プロローグ代わりのエピローグ
「幼馴染は絶対にいるんだ! 忘れているだけだ!! 思い出すんだ、俺!!」
とある古都の繁華街。
中二病選手権・銀河代表を平気で張れるほどアレな少年――今田翔機が、悲鳴をあげた。
それは少年が、中学生だった最後の日。
空から降ってきた『銀の精霊』を抱きしめる、一年ほど前のお話。
某所で有名なギャルゲーをプレイした翔機は、そのゲーム内に登場する『幼馴染』に恋をした。
そして、絶望した。
なぜ自分には幼馴染がいないのか、と。
妹は大丈夫だった。リアルでも死ぬほど可愛い妹がいる。姉も大丈夫だ。これから親戚が結婚すれば、義姉ができる可能性はある。同級生も言わずもがな。
……だが、幼馴染みだけは。
幼少の頃を過ぎてしまえば、二度と作ることができない。
「すみません! 俺の幼馴染は貴女ですか!?」
「きゃあーーー! 変態ーーー!!」
ゆえに翔機は、もう二週間も街頭でナンパを――否、『幼馴染探し』を続けている。
これは翔機の中で根拠の無いルールだったのだが、『幼少の頃』の定義は『中学生まで』となっていた。
よって、高校入学式前日である今日を逃せば、もう二度と幼馴染を作ることはできない。
そんなこんなで、最後の最後にチャンスを掴むべく、翔機は早朝からずっとナンパを――『幼馴染探し』をしているのだが、今日も今日とてロクな成果が上がっていなかった。
ある意味、当然である。
通常のナンパでさえ成功率が低いのに、初対面の人を幼馴染扱いしてくる変態が相手だ。そんな変態の相手をする女性など、果たしてこの世に何人存在するのであろうか。
「くっそぅ……。道にはこんなにも俺の幼馴染候補が溢れているというのに……! チャンスいっぱいだというのに……! どうして! どうして誰も俺の幼馴染みになってくれな――じゃなくて、どうして俺が忘れている幼馴染みと再会できないんだっ!!」
繁華街の路上だということを微塵も気にせず、orzの形で崩れ落ちる。
傍らに銀の精霊がいなくとも、翔機はこの時から翔機だった。
「諦めるな、俺……! そうさ、あきらめたらそこで試合終了……。チャンスは今、俺の手にある! そうだ! 今だ、チャンス!!」
自らを叱咤して立ち上がる。
と、目線の先――柳の木の下に、一人の少女が立っていた。
その少女に注意が向いたのは、自分の異常行動で周囲の視線を釘付けにする中、唯一その少女だけが自分をガンスルーして空を見上げていたから――では、ない。
その少女の表情が、今にも泣き出しそうだったからだ。
それが、嫌だった。
美少女至上主義の翔機は、女の子の悲しい顔を見るのが、なによりも辛い。
だから、その表情を、変えたいと思った。
怖がられてもいい。怒られてもいい。気味悪がられてもいい。
たとえそれが、ほんの一瞬だとしても。
ほんの少しでも、その少女の悲しみを和らげられるなら――
「よう、久しぶり! いやー! 美人になっちゃって、このー! 俺も幼馴染として鼻が高いぜー! なっはっはっは!!」
アメリカ人かと誤解してしまうほど陽気に話しかける翔機。
少女は始め、唖然とした顔で翔機を見つめていたが……それでも翔機は、笑顔を崩さなかった。
その笑顔に安堵したのか、少女も少しだけ、困ったような笑顔を返す。
「……ごめんなさい。わたし、あなたのお名前、忘れちゃったみたい」
「うぉいっ! そりゃないぜー。俺は、かつてこの世界を救った伝説のヒーロー・今田翔機さ! 気軽に、翔ちゃんとでも呼んでくれ!」
「翔、ちゃん……?」
「おう! ……ところで、俺もお前の名前、忘れちゃったんだけど――」
その日、ついに翔機の『幼馴染不在の時間』は終わりを続けた。