何者?
……やはり、他のハンター達と同様に、逃げておけばよかったのだろうか。
俺は襲い掛かってくる大剣を紙一重で避けながら、そんな悠長な事を考えていた。
ティール達はどこに行ったのだろうか。アイツらも逃げてしまったのだろうか。
粛々と剣を振るう騎士達を見ながら、俺はため息をつく。
「……やっぱ、厄介事ってのは、この世界が一番多いよな」
俺は後ろに下がると、小さく鼻で笑った。
その様子を怪訝に思ったのか、赤い騎士がこちらに剣を向けながら。
「……なんだ? 悪魔の姿に変身したり、戦闘中に笑ったり。貴様は、一体何者なんだ?」
「解んねえよ、そんなの」
俺は小さくそう答え、翼を大きく広げる。
よくある質問だ。「お前は、一体何者なんだ?」。
自分が何者だなんて、正確に解るハズが無い。
人間だと思えば人間だし、悪魔だと思えば悪魔だ。それ以外の答えは、あいにく俺には思いつかない。
自分の事なんて、今は知らなくてもいいと思う。きっといつか、解る日が来ると思うのだ。
「……もういい。貴様の事はよく解らんが、ただ倒せばいいだけだ」
赤い騎士がそう言うと、他の二人も俺に剣を向けてきた。
……あーあ、大丈夫かな、コレ。また死んだりしないといいけど。
いや、大丈夫か。俺は死なない。いや、死ねないな。
死ねない理由は、たくさんあるのだ。前に一度死んで生き返った時、皆、相当泣き喚いてきたしなあ。
また泣き喚いてこられるのもめんどくさいしな。それに、また生き返れるかどうかも分からない。
先程の戦闘で分かった。この騎士達は、かなり強い。
悪魔化しても躱すのがギリギリなくらいだ。並みの人間じゃ、多分瞬殺されていることだろう。
……でも――――そうか。だからこそ、俺が頑張らなくちゃならないのか。
随分と皮肉な話だが、戦わないという考えには、不思議と至らなかった。




