ドSの魔法
「うう……服が……髪が……。べちょべちょするよお……」
俺の後ろを歩くアークが、そんな事を言ってきた。
私服なので、当然服もべちゃべちゃになる。
「まさか京夜さんがそこまで酷い人間だったとは……初めて知りました」
「鬼畜だ……うう、寒い……」
「おい待て、氷に包まれた俺を放っておいたお前らが言えるセリフじゃねーだろ。俺だって寒いんだ、我慢しろ」
「「「「ひゃーい……」」」」
べちょべちょになった4人は、泣き声混じりにそう答えた。
いやー、寒い。早く帰ろう。
「てかさ、なんでレーディルにわざわざ創造魔法教えてもらわなくちゃならないんだ? アイツのニマニマ顔のせいで集中できないと思うんだが」
あの後レインに創造魔法を教えてもらおうとした俺だが、「レーディルさんに教えてもらってください」と断られてしまったのだ。
アイツに教えてもらうとか……ないわー……。
「私は寒いのでお風呂入りたいんです。それに創造魔法はレーディルさんの得意分野なので、私よりも上手く教えられると思いますよ?」
ほう、なるほど。風呂か。覗いてやろうかな。
ごめんなさい、嘘です。
「でも『念じる』とか言ってたけどよ。そんな簡単に出来るものなのか? てかさ、俺、二属性の魔法覚えちゃったけど、いいの?」
「いいんじゃないですかー? 別に多く覚えるに越したことはありませんし。……念じるのは、その人の才能にもよります。じゃあ試しに、アークさんがいつも使ってる、『ウォーターデッド・ファイナルフリーズ』。それを使ってみてください」
「……『ウォーターデッド・ファイナルフリーズ』」
俺がそう唱えると、4人の頭上に大量の水が降り注いだ。
そしてそれはパキパキという音を立てて、4人の足元を凍らせていく。
「ひゃああああああああああ!? 冷たッ! あああ凍ってくうう!!」
「京夜、どうしてくれるんだ! あああ冷たい……」
―――――やだ、なにコレ楽しい!
女の子を凍らせていくという鬼畜プレイ。ははは、愉快だ!
え、ホント楽しいんだけど。なんだろう、コレ。
調子に乗った俺は、ウキウキ気分で他の水魔法を唱える。
「『ウォーター・セリッド』!」
「「「「!?」」」」
俺は魔法ガイドブックに書いていた水魔法を唱えた。
それは見事成功し、水は4人の頭上に降り注いでいく。
「わあああああああああああ!! ドS! 京夜さんのドS!」
「ははは! なんとでも言いやがれ!」
この魔法は、一時的に相手の動きを止める水魔法。
俺が強く『動くな』と念じると、こうなったのだ。いやあ、魔法ってすごいね。
こんなにも上手く使えるようになるとはなあ。ひょっとしたら俺は凄い才能を持っているのかもしれん。
役に立たないと思って放置していた魔法ガイドブックだが、魔法名だけは覚えておいたのだ。
まさか今、こんな場面で役に立つとは思ってもいなかった。
「うう……動けない……」
「ふ、これで最後だ。『プチ・サンダー』!」
「「「「ひゃあああああああああああああああああああああ!?」」」」
俺は動けなくなっている4人に、大量の魔力ポイントを込めてプチ・サンダーを放った。
ふっ、地味に効くこの魔法だ。ビリビリするだろう。
「ううっ……ピリピリする……」
「京夜さん、酷い……」
――――――ふう。
……あれ?
なんだろう、この終わった後の虚無感は。




