紫ドラゴンvs京夜
地面へと崩れ落ちた龍は、そのまま苦しそうにバタバタともがき出した。
「『ウォータースパイラル・フリーズカインド』!」
取りあえず最上級の氷水魔法。
そろそろ体力が落ち始めてきたが、取りあえずドラゴンを冷凍することは完了した。
―――――が。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「えええええええ!? マジか、氷水魔法効かねえのかよ!」
氷を破って抜け出した龍は、すぐさま俺に向かって襲い掛かって来た。
あかん。俺に撃てる最上級の氷水魔法が効かない。これもうダメだ。
「お前ら! 後は任せたぞ!」
「ええっ! お、お前! 他力本願にも程があるだろ!? 帰って来い!」
「もう俺は疲れたんだよ! なんで俺たちだけ戦わなくちゃならないんだよ!」
「魔法使い達は逃げてしまったが、ここは私たちだけでも――――――」
コハクがそう言いかけた、その時だった。
近くの木陰から、ガサガサと大勢の魔法使い達が現れて。
そして、俺たちに向かって、一人の男の魔法使いが言う。
「おいお前さん達! 俺たちはこんぐらいで逃げるほど弱っちい奴らじゃねえぜ! さっきはビビってついつい逃げちまったが、お前さん達がいれば怖くねえ! お前ら、行くぞオオオオオオ!!」
『オオオオオオオオオオオオッ!!』
大勢の魔法使い達が同時に叫び、龍に向かって突っ込んでった。
……ええ~。
ヤダ、何この帰っちゃいけないみたいな雰囲気。俺もう帰るわよ。
しかし、そんな中コハクが。
「……京夜。戦ってくれるな?」
……仕方がない。
「……はあ。分かったよ。でもなんかアイツ、まだピンピンしてるし正直言って勝算無さそうなんだけど?」
「やってみるしかないだろう。力を合わせれば何とかなる」
酒を飲んだら超暴れ出すこと以外は優秀な弓使いが、ニッコリと微笑んだ。
こうなったら何とかするしかない。
しかし数十人の魔法使い達が、龍によって吹っ飛ばされる。
「ぐあああああああああああっ!!」
「ぐっ……!」
凶暴化した龍は、地上で暴れまわっていた。
いつの間にか俺以外の奴らは全滅。……え? 何コレ。
何故か皆もやられちゃってる。地面にうつ伏せに倒れたまま動いてない。
ヤバイと思った俺は、回復魔法を皆に使おうとしたが、それをレインによって止められた。
「あ、大丈夫です。皆、命の危険を感じて死んだフリをしているだけなので。……まあ、魔法使い達のケガは本物でしょうけど」
「おいちょっと待て。何やってんだよお前ら。……いや、お前らが死んだフリしてたってことは、間違いなく狙いの対象は―――――」
俺の予想は的中した。
龍は俺めがけて一直線に走り出す。
龍なので表情はよく分からないハズなのに、鬼の形相になっているということが今の俺には分かった。
――――ただ、今はそんな事どうでもいい。
「お前さん……。お前さんが最後の砦だ、頑張ってくれ……」
「お、おい待てよ! 死ぬんじゃねーぞ!?」
先ほど俺に笑いかけてきた男が、力なくそう呟く。
俺は何とか一直線に走り出してきた龍の攻撃を避けると、距離を取った。
――――そんな中、俺の後ろにいたライアが。
「きょ、京夜さん! モーイド・バスターがまだ完全には討伐しきれてなかったようなんですけど! 50匹ぐらいが私たちに向かって襲って来てるんですけど!」
「京夜! これちょっとヤバいわよ!」
なるほど、さっきアークの必殺魔法でぶっ飛ばしたのが150匹ぐらいだから、そのくらいは残っていてもおかしくない。
「……お前ら、死んだフリでもしてスライム粘液まみれにでもされてろよ。龍との戦いが終わったら、俺がまた理科の授業をしてあげるから。お前らとスライムを使って実験してやる」
「やめてください! うわああああこっち来たああああ!!」
俺はゴキブリバスターと戦う皆を見届けながら、スパエメちゃんソードを龍に向かって構えた。
……って、ちょっと待ってくれ。
……なんで俺一人で戦うみたいな流れになってんの?




