結局ただの恋愛話(やっつけです)
「起きなさい!このうすらとんかち!」
あぁまたこれか。男はそう思う。毎朝の恒例行事だ。
「分かったよ起きるから大声はやめてくれよ」
「さっさと準備しなさい!ほんとにのろまなんだから!」
男の名前は翔太。高校2年である。同じく幼稚園からの幼馴染である葵。この家は翔太の両親の二人が海外で働いているので実質翔太が管理している。玄関だけは開けてあるのだ。葵の指示で。
「ほら行くわよ!のろま!」
「分かったよ・・・はぁ・・・」
これが毎朝の日常風景である。翔太は落ち込み気味に葵は意気揚々とした顔である。これを中学生のときから続いているのだ。
「ついたわね!早く教室行きましょ!ついてきなさいのろま!」
「そんなの自分でいけるよ・・・僕は葵の付き人か」
「あら?そんな位がいいわけないでしょうあなたはペットぐらいが丁度いいわ」
「へーへーそうですか葵女王様の仰せのままにっと」
そんな会話をして席に着く。といっても学校生活は二人ともかなり真面目で特筆する点がないので省く。時間は流れ昼食の時間になった。二人で学食へ。そこでも葵の毒舌は炸裂するのだった。これほどの毒舌を食らっておきながらまだ怒った事のない翔太だがさすがに限界が近い。
「あら?ごめんなさいねお水をこぼしてしまったわあぁもったいない」
「わざとだろ葵・・・僕の学ランになんてことしてくれるんだよ」
「良かったんじゃない?その汚い顔も洗えるといいのだけど」
「もういいよどうでもいい・・・」
いよいよ切れ掛かる。しかし心頭滅却でなんとかした。幸い葵もそれ以上イライラさせる事はしなかったが相変わらずに毒舌を吐きまくっている。しかし翔太の耳には届かない。時間が過ぎ帰りの会となった。
「おっとごめんなさいねでもいいでしょ?這いつくばったほうがお似合いよ?」
葵が足をかけて転ばせる。丁度手を突いたので四つん這いの格好になってしまった。葵が笑う。
「もういい・・・」
「え?何ですって?よく聞き取れなかったのだけど・・・」
「もういいっていってんだよ!毎日毎日僕に毒吐いて楽しいか!?僕はいやだったよ!僕は毒を吐かれる為にいるわけじゃないんだよ!」
ついに限界が来た。初めて葵を前にして怒鳴る。クラスメイトも何が何だかという様子だ。
「いや・・・あの・・・その・・・」
「もういい僕は帰る!じゃあな!」
「あっ・・・」
翔太はそのまま帰ってしまった。その時葵の胸にあるのは大事な本当に大事な人が居なくなってしまったという空虚感であった。本当は追いかけたい。でも自分にそんな資格が有ろう筈も無かった。今まで翔太をないがしろにし自分の気持ちを素直に言わなかった罰なのであろう。そう思うと涙が出てきた。
「帰ろう・・・できれば明日謝ろう・・・」
そう言って帰路へとついた。しかし足取りは重くやっとの思いで家につく。
「おかえりなさいあら?どうしたの?」
「ううん何でもないありがと」
声をかけたのは葵の母であった。しかし葵は挨拶をしただけで自分の部屋に篭ってしまった。
「どうしよ・・・明日謝れる?あぁどうしよ・・・ごめんなさい翔太・・・」
ひたすら明日のことを考えているうちに寝てしまった。かなり深い眠りで一日中ぐっすり寝てしまった。次の日葵が目を覚ましたのはいつもの起きる時間であった。習慣というものはやっかいだ。
「おはよう・・・」
「どうしたの?顔色悪いわよ?大丈夫?」
「うん平気じゃあ行って来ます」
家を出て先に向かうのは翔太の家。玄関は開いているだろうか。そんな期待をしていたが玄関はしっかりしまっていた。まるで中に入るなと言っているかのごとく。
「あれ?葵ちゃんじゃないかい翔太ちゃんならもう出たわよ?」
「そうですか・・・ありがとうございます」
先に出てしまっていた。いつもは二人で歩く通学路を一人で歩く。これほどまでに空虚感に包まれたものは無かった。学校についても気分は上がらない。教室に着くと翔太が楽しく笑っているのが見えた。私の前であんなに笑ったことがあったかしらと考え久しく見てないとなった。自分の前ではいつも落ち込んでいたのだ。なんでそんなことに気づかなかったのだろう。そう思うと涙がすぐそこまで来てしまう。
「あっあの翔太ちょっといい?」
「うん何?葵さん」
「葵・・・さん・・・ううん何でもないわ失礼するわね」
「そう?じゃあね」
ここまでつらいものなのか。幼稚園から一緒にいた大事な人に他人行儀をされるというのは。しかし時間はすぎ昼食の時間となった。学食に誘おうと翔太の席を向く。しかしそこで気づいた。翔太が弁当を持参している事に。男友達と楽しく喋っているのが見える。楽しそうだ。自分の前では見せない笑顔だ。また時間が流れ帰りの会となった。今日の授業は集中力に欠けまったく頭に入ってこなかった。あるのはただ空虚感のみ。
「あの翔太一緒に・・・」
しかし聞く耳持たずに帰ってしまった。心がまた痛む。早く謝らなければ。今日に。それが出来なければ一生関係は取り戻せないだろう。しかし腹が減っては戦は出来ぬ。晩御飯を食べた後にしたのだが緊張でうまく食べれなかった。
「いるかな・・・いるよね」
翔太の玄関の前に立ち深呼吸をする。そして呼び鈴を鳴らす。
「はーい・・・」
「閉じないで!お願い!」
「何?また毒を吐きに来たの?それなら帰って」
「違うわ!中に入れて・・・お願い」
「・・・分かったよ僕の部屋に来て」
なんとか家に入れた。いつもずかずかと入る翔太の部屋なのにこんなに緊張する。心臓が裏返りそうだ。
「とりあえず座ってよで?何?」
「えっと・・・そのごめんなさい!ほんとにごめんなさい!私貴方にこっちを向いてもらいたくて自分の本心とは逆のことをしてたの!ごめんなさいごめんなさい・・・」
「・・・もういいよほらこっちにおいでよ」
翔太が手を広げる。葵は堪らず翔太の胸に飛び込んで泣いてしまった。
「うわぁん!貴方が好き!大好き!ずっと好きだった!でもこっちを向いてくれないから!・・・」
「・・・なんで僕が葵のほうを向かなかったか分かる?」
翔太が頭を撫でながらそんなことを聞いてくる。知らない。好きな人がいるのではと思っていた。
「分からない・・・私に興味なかったんじゃないの?・・・」
「逆だよ僕もずっと葵が好きだったでもあんなふうに毒を吐く君は嫌いだった」
「もうやめる・・・毒を吐くのなんてもういやだ・・・翔太の隣にいたい」
「こんな僕でも付き合ってくれる?君に迷惑かけるよ?」
「うん・・・うん・・・ありがとうこんな私を好きになってくれて・・・」
「こちらこそよろしくねこれからずっと」
翔太の胸の中で葵は寝てしまった。ベッドに寝かせ葵の家に電話をする。
「はいもしもし?」
「もしもし葵のお母さんですか?翔太です」
「あらその調子だと仲直りはしたみたいね分かったわ準備しておくから取りに来て」
「あらら全部お見通しですか・・・じゃあ取り行きますね・・・変な気は起こしませんよ?」
「翔太君がそんなことはしないわじゃあ取りに来てね」
「はい失礼します」
昔から勘は鋭かったけどここまでとは。恐れ入った。そんなことを考えながら支度する。葵の家の前で母は待っていた。大きめなバッグを持って。
「はいこれねじゃあうまくやるのよ?彼氏君」
「!そこまでお見通しですか・・・はいいつかご挨拶に来ます」
「期待して待ってるわ早くお嫁さんの所にいってあげて?」
「はい行って来ます!」
手を振り我が家へと戻る。玄関のドアを開けたとき翔太はびっくりした。寝ていたはずの葵が仁王立ちで待っていたのだから。
「あれ?寝てたんじゃないの?」
「翔太ー!寂しかったよー!どこ行ってたの」
「まさかここまで甘えてくるとは・・・ほらこれ今日は泊まっていきな」
「翔太ー!大好き!」
「あはは・・・砂糖みたいに甘くなってるね・・・」
「いいじゃんかーいつも抑えてた感情だよー」
「うんそっちのほうが可愛いよ」
「もうそういうことをさらっというんだからーもうベッド入っちゃう?」
「うんそうするよ体が冷えちゃうからね」
玄関から冷たい風が入ってくる。ベッドに入ったほうが得策だろう。
「暖めておきました!どう?」
「うん暖かいよほらもっとこっち来なよ」
「抱き合う格好に・・・でもいっか!翔太ー!」
「うわっぷ・・・おやすみ葵・・・」
「うんおやすみ・・・愛してます・・・」
二人してまどろみの中に落ちていった。二人はこの日を境に恋人のようになった。やがて翔太からの告白で正式に告白をし恋人となった。二人の両親は大賛成で応援してくれた。そして三年がたったある日の事
「ねぇ葵僕たち高校卒業したよね?」
「そうだねーなんで大学いかなかったの?」
「うん凄く大事なもの買うために早く就職したかったんだ」
「なーに?その大事なものって・・・」
翔太はポケットから四角い箱を取り出す。中には綺麗な指輪が入っていた。
「僕と結婚して下さい!」
「・・・こんな私でよければよろしくお願いします」
「・・・やったー!良かった!良かったよ!」
「喜び過ぎよ・・・て大人ぶるのはなしね!翔太ー!愛してる!」
「僕もだよ!葵!愛してる!」
なんという光景か。なんと綺麗な光景か。その日のうちに二人は結婚届を書き次の日結婚式を挙げた。親も親族も勢揃いで祝う。
「ねぇ葵?」
「何?翔太」
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
終