ニセ天使レーディル
「我が城へ、ようこそ。我の名はレーディル……ってああ!?」
面倒くさい予感がしたので、俺が無言でドアを閉めようとすると、ソイツはドアを必死にこじ開けてきた。
何コイツ。怪しそうな野郎だな。
深くフードをかぶり黒髪のその男の表情は、全然読めそうにもない。
「……改めて、我の名はレーディル。……おや? レインじゃないか」
「……!? レーディルさん……!?」
……ふむ。
レインの様子を見る限り、どうやらコイツはレインの知り合いらしい。
なんだろう、この人。天使には見えないし、なんかニマニマ笑ってるしで気持ち悪い。
「久しぶりじゃないか、レイン。……っと、ああ。そちらの方に取りあえず説明しなくては。この城は、長い時を経て造り上げた神聖なる城、ライト・ブラン」
「いや、城もう崩壊しかけてるけど」
「へ?」
俺は無言でレーディルを城の外まで持って行き、状況確認させた。
するとレーディルは、顔を蒼白にさせ。
「うわあああああああああああっ!? な、何故だっ!? 一体誰がこんな事をっ……!」
「は、はは。……ダレナンデショウネー……。」
俺はレーディルから目を逸らしながら、気まずそうに答えた。
ニマニマしていた表情が一瞬で絶望の表情へと変わり、レーディルは頭を抱えて項垂れる。
どうやらこの城はレーディルの宝物だったらしい。なんか悪い事しちゃったかな。
「くそ……。我が天使を辞めてもう数年経つが、ここまでのショックはかつてあっただろうか……」
「おい待て。今なんつった?」
「……ん? いやだから、私が天使を辞めてもう数年経つと」
「え? お前天使じゃないの?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
……。
緊張して損したわ。
思えばコイツは天使の面影すらなかったなあ。そもそもニマニマしている時点でおかしかったのだ。
じゃあこの男は傍から見ればニマニマしてるただの変態ってわけだ。
「む、今我をニヤニヤしてる変態だと思ったか?」
「惜しいな。ニマニマだ」
「……一層変態さが増したな。まあいい、今は我はそれどころではないのだ。……ああ、どうしてこんな……」
レーディルは城の残骸を見ながら。ガックリと肩を落とした。
この城にいるのは多分もうコイツだけだろう。後の天使は俺が魔法で殺したしな。
……というか。
「何でアンタ、城が壊されてた事に気付かなかったんだよ。すごい爆音だったし、流石に気付いただろ?」
「ん? いや、我はそんなの聞こえなかったが。……なぜならば、ロックな音楽に合わせて踊り狂っていたからだッ!」
そう言ってレーディルは、玄関の隅の方に置いてあったCDプレーヤーの様な物を指さした。
……どんだけ熱中してたんだよ。聞こえない程踊り狂うとか。
「我が必死になって練習した、華麗なダンスを見るか?」
「いや、遠慮しときまs」
「ヒュー! 1・2・3・4!!」
俺たちの返答を待たずに、レーディルはその場で踊り狂い始めた。
音楽が非常にうるさい。どんだけ爆音で流してんだよ。
……はあ、また一人厄介そうな奴が。




