きょーやたちは逃げ出した!
「……なあ、どうすればいいのこういう時?」
俺は自然と、ライアに尋ねていた。
「さ……さあ。どうすればいいんでしょうね……っていうか、京夜さんなんか前世で悪い事でもしたんですか? いくら繁殖期とはいえ、ここまで追ってくるのはかなり珍しいと思うんですが」
「ぎくっ。……まあ、色々と諸事情でな。どうする? また逃げるか?」
いや、無駄か。逃げても絶対ドⅯ効果で追いかけてくる。
しかし、この悪魔化の謎代償はどうやっても解けそうにない。
「やめときましょう。ここはいったん時間を稼いで、助けを待つべきですよきょーや様!」
「……やっぱりその喋り方やめてくれ。なんか口調がライアと同じだから、ややこしい」
「えっ! ホント!? やったー! この喋り方疲れてたんだよね~」
アークは解放感に満ち溢れた表情を浮かべたる。が、その直後にライオンもどきがアークに襲い掛かった。
ギリギリのところで避けたみたいだが、アークは驚きを隠せないようである。
「え!? 何!? なんで私!? 私じゃないでしょ、きょーやでしょ!?」
「当然とばかりに言うんじゃねええええええ!!!!」
今のアークの一言が効いたのか、ライオンもどきは俺めがけて走ってきた。
俺は急いで逃げるが、そろそろ体力の限界だぞ。
『ふぁいあいんふぇるのおッ!!』
すぐ横から、なんだか間の抜けた声が聞こえる。
見ると、ライアが決め台詞を吐きながら、ライオンもどきに猛突進していた。
「私たちの邪魔をした罰を、今その身に受けるがいい! くらええええええ!!」
「おおっ!!」
ライアの片手剣は炎のように燃え上がり、赤く光っている。
相変わらず必殺名は中二病っぽいが、武器を構えるライアの姿は正直カッコいい。
よし、これはキマって――――――――
「え? あれ? わわわわわっ!?」
…………。
えっ。
「ふぎゃうっ!」
ライアはいとも簡単に吹っ飛ばされ、近くにあった木の葉に刺さった。
よし、これはたぶん逃げた方がいいやつだ。
俺はつま先に力を入れて、走り出そうとした。
それに続いてアークも、スタートダッシュのポーズをとる。
しかし走り出す寸前で、ライアに呼び止められてしまった。
「ちょっと! こんな可愛い女の子を置いて逃げる気ですか!? この超絶プリティーな私を!?」
「お前がそれ言う!? さっき俺置いて逃げたくせに!? あと自分で可愛いって言うのもどうかと……」
「い、いいじゃないですか別に! それより早く助けてください~」
木に刺さったまま、ライアは両足をジタバタさせ暴れていた。
…………なんだろう、すごいバカみたいで笑える。
普段のマジメなライアとのギャップがありすぎるわ。
「ブッ……」
「ちょっと! なに笑ってるんですか! それよりモンスターはどうなりました!?」
……あっ。
忘れてた。
俺はとっさに後ろを振り向いたが、もう遅かった。
ライオンもどきは一気に俺たちの距離を詰め、突進してくる。
「っつ……!!」
ヤベえ、これガードできないやつだ。
チームのメンバーのギャップで笑ってたら死ぬって、どんなアホな死に方だよ。
俺がやられるのを覚悟で目を瞑った、その時。
「我が弓に封印されし魔力よ、今その封印を解く! 『妖弓骸滅斬ッ!』」
なんかライア以上に中二病な必殺技名が聞こえたかと思うと、ライオンもどきはいつの間にか倒されている。
声が聞こえた方向を見るとそこには、見たことない銀髪美少女が立っていた。
外見からして、歳は俺と同じくらいだろうか。
キラキラと輝いている弓を片手に持ち、装備全体がなんかキラキラしている気がする。
「ああ、間に合ってよかった。 ……? ああ、すまない、まだ名を名乗っていなかったな。私の名はコハクという。よろしく頼む」
コハクと名乗った少女は俺に右手を差し出してきた。
俺はその手を握り返すと、若干ほわっとした気持ちになった。
いえ、決してそういう変態的なことを考えていたワケではなくて。
コハクは二人とも握手し終わると、俺たちに向かってゆっくりと口を開いた。
「実は、君たちに話があってだな。……その……わ、私をこのチームに入れてほしい! と、特に京夜と名乗るそこの少年について……!」
はいい!?
俺は今日何度目かになるだろう驚きの叫びを上げた。