別世界、突入
「……なにコレ」
俺はてっきり、目が覚めたら、どっかの家の部屋の中だと、思い込んでいた。
が、しかし。
俺が今現在いる場所は。
「……え? 飛行機……の上?」
そう。
なぜか俺は今、飛行機の中に乗っているわけでなく、飛行機そのものに乗っていた。
いや待って、おかしいから。
だってさ、気が付いたら飛行機の上だよ?
……死ぬからね!?
「ちょっ……はああ!? ふざけんなっ……」
俺は必死で飛行機にしがみつこうとするが、思う様にいかない。
それどころか手がしびれ、もう落ちそうだ。
いやマジで、意味わかんねえ。ニートの筋力の無さを舐めんじゃねえぞ。
ひぎゃあああ! 腕ちぎれるうううアア!!
待て、待て待て待て待て。おかしい。既におかしい。
というか、死んだという時点であんなに落ち着いていた俺をもっと誰か褒めてくれてもいいと思う。死んだという事を素直に受け入れ、転生したというのに。
それがなんだ。いきなり飛行機スタートだわ。
……流石に嫌になってくるよ。
「くっ……そっ……」
つい先ほどはオッサンの「転生する」という意見に承服し、光に飲まれたのは覚えているよ?
だがしかし、スタートがこれじゃあ、ゲームオーバー確定だ。
俺の脳内にはゲームの終盤BGMが流れ込んでいる。
理不尽。なんて理不尽なスタートなんだ。
ひょっとしてさっきの俺の部屋スタートの考えは、死亡フラグだったのだろうか。
「どこの無理ゲーだよっ……ってうわああああああ!!」
ついに俺は飛行機の速度に耐え切れなくなり、空中へと豪快にダイブしていった。
でもちょっと気持ちいい。
落ちちゃった事は、ニートの筋力じゃ仕方ないかあ……って、俺が悪いのか!?
……でもまあ、さようなら、俺の第二の人生。
ホント、ろくなことなかったですけど。
俺がまた過去にあったことを振り返っていた、その時だった。
……なーんか肩の辺りがムズムズして……。
―――――そう思った直後、俺は覚醒した。
「うおおおおおおおおお!? なんですかコレええええええ!!」
自分でも現状を把握できていなかった。
なぜか俺の肩甲骨あたりからは、先ほど見た悪魔のオッサンのような、翼が生えていたのだ。
いやもうマジでわかりません。ホントに分からない、どうすればいいんだろう。
ただでさえ飛行機スタートで頭が回らないのに、悪魔の翼だなんて。
……もういいや。知らん、もーホント……知らん!!
「ホントよく分かんねえけど、まあいいや!! アハハハハwwww」
とうとう頭がおかしくなった俺は、空中で狂い始めた。
こうなってしまっても仕方ないと思う。だって、ワケわかんないもん。
しかしこれが、俺の異世界生活の始めの一歩となった――――――
■
「ヤベえ、これどうやって戻すんだ?」
ちょっと気持ちいいとはしゃいでいたが、突如それがどうしようもない虚無感に変わり、俺は冷静さを取り戻した。
よく見てみたら、翼だけでなく、手や足、それに尻尾まで生えて、体はすっかり悪魔化してしまっている。どうすればいいんだろう。
いっそこのままどっかの街まで飛び込んではしゃいでみようか。
……いやダメだ。バカか俺は。そんなヤツが居てたまるか。
考えているのもつかの間、俺はとうとう地上へと着いてしまった。
幸い、降りた場所は人気のない森だったので、とりあえず安心する。
「……さて。どうしたもんかな」
俺は近くの岩場に座り、考え始めた。
おそらくこの能力を発揮できたということは、元に戻す方法もあるということである。
俺は考えた末、とりあえず精神を研ぎ澄ましてみることにしてみた。
「戻れ戻れ戻れ戻れ……」
それを5分ほど続けていたが、当然、元に戻ることはない。
むう……ならば感情を表してみよう。
これはあくまで俺の勘だが、笑ったり怒ったりすることで戻るんだと思う。
以前そういう話を漫画かアニメで見た気がする。ニートだってそれなりに学ぶことがあるのだ。
こういう時こそニート知識を試すべき時である。よし、早速やってみよう。
「わあああああーい!!! うわあああああああん!!!」
俺は全力で喜び、全力で悲しんでみた。
しかし、俺の願いもむなしく、結果は同じ。
……あれ? もうこれ詰んでない?
…………。
「くそおおおおおおお!! なんだよコレふざけてんだろ!」
ついに俺は我慢できなくなり、座っていた岩場を蹴り続けた。
酷すぎる。悪魔に死に方を指摘されるわ、体が悪魔化するわ、飛行機の上からスタートするわ。俺はニートスタートを希望してたのに。
……まあ、飛行機はちょっと気持ちよかったけど。風が心地よかった。
でも……あー、なんかすごい腹立ってきた。
八つ当たりするものが他になかったため、俺は力一杯自分の顔面を殴りつけた。
……ホントバカみたいだよね、自分でもそう思う。
―――――しかし。
すると、不思議なことに。
「……え?」
いつの間にか体は悪魔の手や足ではなくなり、人間の姿に戻っていた。
頬には殴った時の痛みが残っている。
……。
俺は一瞬で、それが何を意味してるかを把握することができた。
「――――ああ」
そして。
俺は大きく息を吸い込み、どこまでも青い大空に向かって叫ぶ。
「ただのドⅯ仕様じゃねえかあああああああああ!!!」
本当に、人生って何が起こるか分からない。
えー、ついに別世界突入ということで、お話を書かせていただきました。
あー、いいなあ、転生。僕も一度でいいのでしてみたいものです。(泣)
まだまだ初心者なのでおかしい部分あるかと思いますが、引き続き楽しく読んでいただければ幸いです。