聖騎士vs悪魔
「ぐっ……貴様ァ!」
「……チッ」
すんでのところでかわされ、俺は小さく舌打ちをする。
……よし、こうなったら本気を出すとしよう。
「……!」
悪魔化になった俺に、ラグナロクが驚愕の表情を見せる。
もう前までの俺ではない。そう簡単に負けてたまるか。
「くっ……この厄災男め! 貴様がゾンビの魂ばかり送ってくるから……」
「そうですか」
「ッツ……!」
俺に顔面を蹴られ、ラグナロクはその場に崩れ落ちた。
俺のルールでは、天使は殺していいと決まっている。だったら手加減不要。後退不要。
足に力を込めて大空へジャンプすると、俺はラグナロクの元に高速飛行して行った。
「『ダーク・インフェルノ』!」
「舐めるな! 『サンダー・オブ・バスター』!」
魔法と魔法の押し合いで、周囲に合った木が数本倒れていった。
やるな、コイツ。ラファエル達みたいな天使3人よりよっぽど強いじゃねえか。
「貴様の事は、天界で拘束されていた時から知っていたが……まさか、こんなにも変わるとはな。悪魔という事が自覚できたか?」
「お前さ。ちょっとそのウザ男みたいな口調やめた方がいいよ? モテないよ? あとキモイよ? 死んで?」
「モテる? それは人間特有の感情だろう―――――おっと」
俺が放った氷水魔法をラグナロクは難なく避けると、「よく分からんな」と前置きしてから。
「貴様もまた、随分と変わった奴だ。体力はそんなにないハズなのに、魔法は使いこなす。まあそりゃあ悪魔だから、魔力は尋常ではないだろうが……」
「舐めんな。俺は日頃モンスターに追いかけられて生きてるんだぜ? 多少体力つかねえ方がおかしいだろ」
全く、転生してからロクな事がないよなあ。今更だけど。
俺は引き籠ってゲームができればそれでいい。滑り台で死ぬというひょんな理由で異世界になんか転生したくなかった。
いや、そりゃあ俺だって異世界だからどうのこうの期待してたよ? でもホントゲームの世界みたいに上手くいかない事ばっかだったし。
……まあ、今はなんやかんやで案外幸せなのかもしれないが。
「『ロスト・ファイアダークネス』!」
「……!? クッ……『ライト・バリア』!」
幸い、アイツに教えてもらった魔法は全て記憶してある。
俺は全力の悪魔法(?)を放ち、一端ラグナロクから距離を取る。
「き、貴様……どこにそんな能力が……」
「お答えしよう。俺は悪魔だからだ」
そう言って俺は、フッと笑いながらラグナロクを睨み付ける。
さて、仕上げといきますか。
――――――しかし。
「……がっ……!?」
前にも経験した様な頭痛が、突如俺を襲って来た。
そして、脳内に響く重い声。
『……人間。能力の使いどころを、間違えるな』




