ありがとう
「ん? 何もしてないよ? どうしたのかな?」
「……そうか」
俺は笑顔で平静を装いながら、布団に潜る。
無鉄砲な事をしてしまった。絶対こんな事やってたらコハクが起きるって、何故分からなかった俺!
まあでもいい感じに誤魔化せたっぽいので、よしとしよう。
「……何で俺の布団に入ってくるのか訊いても?」
無言で俺の布団に入ってくるコハクに、俺は訊く。
「……む? いいじゃないか、寒いんだ」
「もうとっくに春になってるんですけど?」
「……うるさい」
俺は布団の中で足を蹴られ、大人しくなった。
何故こんな真夜中に布団に入ってこられて逆ギレされなくてはならないのか。もうホント酷いよね。ね。
「でもお前、酒飲んだ割には案外大丈夫そうじゃねえか」
「ふん、舐めるな。お前が私に無理矢理ワインを飲ませたという事もしっかり覚えているぞ」
「ごめん前言撤回。やっぱお前酔ってるわ」
バッチリ酔っていた。サラッと人のせいにしやがって。
「お前、近いって。暑苦しいから離れろ」
「いいじゃないか。というより、私はまだ眠れないから、少し話でもしないか?」
「嫌です」
「……私が何故このチームに入ったのかを、京夜は覚えてるか?」
俺の意見を無視して、コハクはそんな事を訊いてきた。
「……覚えてるよ。確か、ゼルドギアを倒した俺に敬意を抱いて入ったんだろ?」
「うむ、その通りだ。……実は私は子どもの頃、ゼルドギアに襲われたことがあるのだ。あれ以来、ゼルドギアが恐ろしく見えて仕方がなくてなあ……」
そこで言葉を切って懐かし気に微笑むコハク。
ふーん、そんな事があったのか。知らなかった。
「で、街でゼルドギアを倒したというお前の情報が入ってだな……。私は喜んで京夜の元に向かったんだが、あまり私の思っていた奴とは違っていて……。私がお前に抱いた第一印象は、くせ毛が目立つダメ男だった」
「悪かったな。俺は勇者でもなんでもないし、ただのハンターだよ」
俺、そんなにくせ毛酷いかなあ。そうでもないと思うんだけど。
コハクは笑いながら、再び話を続ける。
「でも、私は今のこのチームが好きだ。楽しいし、今のお前といれば飽きない。だから、京夜―――――」
そう言ってコハクは、真っすぐと俺に顔を向けながら。
「私をこのチームに入れてくれて、ありがとな」
……。
……ヤダ、何このラブコメチックな状況。
な、何コレ。照れるんですけど。
なんか恥ずかしくなった俺は、適当に言葉を探す。
「お、お礼は俺だけじゃなくて、他の奴らにも言えよ。ホラ、ライアとアークにも」
「そうだな。……でも、京夜には、なんやかんやでいつも世話になっているからな。面倒見もいいし。私たちの事を、いつも守ろうとしてくれてるだろ? ―――――だから、ありがとう」
そう言ってコハクは、照れながらも俺に真っすぐと視線を向けた。
やだ、何コレ恥ずかしい。青春だわ。
転生して初めての青春。テンション上がる。
俺が心の中で、興奮していると。
「……すー……」
コハクは寝息を立てて眠っていた。
……。
……ああ。
なんか、色々恥ずかしかった。




