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天使レイン

 執拗な魔力吸収の後、何とか意識を取り戻した俺は。

 辺りを見回しながら、ここに誰か居ないか確認した。

 本当に死ぬかと思った。なぜ、俺はこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。俺が、何をしたっていうんだ。

 滑り台で、バカな理由で死んだからか? そんなの、俺だって好きでしんだワケじゃない。

 慣れ親しんだ自分の部屋に籠り、当然の様にニートをやっていたからか? そんなの、個人の勝手だろうが。

 それなのに、なぜ俺は。

 なぜ俺は、こんな目に遭わなくてはならないのか。

 そう思うと、どうしようもない怒りと虚無感が襲ってくる。つくづく人間とは面倒くさい生き物だと思う。

 それこそ悪魔の様な考え方になってしまうが、そんな事はどうでもいい。

 ―――――今すぐ、こんな場所から脱出したい。……それだけが、今の俺の願いである。

 

 頭痛を堪えながら何とか俺が、辺りを見回していると――――――


「……!? 京夜、さん……!?」

「レイン……?」


 遠くにレインの姿が見えたので、俺は大きく目を見開いた。

 驚愕で言葉が出ないが、どうやら無事らしい。良かった、死んでなくて。

 ……もっとも、レインも柱に繋がれ身動きの取れない状況なんだが。

「お前、大丈夫か……? ケガは……」

「ええ、大丈夫ですよ。それより京夜さんこそ……。すみません、私のせいで……」

「いや、いいよ。……『ライフ・オブ・ヒール』」

 俺は最上級の回復魔法を唱えると、疲労と痛みの回復した身体を動かしながら、レインに言う。

「なんでお前は、拘束なんかされてんだよ。……やっぱり、何かやらかしたのか?」

「ええ、やらかしました」

 レインは当然とばかりに俺を見つめ、えへへと言わんばかりにはにかんだ。

 いや、「やらかしました」じゃねえから。せめてもっと困惑しろや。

 そんな俺の思いをよそに、レインは続ける。

「……もともと、私は京夜さんを天界に連れて行くという義務がありましたよね? それを無視した事ももちろんあったんですが、その……前に神様のお尻を、転んだ拍子に蹴ってしまったことがあって……」

「バカ野郎ォォォォォォォォ――――――――――――!!!」

 俺は体力を回復して早々、声量のある突っ込みをかましていた。

 もうバカすぎてなんて答えればいいのかすら分からない。

 蹴った? あのクソ神様の尻を?

 よくやった……じゃない。そりゃあまあ、怒られるだろうが。

「んで、お前はここに拘束されてると」

「はい、そういうことです。でも1週間こうしていれば解放してもらえるみたいですし、まあ気楽に私は頑張ります」

「……そう、か」

 ……羨ましいよ、ちくしょうめ。

 俺は多分これからも魔力吸収機として扱われることになるのだろう。未だに怒りは消えないが、取りあえず今は抑えておこう。

 ……。


「き、京夜さん!? どうしました!?」

「いや、悪い、何でもない」

 頬に伝って来た涙をなんとか鎖から右腕を出して拭うと、俺はレインに向き直った。

 これを話すのには少し勇気が要るが、もうこの際、話してしまおう。

「なあ、レイン。お前は……俺の正体を知ってるだろ?」

「……ええ。知ってます」

 レインは真剣な表情で頷くと、俺を見つめ返してきた。

 いつにない真剣な表情に俺は少し戸惑ってしまうが、構わず続ける。

「俺の正体は、悪魔だ。天使と敵対している、悪い悪魔だ。……それなのに、だ」

 そこで一端言葉を区切り、俺はふう、と息を吐く。 

 不思議そうな顔で見てくるレインに、俺は再び向き直ってから。


「なんでお前は、俺を殺したりしないんだ?」

「……さあ。なんでなんでしょうね」

「…………」

 いや、何でだよ。もうワケ分かんねえよ。

 でも――――――これは俺が一番訊きたかった事だった。多分だが、レインは俺と最初に話した時から俺が悪魔と知っていたハズだ。

 なのに、殺さないし、それどころか天界に帰れとも言わない。

 あの天使3人組は、すぐさま帰れと言ってきたというのに。

 俺が頭を悩ませていると、レインは真剣な表情を崩しながら。

「違う……って思ったんです。偏見そのもので人を判断するよりも、まずはちゃんとその人の素性を知ってから、どうするか決めるって思ったまでで。……私が見る限り、京夜さんは悪い人に見えなかったですし」

「……」

 俺は沈黙しながら、レインを見つめ続ける。

 なんだろう、改めてそう言われると、ちょっと照れるな。


「もう、そんな見ないでくださいよ。なんか……恥ずかしいです。―――――でも、やっぱり京夜さんと一緒に居ると、楽しいですし」

 そう付け加え、レインは俺から目を逸らした。

 慌てて俺も目を逸らすも、ついつい照れる気持ちでいっぱいになってしまう。

 俺が忙しいと思ってこなしていた家事が今では随分と愛おしいものに感じてきて、俺の目からは再び涙があふれそうになってきてしまった。

 さっきの苦痛が何回も繰り返されると思うと、流石に嫌になってくると思う。

 何が、魔力吸収機だ。俺を物か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。

「それに……」

「……ん?」

 レインが何か言いかけたような気がしたので、俺は聞き返したが、すぐに「なんでもないです」と言って言うのを憚られてしまった。

 痛って……。鎖が締め上げて来てる様な気がする。

 こんなのよりは、アークのshimeage攻撃の方がよっぽどマシだったかもしれない。


 俺はレインとそんな他愛もない会話をしながら、少しの時間を過ごした。

 

 

中々にシリアスな感じですが、ご了承を(笑)

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