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仕事人、京夜

 俺がこの世界に転生してから、3ヵ月が経った頃。

 しばらくは家造りに専念するため、俺たちは森に泊りがけで作業を続けていた。

 最近はモンスターなんかに襲われることもない。そのため、俺たちは私服で作業をしている。

 当然作業を続けていたら汗も出るし、涼しくて動きやすい格好の方が効率もいい。防具ガチャガチャさせて歩くのもなんか邪魔だしな。

「ピピ、釘取って来てくれ」

「ピ」

 俺が肩に乗っていたピピに頼むと、ピピは釘のある元へと飛んでいった。

 コイツが居ると非常に助かる。地上にある物も取って来てくれるし。

 ちなみに俺が今居る場所は……天井部分となる場所。当然、落ちたら大ケガ。下手すりゃ死ぬ。

「はあ……怖ええ……なんでこんなことに……」

『京夜さーん! 頑張ってくださーい!』

「……」

 地上から聞こえてきたライアの明るい声を聞きながら、俺は黙々と作業を続けていた。

 ――――――実は、俺が天井を担当することになったのもワケがある。


 そう、それはほんの数十分前の出来事で――――――――


          

                 ■


「ねえきょーや。誰がどの部分をやるの?」

 森での作業を続けていると。

 アークが、ふとそんなことを言ってきた。

「そりゃあ……やりたい所やればいいじゃねえか。なんで?」

「え? いいの? じゃあ私板の張り付けやる!」

 そう言ってスタコラと去っていこうとするアークの首根っこを、俺はがっしりと掴んだ。

 ……前言撤回。

「おい、ちょっと待て。やっぱさっきのは取り消しだ。そしたらお前の仕事が簡単なのになっちまうじゃねえか。……そうだな、ここは2人の意見も聞いて……」

「ヤダヤダヤダヤダ!」

 バタバタと暴れるアークをよそに、俺はライアとコハクの元へと向かった。

 ここは多少無理矢理にでも俺以外の誰かに大変な仕事を押し付けよう。俺は今までの作業で非常に疲れているのだ。

 ……え? 最低だって? 構わないさ。今の俺はそんな気分じゃないのだよ。

「なあ、2人共。家のどの部分の作業をしたい? そろそろ本格的な組み立てに入るんだが……」

「えー? 私今色付け作業してますし……」

「いや、改めて決めるぞ。公平に」

 さりげなく難を逃れようとするライアに言うと、俺はアークにも聞こえるように言った。

「じゃあジャンケンで決めるか。楽だし」

「「「ジャンケン?」」」

 俺を除く全員が何それ? といった表情を見せたので、思わず俺はフリーズした。

 ……?

「……あっ、そうか。ここ異世界か」

 俺はポンと手を叩き呟くと、ルールを3人に説明することにした。

 ……いやあ、異世界だったね。うんうんそうだった。なんかもう殆ど前世と変わらないもんだから、異世界にいるという感覚を忘れてしまっていた。 

 思えばモンスターが出るという事以外大して変わったことは無い気がする。強いて言うならちょっと建物の造りが違う気がするってことぐらい?

 ……いや、違うか。俺があまりにも二次元の世界へと没頭してたから三次元の風景を忘れてしまっていたのか。そう考えた方が自然かも。

 そっかあ。俺は三次元を忘れてしまうほど、二次元の世界に入り浸っていたのか。

 ……なんか悲しいね。


「……ふう。まあこんな感じで。ルールは分かったか?」

 俺は引き籠りの悲哀感を覚えつつも、一通り説明し終えると、ゆっくりと息を吐く。

 中々理解してもらうのに時間がかかった。そんな難しいルールじゃないと思うんだけど、「なんでグーっていうんですか?」とかの質問が次々と繰り出されるもんだから。

「グー」にそんな深い理由があるのだろうか。手を握った時の形が「グー」っていうからとしか言いようがない。それともこの世界にはそんな言葉が存在しないのか何なのか。

 ……まあいい。俺の完全勝利でどうせ終わるだろうしな。

 

「いくぞ? ジャーンケーン!」

「「「「ポン!!!!」」」」


 ……。

 ……え? ちょ、待ってくれ。

 俺の目に映った光景は、俺の予想していた結果と正反対のものだった。

「やったー! じゃあ京夜さん天井部分の板の張り付けお願いしますね!」

「きょーや、ファイト!」

「頼りにしてるぞ」

 一瞬で決着はついた。

 ……そう、俺が一人負けするという形で。

 俺はなんとなーくチョキを出したのだが、その「なんとなく」が失敗だった。

 なんと俺以外の全員が、グー。グーグーグー。

 いやあ、恐ろしいね、グー。強いね、グー。

 まさかこんな子どもじみた決め方で悲しくなるとは思わなかった。酷いよ、神様酷いよ。

 ひょっとして俺が天使3人を苛めたから罰が当たったんだろうか。

 ……だがなあ! だがしかしなあ!

「おい、お前ら。これはまだ一回戦だぞ? この勝負は三回戦まであるんだ」

 最後の悪あがきを俺は試してみることにした。

 俺は何としてもコイツらに大変な仕事を押し付けると決めたんだ。だったら、神に逆らってでもあがいてやる。

 そんなカッコいいセリフを思いついた俺だったが。


「「「屋根、よろしく(です)」」」

「ちょっと――――――――――!!」


 神様、許して。



 

 

 

 

 

 


 

 

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