷惑かけてしまった。どうして、変わる事ができないのだろう。

 私が何とも言えない虚無感に襲われていると、アークさんは、私の肩を叩き。


「……解るよ。心配なんでしょ、きょーやの事が。私だってそうだもん。お互い心配なのは一緒なんだからさ、力合わせよう?」

「え、で、でも……」

「泣いてたって、しょうがないよ? 泣いてたって、きょーやは救えないよ?」

 アークさんのハッキリした言葉に、私は我に返った。

 確かに……。泣いてたって、何も変われない。

 アークさんは私に「だからさ、頑張ろう?」と付け足し、背に持っていた魔法杖を抜き取った。


「ありがとう……ございます」


 私は小さく呟くと、レーディルさんに「それじゃあ、お願いします」と出発合図の言葉を送った。

 変われない事もあると思うけど、せめて、泣くのはもうやめにしよう。

 私は、しっかりとその想いを胸に刻んだ。

 京夜さんを、助けなきゃ―――いや、助けるんだ。

 

「……それでは、行くぞ。『エリトリック・クリア』」


 レーディルさんの呪文と共に、私達の身体は光に包まれ――――

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