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 城を後にすると、道路の雪は融けはじめていた。電柱のない通りでは道の端に雪が寄せられていて歩道も歩きやすい。その通り沿いにある店に入り、遅めの昼食をとることにした。

 肉屋さんがやっている食事処のようで、食事処の入り口は肉屋の中にあった。空いていたので四人掛けのテーブルを選び、二人とも荷物を横の椅子に、首からさげたカメラはテーブルの上に置いた。水とお手拭きを持ってきた店員さんに二人は軽く頭を下げる。

「ご注文が決まりましたらお呼びください」

「あ、はい」

 水上は応えて、メニューを横にして開いた。あらかじめ調べておいたとおり鳥料理が豊富だ。

「誘った手前ということもあるし、ここの支払いはまかせろ」

「言い方からして心許ないし、いい」

 懐の心配をされたようだ。

「いいのか」

「誘ったとかは気にしないでほしい。私だって誘われてしょうがなく来たんじゃなくて、一緒に出かけたいと思ったから来たんだし」

 古泉はメニューに目を落としながら一気に言った。

「お、おう」

 表情も変えずにそんなことを言われたので、水上の方がたじろいでしまった。

「じゃあ、頼むものを決めよう」

 ごまかすために話題をそらした。

「うん」

 顔をあげた古泉はもう一度メニューに視線をもどした。

 注文をすませたあと、古泉はテーブルにのっている黒い一眼レフカメラを観察するようにじっと見つめていた。

「どうしたんだ?」

 構造でも気になるのだろうか、そう思って水上が尋ねた。少し間を置いて、彼女は水上に顔を向けた。

「水上は、どうしてフィルムカメラを使い続けているの?」

「話したことなかったっけ」

「フィルムカメラにした理由は聞いたことある」

「そうだったな。使い続ける理由か……」

 古泉に言われて考えてみた。思えば今まで考えたことがなかったかもしれない。

 ただ、使い始めてから惰性でそのまま使っているわけではないことは確かだ。デジタルカメラと比べてフィルムカメラのランニングコストは高いし、撮った写真をすぐに見られないという欠点もある。

 それなのにフィルムカメラを使い続ける理由とはなんだろうか。

 古泉は静かに、水上を見つめている。急かさずに、待っていてくれることがわかっているから、水上は時間をかけてふさわしい言葉を探した。

「なんというか、性格なんだろうな。枚数制限があって一枚一枚に金がかかるからこそ真剣に撮れる」

「なるほど」

「まあ、あまり考えずに撮ることも多いけどな」

「部長、鷹見(たかみ)さんは、撮るときの手間が好きだって言ってた」

「手間か、確かにそうだな」

 レバーを動かしてフィルムを巻き上げる動作は水上のお気に入りだ。

 話していて、水上はこのカメラを使い始めた頃のことを思い出した。

「このカメラにやっと馴れたころぐらいのことだけどさ、一回だけ、ちゃんと撮れなかったことがあったんだよ」

「どんなふうに?」

「たぶん、フィルムがちゃんと入ってなかったんだろうと思う。現像してもらってもフィルムに何も写ってなかった」

 近所の写真屋さんでフィルムを二本現像に出し、受け取りにいったとき、写っていなかったと言われ、何も写っていないフィルムを渡された。

 言われてみれば、巻き上げたときの手応えに違和感があったのでフィルムを入れる手順を間違ったのだろうと思った。

 そのフィルムの現像代はなしでいいと言われた。もう一本のフィルムはちゃんと撮れていた。

 そんなことを古泉に話した。

「それから、撮るときに、時々だけど『写ってくれ』って思いながらシャッターを押すことがあるんだ」

 水上はカメラを手にして続けた。

「撮った写真自体よりも、フィルムを買って、カメラに入れて、撮って、巻き戻して、写真屋に持って行って、プリントされた写真を見るっていう過程が好きになったんだ。手間もコストも含めて」

 カメラをテーブルに置いた。

「これ以上高くなっても困るけどな」

 注文した食事がきた。カメラを脇によけてスペースをつくる。

 古泉はもう一度フィルムカメラに目を向けた。

「フィルムカメラ、使ってみようかな」

 水上は割り箸を二本取って片方を古泉に渡した。

「金かかるぞ。いただきます」

「いただきます」

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