招待
「おい、どういう事だ」
俺はすぐに、レーディルへと歩み寄っていた。
俺たちはやっとの事で自分たちの家を造ったというのに。あんな豪邸がレーディルの家とかないわー。
しかしレーディルは、心底楽しそうに。
「いやいや、これは本当なのだよ。……我はこの世界に来てから、バイトを始めたのは知っているな?」
「ああ、そうだったな」
「最初は軽率にバイトの仕事をしていたのだが。我がある日食堂でバイトしていたら、客から思わぬ人気を受けてな。『こんな凄腕のバイトさんは初めてだ!』と。で、ある日、店に来た貴族の方々から、『我が城で一緒に暮らさないか』と……」
「ちょっと待てよ。いくらなんでもそこまで物事がうまくいく事なんてあるのか?」
「あるんだなあ、それが」
「……」
俺は若干キレ気味に、レーディルへと詰め寄った。
ふ、ふざけんな。なぜ日々頑張っている俺より先に、こんな奴が豪邸暮らしをするというのだ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
「まあまあ、そう怒るでない。……今日ここに我が来たのも、せっかくなので京夜達を城に招待しようと思ったからだ。どうだ? しばらく、我の城で暮らしてみないか?」
「……え? マジで?」
俺は驚きながら、後ろに居た皆にこそこそと言った。
「どうする? 行く?」
「なんかあの人セクハラしてきそうな顔してますけど。ニマニマしてて気持ち悪いですし」
「そりゃあまあ俺も思ったけれども。……でもまあ、せっかくだから行ってみるか?」
「うむ、まあ別にこれといった目的もないワケだしいいんじゃないか?」
コハクの同意の意見を聞きながら、俺はレーディルへ言う。
「えーっと、城に招待してくれるのはありがたいんだけど……セクハラしてこないかって心配してくる奴がいるんだが」
「一体我を何だと思っているのだ……。我がセクハラをするような男に見えるか?」
「いや、見えるだろ」
フード被ってニヤニヤしてる時点でもうダメだろ。変人だろ。
しかしレーディルは、気にせずニコニコとした笑顔で。
「まあ、これは我がバイトに傾倒し頑張っていたご褒美といえるだろう。まあ、ともかく我はセクハラなどしないので、付いてくるがいい」
「「「「「「「…………」」」」」」」
俺たちは無言で踊りながら歩くレーディルについて行きながら、コソコソと話し合った。
「あの人は一体何なんですか? よくあんなキモスな表情してて逮捕されませんでしたね」
「ひでえ言いようだな。ニヤニヤしてるだけで逮捕とかどんだけ厳しい逮捕条件なんだよ……。まあ、分からんでもないが」
「あの顔ぶん殴りたいんだが、いいか?」
「待て。いくらなんでも顔がムカつくという理由だけで人を殴ってはダメだ」
「くそっ……今すぐ殴りたい……」
殴りに行こうとするコハクをなだめながら、俺はチラリと豪邸の城を見た。
……俺ら、あんな所行くのかよ。




