村長の威圧感
「…………」
「…………」
村長の家にて。
俺たちは村長の真正面に座りながら、ただただじっとしていた。
村長は、白髪白鬚のお爺さんだ。こっちの方が神様に似合いそうな感じである。
しかし威圧感が半端じゃないのだ。この人、ハッキリ言ってものすごく怖い。
なんかさっきから「儂が口を開くまで喋るでない」オーラを醸し出しているのである。怖い。
俺たちが黙って座っていると、ようやく村長が口を開いてくれた。
「……君たちは、ハンターの者かね?」
「あ、はい! おっしゃる通りです……?」
肯定か否定かよく分からない返事をしてから、俺はモンスター2匹ニセ魔法神1人の方を見た。
コイツらはハンターじゃないが……まあもういいや。ハンターってことにしちまおう。
すると村長が、ゆっくりと口を開き。
「そうか。……そちらの方は、魔法神レイン様かね? どうも、アールドハンクの村に来ていただき、ありがとうございます」
「あ、いえ……」
あまりにも重々しい雰囲気なので、流石にそこはレインも空気を読んだようだ。
誰かこの村長の威圧感をどうにかしてくれ。怖すぎる。
それを察したのか、コトネがわざとらしい明るい声で。
「でもレイン様、人間界の方に降臨するなんて……ありがとうございます! な、何か理由とかあるんですか?」
「え? いやあ……色々あって、人間界に遊びに行こうかなーと思いまして」
……適当だなあ、オイ!
まあ神様がどうとか言ったら面倒くさいことになるとは思ったが。でも、遊びに行こうかなって、随分と悠々自適な考え方である。
「……取りあえず、魔法神レイン様。来ていただき、ありがとうございます。……今回は君たちに、少し話があってだな」
「は、はあ……」
俺が重々しい雰囲気に流されながらも、そう返事すると。
「コトネから既に聞いているとは思うが……最近この村に、魔物モンスターの襲撃があってだな。村にいる魔法使いで何とかその時は喰い止めたんだが……今後、再び襲ってくる可能性が高い。……それで、非常に厚かましいのだが、上級者のハンターである君たちに協力してもらいたいと……」
「……」
レベルの割には殆ど成長していない俺たちに、魔物モンスターだと?
いや、過去に俺は2匹程倒している。が、悪魔化でもしない限り無理だったと思うんだが。
「なあコハク。お前大分前に、弓でライオンみたいな魔物モンスター倒してたじゃねえか。お前なら楽勝なんじゃねえの?」
「いや、あの魔物モンスターは、凶暴化でない個体だったから何とか不意打ちで仕留められたんだ。この時期だと、繁殖期が過ぎたとはいえやはり凶暴化している個体が多い。……あの、ちなみにどれくらいの数の魔物モンスターが襲撃して来たのか伺ってみても……」
コハクが、そう村長に訊ねると。
「120匹程だな」
「「「「「「なっ!?」」」」」」
今、聞こえてはいけない単語が聞こえてきた。
120……!? 無理だろ。
「大丈夫だ、何も君たちに全てを押し付ける気はない。村の魔法使い達にも協力してもらうからな。……ただ、魔王グループの幹部には気を付けた方がいい。奇妙な動きをし、瞬間移動するとの情報も入っている」
「……。……分かり、ました?」
ちなみに全く分かってない。
瞬間移動? その間に瞬殺されそうな気がするんだが。
俺が焦っていると、レインが自信満々の表情で。
「大丈夫ですよ! 私たちが何とかしてみますから!」
何を言っているんでしょうかこの人は。魔法を使えない魔法神が魔法の村まで来て、何を言っちゃってるんでしょうか。
そんなレインに、村長が小さく笑い。
「レイン様。貴方は、魔法を創造している際に、不意の事故で死んでしまったとの言い伝えがあります。貴方が一度死んでしまったというなら、魔法はさぞかし使えなくなっているんだと思いますが……」
「あ、はい……」
村長の言葉に、レインは小さく返事して肩をすくめた。
というか、一度死んだ人に出会ってるというのに、随分と冷静である。昔から天国があると信じていたからなのだろうか。
今思えば、皆もレインに何か訊いたりはしてなかった気がする。魔法神レイン様とか皆最初言ってたけど、2日後には呼び捨てになっていた。
……まあ、レインには神聖さの一つも感じられないし、無理もないが。
そんな中、村長がレインに向かってゆっくりと。
「せっかく魔法の村アールドハンクに来たのですから、魔法使い達に魔法を教えてもらったらどうですか? 魔法神レイン様が来てくださったことを村の魔法使い達が知れば、きっと喜んで教えてくれると思いますよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
優しい人、多いなあ。




