悪魔のお別れ
突如、俺の視界は闇に染まる。
「……なあ。お前を呼んだ覚えはないんだけど?」
俺はイラつきながら、暗闇に向かって叫んだ。
すると、暗闇の中からスウッと青白い光が現れる。
『そりゃあそうであろう。私がお前の元に直接やって来たのだから』
「……俺今、天使と戦ってたんだけど? もう今すぐ殺されちゃうかもしれないぞ?」
『大丈夫だ、今は時を止めてある。それにアイツは天使ではないぞ? 騎士の形をした人間だ。死んだ人間の魂が騎士に宿っているというものだな』
「そうかそうか。じゃあなんで俺の元に来たの?」
『なに、ちょっとした別れの挨拶ついでに忠告しに来ただけだ。私も、そろそろ地獄に行く時が来たようでね』
「へー。そうですか、へえ……」
俺は適当にあしらいながら、ぐーっと身体を伸ばす。
悪魔だから地獄に戻るのは当然だと思うんだが。むしろ今まで戻ってなかったのが不思議である。
『人間。お前は今私の能力を使って、あの聖騎士を殺そうとしただろう?』
「そうだけど?」
『……ハッキリ言うが、お前の心の一部が、悪魔の心になり始めてしまっている。何のためらいもなくお前は、あの聖騎士を殺そうとしただろう? 普通人間なら、少しは殺すのをためらうハズだ』
「だって天使は、敵だろ? だったら殺さねえと」
『何故敵だと思い込む? ならば、モンスターだって『人間』の敵ではないか? 何故天使に、そこまで殺意を抱く?』
「……」
『分からないだろう? そういう事なのだ。お前の心は、悪魔になり始めている。……だから、私は地獄に帰ることにしたのだ』
「……ひょっとして、俺の心がお前に乗っ取られ始めてるってこと?」
『そういう事だ。まあ安心しろ。私がお前の身体から消えれば、心そのものは人間になる。……まあ、身体は悪魔のままだがな』
「……そうか」
そう言って、俺はふう、と息を吐いた。
思えばそうだったかもしれない。何故俺は、天使のみに殺意を抱いてたんだろう。
『まあ、完全に心が直るとは限らないけどな』
「おい。今なんつった?」
『いやいや、何でもない。……まあ、私が言いたいのは無意味に生物を殺めるなということだ。罰が当たるぞ?』
「随分温厚な考え方だな。……まあ、そんな事しないから安心しろよ」
『ほう。……まあ、お前ともこれでお別れだ。せいぜいこの世界を楽しむがいい』
「……。ま、頑張るよ。じゃあな」
『ああ』




