表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

プロローグ代わりのエピローグ


幼馴染(おさななじみ)は絶対にいるんだ! 忘れているだけだ!! 思い出すんだ、俺!!」

 とある古都の繁華街。

 中二病選手権・銀河代表を平気で張れるほどアレな少年――今田(いまだ)翔機(しょうき)が、悲鳴をあげた。


 それは少年が、中学生だった最後の日。

 空から降ってきた『銀の精霊』を抱きしめる、一年ほど前のお話。


 某所で有名なギャルゲーをプレイした翔機は、そのゲーム内に登場する『幼馴染』に恋をした。

 そして、絶望した。

 なぜ自分には幼馴染がいないのか、と。

 妹は大丈夫だった。リアルでも死ぬほど可愛い妹がいる。姉も大丈夫だ。これから親戚が結婚すれば、義姉ができる可能性はある。同級生も言わずもがな。

 ……だが、幼馴染みだけは。

 幼少の頃を過ぎてしまえば、二度と作ることができない。


「すみません! 俺の幼馴染は貴女(あなた)ですか!?」

「きゃあーーー! 変態ーーー!!」

 ゆえに翔機は、もう二週間も街頭でナンパを――否、『幼馴染探し』を続けている。

 これは翔機の中で根拠の無いルールだったのだが、『幼少の頃』の定義は『中学生まで』となっていた。

 よって、高校入学式前日である今日を逃せば、もう二度と幼馴染を作ることはできない。

 そんなこんなで、最後の最後にチャンスを(つか)むべく、翔機は早朝からずっとナンパを――『幼馴染探し』をしているのだが、今日も今日とてロクな成果が上がっていなかった。

 ある意味、当然である。

 通常のナンパでさえ成功率が低いのに、初対面の人を幼馴染扱いしてくる変態が相手だ。そんな変態の相手をする女性など、果たしてこの世に何人存在するのであろうか。

「くっそぅ……。道にはこんなにも俺の幼馴染候補が溢れているというのに……! チャンスいっぱいだというのに……! どうして! どうして誰も俺の幼馴染みになってくれな――じゃなくて、どうして俺が忘れている幼馴染みと再会できないんだっ!!」

 繁華街の路上だということを微塵も気にせず、orzの形で崩れ落ちる。

 (かたわ)らに銀の精霊がいなくとも、翔機はこの時から翔機だった。

(あきら)めるな、俺……! そうさ、あきらめたらそこで試合終了……。チャンスは今、俺の手にある! そうだ! 今だ、チャンス!!」

 自らを叱咤(しった)して立ち上がる。

と、目線の先――(やなぎ)の木の下に、一人の少女が立っていた。

 その少女に注意が向いたのは、自分の異常行動で周囲の視線を釘付けにする中、唯一その少女だけが自分をガンスルーして空を見上げていたから――では、ない。


 その少女の表情(かお)が、今にも泣き出しそうだったからだ。


 それが、嫌だった。

 美少女至上主義の翔機は、女の子の悲しい顔を見るのが、なによりも辛い。

 だから、その表情を、変えたいと思った。

 怖がられてもいい。怒られてもいい。気味悪がられてもいい。

 たとえそれが、ほんの一瞬だとしても。

 ほんの少しでも、その少女の悲しみを和らげられるなら――


「よう、久しぶり! いやー! 美人になっちゃって、このー! 俺も幼馴染として鼻が高いぜー! なっはっはっは!!」


 アメリカ人かと誤解してしまうほど陽気に話しかける翔機。

 少女は始め、唖然とした顔で翔機を見つめていたが……それでも翔機は、笑顔を崩さなかった。

 その笑顔に安堵したのか、少女も少しだけ、困ったような笑顔を返す。

「……ごめんなさい。わたし、あなたのお名前、忘れちゃったみたい」

「うぉいっ! そりゃないぜー。俺は、かつてこの世界を救った伝説のヒーロー・今田翔機さ! 気軽に、翔ちゃんとでも呼んでくれ!」

「翔、ちゃん……?」

「おう! ……ところで、俺もお前の名前、忘れちゃったんだけど――」


 その日、ついに翔機の『幼馴染不在の時間』は終わりを続けた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ