悪魔
地獄の日々から、数日程経った頃。
俺は、自分が何なのかすら、忘れてしまっていた。
魔力を吸い取られ、無意味に暴力を振るわれ、トイレに行く時しか鎖から解放されない。そんな毎日だ。
もういっそ、このまま死んでしまった方がいいのかもしれない。俺は既にそう思い始めている。
理不尽な世界で生きるより、どこかでのんびりと暮らした方がよっぽどいいだろう。
――――――しかし俺がそんなことを考えている間にも、部屋のドアが開かれた。
「さあ、魔力吸収の時間だ。……ははっ、そうか。最悪の気分か。後悔は、あの世でするんだな」
「……がっ……」
ミカエルに魔力を吸い取られ、俺は無言で息を吐く。
死ねば、いい。もうこのまま、死ねればいいのに。
そう思いたくはなかったが、もう俺の頭はこれを考えずにはいられなかった。
しかし痛みの感覚も最近は鈍くなり、死ぬことすらもできないかもしれない。全く、皮肉なものだ。
一体俺にこれから先、どう希望を持てと言うのか。もう疲れたのだ。俺は。
途切れていく意識の中で、ミカエルは俺に話しかける。
「お前は、ゴミだ。誰にも必要とされない、ただのゴミだ。そりゃあそうだよな、引き籠っていたお前に必要となんかされるワケが無い。――――――では、なぜ生きている? お前は、なぜ生きている?」
「……」
「答えられないというのなら、さっさと死ね」
どんどんと俺に与えられていく痛みは強くなり、吐きそうになる。
もうミカエルの質問に答えてやる余裕などない。既に俺は死にそうなのだ。
だんだんと視界がぼやけていき、口からも血が流れ出てくる。
俺、死ぬのかな。そう思った、その時――――――
『愚かだな、人間』
そんな低い声が、俺の脳内に響いた気がした。




