音楽神セイレーン
少女の言葉に、俺はサササっと距離を取る。
「な、なああんな子が魔王グループの幹部なのか? なんか音楽神とか言ってたけど」
「ふむ、私の嗅覚によると何やらとてつもない力を感じるな。魔のニオイがする」
「お前が酔ってるだけだろそれは」
未だ二日酔いぎみのコハクの頭を引っ叩きながら、俺はセイレーンと名乗った少女の方に目を向けた。
嘘だ。あんな子を殺せと言うのか?
無理無理無理無理。無理。
あっきから俺に悲しそうな視線を向けてるセイレーン。殺す? 無理無理無理無理。
しかしそんな俺の思いとは裏腹に、シオンが。
「京夜お兄ちゃん、いくら可愛くても魔王グループの幹部は幹部。殺さなければなりません。……お母さん、あの人を知っていますか?」
「さあ? あんな子いたかしら」
元魔王グループ幹部のアルゼルトだが、セイレーンの事は知らなかったらしい。
よし、ここは見なかったことにして撤退しよう。だってあんな子殺すの無理だもん。
「でも京夜お兄ちゃんは、モンスターである私たちも殺しませんでしたよね。確かにそうとなれば、ここは公平に見逃してあげるべきなのかもしれませんが――――――」
シオンがそこまで言いかけた、その時だった。
突如セリレーンが、大きく息を吸い込み――――――
「ヒャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「「「「「「「……ッ!?」」」」」」」
突如響いた超音波に、俺たちは頭を抑えて崩れ落ちた。
な、なんだ。何が起こった。
痛む頭を押さえながら、俺がセイレーンの方を見ると。
「私は音楽神。超音波を出して、戦います。貴方たちがハンターであるというのならば、見逃すわけにはいきません。――――――特に、そこのくせ毛さん」
「……せめてくせ毛の後に男とかつけてくれ。人間じゃねえみたいじゃん」
俺はよっこらせと起き上がると、改めてセイレーンの方を見る。
なんかやっぱ幹部って感じだなあ。さっきまで俺がセイレーンに抱いた第一印象は「大人しい美少女」だったのに。
でもやっぱ殺せないわ。人間としてダメな気がする。
それに、アイツも言ってたしなあ。力の使いどころを間違えるなとか、どうのとか。
「なあ、ここはまず話し合おうぜ。俺は極力生物は殺したくな――――――」
「ヒャオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ッ……!?」
……やっぱ戦います。




