四
駅前の案内図を見てから、踏切を渡って目的地の公園に向かった。公園の入り口には案内所があり、前を通ろうとしたときにおばさんに話しかけられた。
「雪で道が見えにくくなっているところもあるから気をつけてね。これ、公園の地図ね」
そう言ってリーフレットを差し出した。水上が受けとる。
「毎年こんなに降るんですか?」
ついでにおばさんに聞いてみた。
「いやー、こんなに積もるのは十年に一度くらいですよ」
「ここでもそうなんですね」
異常気象は広範囲にわたっていたようだ。
公園への道は上り坂で、足跡があまりついていないのを見ると、今日は数えるほどの人数しか通っていないことがわかる。少し急な坂だったので、水上が前に出て古泉に手を差し出した。
「お手を拝借」
「転ぶときは、道連れ?」
「こけないようにだよ」
何となく冗談めかしてでないと手をつなぐこともできない。彼女の方は何と思っているのかはわからない。手をとってくれたなら、少なくとも嫌がってはいないはずだ。
手をつないだ。古泉の手は冷たかった。
「水上、手、あったかいね」
「心が冷たいからな。手くらいは温かいさ」
「そうでもない」
水上はとっさに何と言っていいかわからなかった。歩き出そうとしたとき、頭に衝撃を受けた。
「ぐおっ」
「ん?」
次に感じたのは冷たさだった。水上の頭の上に木に乗っていた雪が落ちてきたようだ。
「冷たい……」
頭に雪をのせたまま情けない声を出した。
「大丈夫?」
古泉が心配そうに聞いた。
「ああ、凍ってなくてよかった」
つないでいない左手で頭の雪を払った。
「凍ってたら大惨事だった。砕ける」
「氷がか、それとも頭か?」
「両方?」
「痛み分けか、非生物と」
彼女は水上の頭に右手を伸ばし雪を落とした。つないだ手は離さなかった。
坂を登り切ると、雪の中に青空を背にした白い天守閣が見えた。
通路の横に聳える石垣には雪が挟まっている。天守閣までは雪の深いところを警戒して、刻まれた足跡をたどって歩いた。天守閣の屋根にはあまり雪が乗っていなかった。雪が積もりにくくなる工夫をしているのだろう。
受付で大人二人の入館料を払うと、この雪の中で来たことを労われた。
「この時期は冷えるので三階にホットカーペットを敷いてあります。ぜひお使いください」
「はい。ぜひとも使います」
入り口の正面には大きな雛壇が飾られている。時期的にはまだ半月ほど早いが、これだけ大きいと準備に時間がかかるのだろう。
靴をぬいで天守閣に入った。光沢のある木の床は靴下越しにわかるほど冷たかった。展示品をじっくり見たくても、立ち止まっていると足先から冷えが伝わってくる。
古泉は展示の説明文をじっくり読んでいる。
「足冷たくないのか?」
「少し冷たい」
「少しで済んでるのか」
「二枚はいてるから。靴下」
「その手があったか」
今度からは自分もそうしようと水上は思った。
展望台だという三階に上がった。階段は急で上がりづらかった。上りきると、景色を見る前にまず中央に敷いてあるホットカーペットに乗った。暖かさと共に足先が軽くしびれるような感覚をあじわった。
一息ついてから窓の方に近づいた。米所なので田圃が多く、そこに雪が積もっているので雪原に見えるところもあった。
景色をじっくりと見ている間に寒くなり、一旦ホットカーペットに戻りまた窓の方に行くという行動を何回か繰り返した。