銃使いのニート京夜さん
午後7時。
俺たちは春祭りとやらに参加すべく、外へと出ていたのだが……。
「……なんで着物なんだよ」
「え? お祭りですから、着物着るのが普通なんじゃないんですか? この魔法神レインの着物姿……! どうです? 可愛いですか?」
「……ああ、うん」
そう、俺たちの格好は着物である。
春祭りに行くなら、という事で宿の人が着物を貸してくれた。
なので今の俺の格好は、着物と、一応護身用のスパエメちゃんソードを腰からぶら下げるという、なんか和風の格好である。
着物着るんなら普通夏祭りだろって思うんだが、異世界では祭りの時には着物を着るのが普通なんだとか。
まあ、別に旅館に泊まる時とかも浴衣とかは着てたし、別にいいけど。
というかもう異世界なのに日本の服があるって時点で、おかしいと思うんだが。
「おーい! 京夜ー!!」
俺が疑問に思っていると、遠くからレイトの声が聞こえてきた。
声のした方向に視線を向けると――――――そこにはガルド、アースの姿もある。
「おう、お前ら。俺春祭りとやらは知らないんだけど、具体的に何やんの?」
「いや、フツーに屋台回ったりとか、夜桜見たりとか。祭りだよ祭り」
「…………」
ガルドの言葉に、俺はとうとう何が何だか分かんなくなってきた。
だって、完全にやることが日本と同じなんだもん。もうここ異世界なの? 日本なの? 何なの?
そして当然、ガルド達も着物姿である。
……何故異世界に来て、日本の祭りに参加しなくてはならないのか。
意味分かんねえよ、もう。
「京夜、今夜は楽しもうぜ? ……それと、後でちょっと話があるから、付き合ってくれよ」
「? ……おう」
突如真剣な表情になったアースに、俺は首を傾げながらも頷いた。
話ってなんだ。何故俺限定?
……まあ、もうなんかどうでもいいけど。
「それじゃあ、行こうぜ!」
俺はガルド達の後をついて行きながら、この意味の分からない世界の事について考えていた。
■
「京夜さん、アレ取ってください、アレ!」
俺たちが屋台を回っていると、クイクイとライアが俺の裾を引っ張ってきた。
ライアが指さした先を見てみると―――――そこには、射的の屋台にある……熊のぬいぐるみ。
「いや、別にいいんだけどさ? 俺、最近どうも熊が苦手なんだよ。風呂に入ったら何かと熊に遭遇するし、クエスト行っても熊に遭遇するしで、怖いんだよ」
「でも、あの子は可愛いですよ? あのキュートな眼差しを見てください!」
「……俺には血に飢えた野獣の目にしか見えねえんだけどな」
俺はそう言いながらも、射的の屋台に置いてあったコルク銃を取る。
俺、動物嫌いなんだけど?
そんな事を思っていると―――――ふと、アルゼルトとシオンの姿がないことに気が付いた。
人も多いし騒がしいので、余計に見つかりくい。
「あれ? アイツらは?」
「なんか見たい所があるって言ってどっか行っちゃいました」
俺の言葉に、レインが説明してくれる。
見たい所……?
まあいいや。今は取りあえずあの血に飢えた熊にコルクをお見舞いしてやるとしよう。
俺は屋台の人に金を渡しながら、コルク銃を構える。
ふっ、あんなん楽勝だ。
「それっ!」
俺の放った弾は、見事に熊の腹に当たり、熊はポトリと台から落ちた。
それに、コハクが感心したような声を上げ。
「……すごいな。弓使いでもないのに、一発で成功させるとは」
「まあな。こう見えても、銃の扱いは上手いんだ。……てか、お前がやればよかったじゃねえか」
言いながら、俺は落ちた熊をライアに手渡す。
それを受け取ったライアは、嬉しそうに目を輝かせ、ギュッとその熊を抱いた。
……子どもか、コイツは。
だがまあ、俺は銃の扱いだけは得意なのだ。
ゲームで伊達に銃だけを使っていたワケじゃない。たとえゲームでも集中して行っていれば、現実にも生かせるってもんよ。
ネット友達からは「銃使いのニート京夜さん」なんて呼ばれていた。ニートは余計だが。
「きょーや、次私にも取って!」
目を輝かせながら、アークが俺にコルク銃を手渡してくる。
……って、俺が全部やんの!?




