お風呂。ハラハラ。
「き、京夜……!? なんでここに……!?」
「いやこっちのセリフだ! ここは男湯のハズだぞ!」
「えっ!? いや、私はちゃんと女湯に入ったハズだ!」
コハクは顔を赤くしながら、必死に俺に訴えてきた。
いや待てよ。俺は絶対に男湯に入ったハズ。そう、絶対にだ。
だったら、どっちかが出ないとマズイワケで……
「コ、コハク! お前取りあえず出ろ! じゃないと他の人達が……」
「い、いや! そんなこと言われてもっ……」
顔を見る見る内に赤くしていき、顔までお湯に浸かっていくコハク。
幸い濁り湯なので透けて見えるという事はないが、このままだとヤバい。
そうこうしている間にも、脱衣所の方から他の人達の声が聞こえてきた。それもかなりの大人数。
ヤバイ、ホントにこれはヤバい。どうすればっ……
「ッ……! コハク! 取りあえず俺の後ろに隠れろ!」
「そ、そんなのできるワケ……」
「いいから急げ! それともお前は男湯の中に居たという事実を他の人達に知られたいのか!?」
「うう……わ、分かったよ! やればいいんだろ、やれば!」
コハクはヤケクソ気味に俺の背中の後ろに来ると、顔だけ出して体をお湯に浸けた。
それから少しもしない内に、他の男の人達が入ってくる。やはり大勢。
なぜコハクが男湯に居るのか――――ということは取りあえず置いておくことにしておく。今はそれどころじゃない。
『おい、コハク。目立ちにくい場所に移動するぞ』
『うう……。分かった……』
涙目になりながらも、コハクは素直に俺の指示に従った。周囲の人達に気付かれない様、小声で。
さて、どうしたものか。このまま他の人達が出るのを待つしかないんだろうか。
もうなんかどうでもいいやと思い始めていた俺は、気楽にコハクに話しかけてみる。
『コハクは、そういうの恥ずかしがるんだな。ライアとアークは全然なのに』
『あ、当たり前だっ! く、くそ……何でこんな……』
『そんなあせんなって。――――まああの二人と比べれば、コハクは一番女の子らしいよな』
『!?』
突如コハクはビクンと肩を震わせたかと思うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
ふ、カッコいいだろ? 俺。こういうのは言ってみるもんよ。
俺がぼけーっと空を眺めてると、コハクが蚊の泣くような小さな声で。
『う……あ、ありがとう……』
……あれ。
お、おかしいな? 今ものすごくデレっぽいことを言われた気がしたんだが。
……。
「なあ、もう一回言って」
『う、うるさいっ! 何度も言わせるな! ……というか、小声で話せ! バレたら大変だろう!』
コハクは投げやりに返すと、俺から目を逸らしてしまった。
……どうも最近、皆の様子がおかしい。




