ネバネバスライム
「なあああああああああああああああああああああ!?」
よし、無理だ諦めよう。
飛ぶなんて聞いてない。怖い。
「お前ら! 後は任せたぞ!」
「何逃げようとしてるんですか! 京夜お兄ちゃんは、創造魔法で短剣作って刺しててください! 私も魔法で協力しますから!」
シオンが俺に言いながら、魔法を唱える。
「『ダーク・オブ・ブラスト』!」
シオンの放った闇の魔法が、ゴキブリへと炸裂した――――――!
が。
「……あれ。なんか魔法が効かないんですが」
「……あ。そういえばモーイド・バスターは、硬い皮膚で直接的な攻撃を無効化すると聞きます。……多分、魔法も剣も大した効果は出ないかと……」
「よし逃げようか」
チートじゃん。無理ゲーじゃん。
俺はゆっくりと右足を前に出すと、走り出した。
「あばよっ!!」
「ああ!? ちょっと待ってくださ……ひゃあああああああああああああ!!」
……何だろう、今の悲鳴は。
ちょっと気になったので、俺が足を止め振り返ると。
「粘液がああああ!! ひゃっ、ああああああ!!」
「ネバネバする! 何コレ!?」
何アレエロい。
俺は踵を返し皆の元に戻ると、その様子をニマニマと鑑賞する。
「ちょっと京夜さん、見てないで助けてください! レーディルさんみたいになってますよ!?」
「俺とアイツは違う。アイツは表面的な変態だが、俺は裏面的な変態だ。他人に迷惑をかけていない」
「きょーや、早く! 『ウォーター・リフレイン』!」
「ッ……! ああもう、分かったよ……」
俺はよっこらせと立ち上がり、傍にあった粘液を確認した。
それを手につけてみると。
「……なんかコレ、粘液っていうよりはスライムみたいだな。理科の実験で使えそう」
「いいから、早く助けて!」
「さあ、理科の授業の時間だよ! 1時限目は京夜先生です! さあ、皆席に着いて?」
「先生! ネバネバしてるので席に着けません!」
「そうかそうか。……ならば廊下に立ってなさい!」
「理不尽ッ!?」
ノリのいいアークをニマニマと鑑賞しながら、俺はどうすればいいか考え始めた。
助けると言っても、こんなにもネバネバだとどうしようもない。浄化でもできればいいんだが……。
……あ、浄化か。その手があったわ。
「『ブルー・ラガード』!」
俺は魔法ガイドブックに書いてあった初級の浄化魔法を唱えた。
予想通りスライムは水へと浄化され、皆の身体が自由になる。
するとレインが泣きながら俺に抱き着いてきた。
「うわあああああああああああ!! 京夜さああああああん!」
「うおっ、お前ネバネバしてた体で抱き着くな! 浄化されたと分かってても気持ち悪いんだよ! ……ってああ、お前らまでどうしたよ!?」
「あ、アイツはキモすぎる……。女の子をスライム粘液でネバネバにするなんて……」
「……」
ゴキブリにスライムを発射されて身体を粘液まみれにされた、か。うん、確かにキモイね。
「仕方ないわね。ここは私が殺るわ」
そう言って、アルゼルトが前に出た。
その姿は、とても勇ましい。勇ましいんだが……。
「……お前、その格好どうにかならんか」
「うるさいわね、着替える時間が無かったのよ。アールドハンクに着いたら着替えるわ」
アルゼルトの着ている私服は、ヒラヒラとしているスカートの、なんかいかにも女の子っぽい格好である。なので、微塵も恐怖は感じられない。
だがしかし、アルゼルトは余裕の表情で。
「私を誰だと思ってるの? 魔王グループの元幹部、アルゼルト様よ? モーイド・バスター! 死になさいっ、『ダークネス・オブ・ブレイド』ッ!!」
アルゼルトの放った魔法が、辺り一面の木々を吹き飛ばした――――――!




