ニマニマ幽霊は死にません!
城に戻り部屋へ入ると、俺たちはどうするべきかを話し合っていた。
とは言っても、もう大体しなければいけないことは今っている。クエストに行く、ただそれだけだ。
「さて。じゃあ取りあえず高難度のクエストをこなしていきたいところだが……」
そこまで言って俺は、未だ部屋の隅っこにいる二人と一匹の姿を見た。
酒は結局自分で持って来たらしい。コップに酒を注ぎながら、アルゼルトは俺に目を向けてきた。
うわちゃあ……シオンまで飲んじゃってるよ。顔も赤いし、絶対この後面倒くさいことになる。
「京夜お兄ちゃ~ん。お帰りです。さあ、もっと酒を持ってくるのです!」
「えへへ……京夜、持ってきなさい!」
……コイツらに水魔法ぶちかましてやろうかな。
よし、決めた。
俺はコップに超キンキンの冷たい水を注ぐと、アルゼルトに差し出した。
「ああああああああああああああ!? 超冷たいじゃないの! 酒よ、酒を持ってこいっつってんのよ!」
「うるせえ! なんでお前がキレてんだよ!? フツー怒んのはこっちだろうが!」
「早くしなさい! さもないとこの城ごとグラビティで潰すわよ! いいの!? よくないわよねえ!?」
「なんで逆ギレしてんの!? ねえ、こっちが怒りたいんですけど!?」
「早くしろおおおおおおおおおおおお!!」
「うるせええええええええええええよ!!」
叫び声が重なり、俺たちはハアハアと息を荒げた。
くっそ……コイツめ。
「てかレーディル! なんでコイツら放っておいた!? 俺のチームメンバー達は面倒くさいのが多いって、お前も分かってただろ!?」
「いや、我は他の仕事があったのでコイツらの面倒など見てられなかったのだ。まあ、しばらく放っておけばよかろう」
レーディルはニマニマしながら、酔いつぶれる二人の顔を眺めた。
……どうしよう、変態にしか見えない。
「……何見てるんですか」
「む? いやあ、子どもが酒を飲んでいる姿は微笑ましいと思ってな」
「……私13なんですが」
「ほほう。13ならまだまだ子どもだ」
……そう、シオンは先日13歳の誕生日を迎えたのだ。
まあ、まだまだ子どもだとは思うが。
……余談だが、誕生日プレゼントと思って俺が犬(猫? 分からん)のぬいぐるみをあげたんだけど、それから一日後に犬のぬいぐるみはぐしゃぐしゃになっていた。
どうやら寝ている時に潰してしまっていたらしい。いやあ、怖いね。
その後俺がなんとか修復したワケだが……ぬいぐるみが潰されてぐしゃぐしゃになるって、一体どんな圧力だったんだろうか。
まあ、本人は喜んでるみたいだし、いいけど。
俺がそんな事を思い出していると、シオンは大層お怒りの表情で。
「むう……私はモンスターなのです。貴方を今すぐ殺すことだってできますよ?」
「はっはっは! やってみるがいい! 子どもの攻撃など効かぬわ!」
「……『ゼロ・グラビティ』!」
シオンがそう唱えると、途端にレーディルの体はぐしゃっと潰れた。
……えっ。
「え、お前マジで殺した?」
「ふっ、私をからかった罰です」
そう言ってシオンは、顔を赤くしながら酒を一口。
さようなら、レーディル。さようなら、ニマニマフード。
しかし、俺がそんな事を考えていると。
「『スリープ・エンド』」
シオンの背後から、そんな声が聞こえてきた。
その声で二人は倒れると、グースカといびきをしながら眠り始める。
「全く、子どもも可愛いものであるな! はっはっは!」
平然と生き返ったレーディルは、そう言って高笑いをした。
大方、今の魔法はコイツが放ったんだろう。
「え、お前死んでないの?」
「何を言うか。我は幽霊だ、こんぐらいで死ぬワケがなかろう。……まあ取りあえず、コイツらはベッドに運んどいてやるか」
そう言うとレーディルは、軽々と二人を持ち上げ、部屋を出ていった。
変態ニマニマフードなのに死なないとか……マジかよ。




