三
翌日は晴れた。運行状況を調べたら、電車は時刻表通り運行しているらしい。
朝起きてカーテンを開けると、強烈な光が目に入った。光に目が慣れるまで時間がかかった。
着る服と持ち物は眠る前に用意してあり、予定していた時間通りに起きられたので急ぐこともなく朝食をとった。ニュース番組では今日も大雪のことが取り上げられていた。
ただテレビを見て時間を潰すのも落ち着かないので、少し早いが出かけることにした。昨夜か今朝のことかはわからないが除雪車が通ったようで、車道の雪が歩道の方に寄せられていた。
時間に余裕があるので少し遠回りして駅に向かった。神社の裏手にある低い山は雪化粧をしていて美しかったので、立ち止まってしばらく眺めていた。昨日も見た雪の町並みは、天気が違うだけで印象が大きく変わった。
駅前の広場が見渡せる場所で人の往来を眺めていると、古泉の姿を見つけた。彼女は足下に注意しながら横断歩道を渡り、駅前広場に入ったところで立ち止まって顔をあげた。目が合ったので水上は手を振った。
古泉は軽く手を上げてから少しだけ足を速めたように見えた。
「おはよう」
「おはよう。おまたせ」
「いや、ついさっき来たところだ」
「ホントに?」
「寒いし、さっさと電車に乗ろう」
はぐらかせたかはわからないが、古泉はそれ以上聞いてこなかった。
二人の乗った急行電車は混んでおらず難なく座れた。車窓にはずっと雪景色がうつっていた。
「誘っといてなんだが、行き先はこれでよかったのか?」
「ん。何か問題あった?」
「いや、わざわざ雪の中で行くところでもないなって思って」
「そう? 綺麗だと思うよ。人も少ないだろうし」
そう言ってもらえて水上は少し安心した。古泉が好きそうな場所ということで行き先を選んだが、この天候で行くところではない気がしていた。昨夜のうちにインターネットで調べたが、プランなんて無いようなものだ。
「行ったことがあるんだよな」
「うん。雪は降ってなかったけど。小さいときだからよく憶えてない」
「古泉の小さい頃か……」
小さい頃の写真などは見たことがないので、うまく想像ができなかった。
「今の天水よりも小さかった」
「そらそうだろうよ」
電車は山間を進んでいくつかのトンネルを抜けやがて平野に出た。平野の中を流れる川を越えたところにある駅で乗り換えのために降りた。この駅は次に乗るローカル線の始発駅で、次の電車までは三十分近くあった。
二人は電車の時間まで駅の周りを歩くことにした。しかし、昨日降った雪が凍っていてそれが少しずつ溶けているのでとても滑りやすいので、あまり駅から離れないことにした。
民家の脇の空き地らしきところに、地面から一メートルくらいで切りそろえられた不自然な木々が生えていた。その上に切り口と同じ大きさの雪が積もっている。水上はそれを見て、
「なにかに似てるな」
「……後ろに消しゴムのついた鉛筆?」
「ああー、そうだ、それだな」
散歩中に見つけた物といえばそれくらいだった。
発車時刻の十分以上前から電車に乗れた。暖房の効いた車内で駅に置いてあったパンフレットを二人で見ながらどこに行くかを決めた。席が半分ほどうまって、ローカル線が動き出した。
彼等が乗った二駅過ぎたところには、雪原が広がっていた。雪の下にあるのはおそらく田圃や畑だろう。あぜ道や農道の部分が雪に覆われながらも出っ張っている。そして農地の雪にはほとんど跡がついていない。
山の間に広がる雪原は日の光を反射し、数秒間見ているのがつらいほど眩しかった。
「目悪くなりそう」
「天気がいいのが裏目に出たな。雪が眩しいなんてスキー場くらいでしか経験が無いな」
数人の乗客と共に終点で降りた。