地獄の橋
「うう……重い……。京夜さーん、こんな量の荷物要るんですかー?」
「ああ。とっても大事な物が入ってる」
「大事な物って、エロ本ですか?」
「考えてから喋ろよバカ」
よろよろと歩いてくるライアに答えながら、俺はひたすら歩き続けた。
うん、このくらいならなんともない。家事と比べれば楽なもんだ。
「おいアルゼルト、レイン。お前ら魔力で飛ぶのやめろや」
「私のは魔力じゃないです。聖力です」
「どっちでもいいからやめろや」
レインにそう注意すると、しぶしぶ2人は飛ぶのをやめた。
他の人達から目撃されては大変である。まあ見つかったら俺は速攻逃げるけど。
まあここまでは、本当楽なもんだったと思う――――――。
■
歩き始めてから、数時間ほど経った頃。
俺は目の前の光景を前にして、すぐさま背を向け歩き出した。
「帰るか」
「い、いや! ちょっと待ってくださいお兄ちゃん! さすがにここまで来て帰るはないですよ!」
「……」
俺の前には―――――――俺がいつの日かティール達と一緒に行って落ちた、思い出の橋があった。
もちろんボロボロ。落ちたら試合終了。いや、あの時俺は死ななかったけど。
ここ以外、イデア聖街へ向かう道はない。だが、もう二度と俺はこの橋を渡らないと決めたのだ。
「……てかさ。なんで地味に直されてんだよ、コレ」
「さあ。でもまあ直されてるんなら、いいんじゃないんですか? ――――それっ!」
「ああああああああああ!?」
俺が橋に背を向けている間に、レインが走って橋を渡っていった。それと同時に、俺は悲鳴を上げる。
「お前! 飛べるんだろ!? なんで走るんだよ!?」
「いや、こういうのは普通走るもんなんですよ!」
「お前の普通の認識は間違っている!」
俺は胸を手で押さえながら、ハアハアと呼吸を整える。
だ、大丈夫か、アイツ。ひょっとして麻薬でも飲んだんだろうか。
「京夜お兄ちゃん……大丈夫なんですか? レインさんは」
「いや、相当危ないな、頭が。早く医者に連れて行った方がいいかもしれん」
心配そうに俺に訊ねてくるシオンに即答すると、俺は深くため息をついた。
ホント、なんで修復されてんだろ。しかも修復の仕方が雑で、木を数本並べて括り付けただけのものとなっている。
さすがに前助かったとはいえ、今度落ちたら本当に死ぬかもしれない。
……よし、決めた。
「お前ら。ちょっと先行っててくれねえか。俺トイレ」
「お、京夜。まさか怖気づいたの?」
「違えよ。本当だけど」
アルゼルトの言葉に意味の分からない返事をしながら、俺は別の道を通って坂を下って行った。
……久しぶりに、セギアと話でもしてみよう。




