魔法神レイン
「おい待てお前ら。ゆっくり近づけ。何が起こるか分からん」
俺たちは墓参りに来ていた。はい。
墓と言ったらなんか闇の墓地っぽい所を俺は想像してたんだけど、そんな事もなかった。普通に綺麗な墓場だ。
ただ、油断してはいけない。アマテラスは前眠らせてサヨナラしたっきりだから、何か酷い仕打ちが待っていてもおかしくないのだ。
アマテラスの魂が宿ると言われる墓は、それはそれはもうでっかい豪華な墓でして。性格悪くても天使ってことか。
俺は慎重に進みながら、墓の前で止まった。
……よし。
「いいか、お祈りしてすぐ帰るぞ。そしたら多b」
『佐々木・京夜さん! 今すぐ天界に戻って来なさい!』
「……」
……幻聴だろう。今のアマテラスの声じゃなかったし。
「……もう一回言うぞ。お祈りしたらすg」
『佐々木・京夜さん! 聞こえてますか! 今すぐ天界に戻って来なさい!』
「…………」
ええ、聞こえてますよ。バッチリ。
しかしこういうのはスルーが一番。俺は知っている。
俺はそっとアマテラスの墓の前で手を合わせてお祈りすると、その場を立ち去ろうとした。
それに続き3人も手を合わせて、俺の後をついてくる。
スタスタと足早に俺が墓と反対方向に歩いていると。
『ちょっと! 佐々木・京夜さん! 無視しないでください!』
「……」
『聞いてくれたら500万ゼニーあげますよ』
「よし乗った」
クルリと方向転換して、俺は墓の元へ戻った。
300+500=800ゼニー。ヤバい。
「さて、ご用件はなんでしょうか?」
『天界に戻れ……って言っても聞かなそうですね』
「おお。分かってるじゃねえか」
俺は天界とやらに戻る気はない。だってめんどくせえもん。
それに戻ったら戻ったであの天使から文句を言われる気がするからな。絶対行かない。
『……では、明日の午後2時、あなた達の家を伺ってもいいですか?』
「いいけど知ってんの?」
『ええ。ずっとあなた達を見ていましたから』
「へー」
ストーカーじゃん。……とかいう言葉は慎んでおこう。何が起こるか分からない。
てかさあ、何なの最近。ちょっと色んな天界関係の奴らが出て来てちょっとうざいんですけど。
そんな俺と同じ心境だったのか、アークが。
「きょーや、もうあなた以外来ないでくださいって言ってくれない? なんかちょっとうざいし」
「なんで俺なんだよ」
「いや、さっきまで会話してたから」
「……」
会話していたのは事実なので、俺はしぶしぶ墓に向かって言う。
「お前以外もう俺たちに付きまとわないでくれないか? そろそろ俺のムカ着火ファイアーが爆発しちゃいそうだから」
『な、なんですかそれ……まあ、分かりました。……あ、申し遅れました。私の名はレイン。覚えておいてくださいね。……では、また』
「ああ、また」
なんかレインって聞いた事あるんだよな。なんだろ。
俺はレインの魂が消えたと思われる墓に再び手を合わせると、再び反対方向へと歩き出し、3人の元へ向かった。
……あ、そういえば500ゼニーどうなんだよ。さては俺をおびき寄せるための罠か。それとも明日渡してくれるのか。
…………。
もういいやと思いながら俺は墓地を去ろうとした。
しかし、3人は嘘だろおおおお的な表情で、その場に佇んでいる。
……?
「き、きょーや。今、レインって聞こえなかった?」
「……? ああ、そう言ってたな」
「午後2時、家に来るって言ってなかった?」
「ああ、言ってたな」
「「「……」」」
俺がそう言うと、3人はガタガタと震え始めてしまった。
なんで。どうしたどうした。
「おい、落ち着けよ。なんでそんなに……」
「京夜さん、知らないんですか!? 魔法神レインは、魔法を作ったと言われる神ですよ!? バカなんですか!? ねえ、バカなんですか―――――――――――――――!?」
「あああああああああああ!! やめろ! 分かったからやめろって!」
俺を揺さぶってくるライアを強引に剥がすと、俺は息を整えながら3人に言った。
魔法神とやらは知らんが、この別にもういいんじゃねといった俺の考えを伝えることにする。
「別に危害加えてくるとは限らないワケだし、いいじゃねえか。なんでアマテラスの墓にレインとやらの魂が宿ってたのかは謎だけどさ」
「京夜! そこは突っ込む場所じゃない!! いいか、これは大変な事なんだ! 魔法神レインは、かつてこの世界の半分を亡ぼしたという、無敵の神だ! なんとか長い時を経て魔法使い達が修復したが、またこの世界にやって来たらどうなることか! ホラ、お前の魔法にもレインの名があっただろ!? 『サンダー・レイン』って!」
「……ああ。そういえばそうだった」
なんか聞き覚えがあると思ったのはそのせいか。あの魔法にはいつもお世話になっているよ。
俺はギャーギャーと騒ぐ3人を眺めながら、ふう、と息を吐いた。
もちろん俺は緊張も恐怖も何一つない。
いや、うん。
―――――――だって、悪魔に会って天使にも会って散々な目に会ってきた俺が、こんぐらいでビビるわけない。




