京夜の完全犯罪
ガルド達と別れると、俺たちは宿に戻った。
風呂も入ったので、後は眠るのみである。
「コハクはどうせ二日酔いだろうしなあ……。お前ら、今日は早く寝ろよ? 明日何があるか分かんねえんだから」
俺はそう言うと、コハクを別の布団に寝かせ、歯を磨き始めた。
コイツら、夜まで起きてナイトフィーバーしてる事があるから困る。こっちの事も考えろっての。
……まあ、寝られたら寝られたで腹だの顔面だの蹴られるワケだが。
「京夜さーん、もう私ハンターやめていいですか? 毎日こんな感じだと流石に疲れるんですけど」
「お前はもっとハンターという職業に貢献しろ。……まあ、俺が言えるセリフじゃないけどな」
「でも私たち、眠くないわよね?」
「そうですよ。まだまだ起きてられます」
「よーし、深夜2時まで起きてよう!」
「夜までフィーバーです!」
「やめてくれ」
俺は即答すると、口を濯ぎ、部屋の電気を消した。
ふう、なんか今日は疲れた。早く寝よう。
「「「「「……すかー……」」」」」
すると隣から、皆の寝息が聞こえてきた。
開始1分も経ってねえぞ。さっきまでの深夜2時宣言はどこへやら。
が、当然俺はまだまだ眠れない。
「ごぎゃぶっ!?」
アークの見事な腹部への蹴り。
あかん。呼吸ができない。
「なあああああああああ!?」
そしてレインから、顔面へのグーパンチ。
いくら眠っているとはいえ、女の子からのグーパンチは辛いよ。色んな意味で。
「はがうっ!?」
そして、アルゼルトから一番喰らいたくない部分に攻撃が来た。
股間から腹部に痛みが移り、俺は何とかして意識を保つ。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」
そして、シオンの首絞め。
ぐすっ、苦しいよ。もうニートに帰りたいよお。
「あああああああああああああああっ!!」
そして最後は、ライアの渾身の目つぶしで終わった。
しかしまあ、意識が保っていられただけでも上出来だろう。本来ならこのまま力尽きて眠るのだが、今回は何とか耐えた。
「…………」
―――――――が、流石に嫌気がさしてきた。
おかしいと思うんだ、こんなの。毎日こんなんばっか。
そろそろまともな美少女から告白されたりとかそういうイベントが起きたりすると思うんだけど。
「……」
そこで、俺は取りあえずこの毎日の恒例行事となっている、真夜中力尽きて寝ちゃう現象をどうにかしたいと思った。
実を言うと、作戦は前から考えていた。いたのだが、勇気が無くて中々実行に移せなかったのである。
だが、もう我慢の限界だ。
「……『カールド・フィース』」
俺は小声で創造魔法を唱えた。
そう、俺が創造した物は――――――ロープである。頑丈なロープ。
「……よし」
俺はそれを皆の布団と身体にしっかりと巻き付けると、布団から起き上がり、ある物を取って来た。
それは―――――透明マ✕トの、液体版。
これは前にレインが買って来てくれた物で、物に付けるとそれを透明化させる効果がある。
全く、便利な物があるものだ。これを作ってくれた人に、深く感謝しよう。
俺はロープに透明液を塗り終わると、再び自分の布団へと潜った。
――――――完全犯罪、完了。
朝起きれば皆は、布団から起き上がれなくてえーんえーんと泣き喚く事になるだろう。
仮にバレたとしても、白を切ってとぼければいい。俺は何もしてない、ってな。
そしてロープを巻かれた時の皆の姿がちょっとエロ……いえ、なんでもありません。
俺は紳士な男。あのくらいじゃ動じない。
いや、実を言うとさりげなく皆の体の色んな所を触……ってませんよ?
いや、ホントにね。うん。
まあ、これでちょっとスッキリした。毎日毎日腹だの顔面だのアソコだのを蹴られる俺の身にもなれってんだ。
このくらいの仕返しじゃ、バチも当たらないだろう。
――――――が、しかし。
「京夜……何をしてたんだ……?」
後ろから聞こえるコハクの声。
……おおう、コイツを忘れてた。
ちょっと休憩します。2~3時間程。




