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方法その2 イベントが起こる前に自分で恋人候補を見つけてしまいましょう 後編

 そんなことがあった後の、4月の最終土曜日。

 私と美々ちゃんは、さーりゃん先輩と友美先輩に連れられて、とある有名国立大学へとやって来ていました。

「で?そいつの紹介の為だけに、この俺に時間を使わせたのかお前は」

「まあぶっちゃけそんな感じですね」

「おい……」

 大学構内にある、開放的なカフェテリア。

 目の前には、すごく威圧感を感じる男性が2人……。

 そう、彼等はこの春大学に進学した、元『ガーデンティーパーティー』の攻略キャラクターです。

 友美先輩を隣に座らせ、さーりゃん先輩の事情説明を聞きながらだんだん不機嫌になって行ったのは、かつてのメイン攻略キャラクターであり、現在は友美先輩の恋人となった“あの”空条明日葉(くうじょうあすは)……先輩。

 今年高等部を卒業したばかりだとは思えないほど、大人の男性……っという感じです。

 今日はラフなざっくりセーターを肩から掛けていて、まるでセレブな人がテニスにでも来たかのよう。 ……いえ間違いなくセレブなんですが。

 ただのセレブでは無くて何処かの青年実業家(わかしゃちょう)でもおかしくなさそうに見えるのは、纏った王者の雰囲気(オーラ)に加え、現在醸し出している不機嫌さが拍車をかけている様な気がしてなりません。

「央川はそういう事はしないと思っていたが……」

 その横で至極真面目そうな表情でお茶を口に運びながらしみじみと言ったのは、空条先輩のご友人で、護衛役も務める椿三十朗(つばきさんじゅうろう)先輩。

 ……何もしてないけど思わず謝ってしまいそうになる位……でっかいコワモテさんです。


 今回さーりゃん先輩は、どう連絡を取ったものか私達を引き連れて、卒業した筈の2人の先輩に会いに来ていたのでした。

 ……『私が、お2人にお会いしたがっているから』と、そんな理由で。

 いえその、確かに機会があればお会いしたいとは言っていましたが、まさかこんなに早くにお会いできるなんて!

 いえそうではなく、あの、何が何でも逢いたいなんて、そこまでは言ってませんでしたよ?さーりゃん先輩。

 というかこの間の『恋に対抗するには恋(アレ)』、まだ引きずってたんですか?でっかい引きずってたんですね!?


「ああ、“特別扱い”って事ですか?そうですね、彼女は私にとっても特別なので。“私が”紹介しておきたかったんですよ」

 先輩は本当に親身になって相談に乗ってくれますし、今回みたいに特にお願いしなくても、“私の為に”と何でもしてくれます。時にそれは、とても楽しそうに。

 それはきっと私が、“初めて会った前世仲間”だから、なのでしょう。

 きっと、本当の意味での“仲間”がいる事が、すごくうれしいんだと思います。

 独りじゃないって安心して、それで喜んで、何でもその人の為にしたくなっちゃうんだと思います。

 ……私もそうですから。


 『私がしたかった』と意味深に微笑んだ先輩に、目の前のお2人は、わずかに目を見張った様な気がしました。

 そんなちょっとだけぴりっと緊張した空気も、

「まあ、それはそれで口実なんですけどね」

 と、お茶を飲みながらそう言ったさーりゃん先輩の一言で、あっさり壊れた訳ですが。

「なんだと?」

「こうでもしないと中々会えないでしょう?空条先輩と友美」

目つきが鋭くなった空条先輩に、さーりゃん先輩が構う事無くしれっと言ってのけると、「櫻ちゃん!!」と空条先輩の隣から真っ赤になった友美先輩の抗議が飛んで来ました。……わあ。

 真っ赤になって照れ隠しにツンツンする、ちょっと涙目みたいな友美先輩も可愛いです。

 さーりゃん先輩が友美先輩の事いじる気持ちが、少しだけ分かったかもしれません。

 これが新しい扉というヤツですか……?


「……ところでさっきから“央川妹”は静かだな」

 空条先輩がふと気付いた様に話題を変えました。

 その視線は、私の隣にいて、挨拶をしてからほとんど無言のままの美々ちゃんの姿を捉えています。

「誰かと違って、ですか?余計なお世話ですよ」

 さーりゃん先輩があてこする様にそう言って、つんと横を向きました。

「何か、聞きたい事でもあったか?」

 椿先輩が、静かに低い声で美々ちゃんに話しかけます。

 もしかしたら、よく気を使う方なのかもしれません。

 多分これが、彼女と先輩の初めての会話だったと思います。

 でもなぜか美々ちゃんは、びくっと肩をすくませて無言で縮こまってしまいました。

「ああ、すみません椿先輩。この子男性が……特に大きな男の人苦手なんですよ。子供の頃ちょっとありまして」

「……おい、何で連れて来た」

 さーりゃん先輩のフォローに空条先輩が渋い顔をします。

 友美先輩が苦笑気味に、そっと空条先輩の腕に手を添えました。

 というか、そうだったのですか。知らなかったです。

 言われてみれば、美々ちゃんは同学年の男子とも大分……いえかなり距離を置いているみたいでしたっけ。

 上級生の男子生徒とすれ違う時も、どこか怖々私達の後ろに隠れていた様な気がします。

 『子供の頃ちょっと』って、何があったのでしょう?まさか、誘拐とかですか?それは確かにトラウマになりかねませんが。


「付き添い兼紹介がてら、ですよ。言って置きますけど私が強制したんじゃなくて、本人が付いてくって言ったからなんで」

「……ごめんなさい」

 さーりゃん先輩のその言葉を受けて、縮こまったままの美々ちゃんが小さな声で謝ります。

「いや、いい」

 椿先輩がそう流してくれたので、その時はそのまま何事も無く終わりましたが。

 

 結局その後、予定通り友美先輩を置いて、私達は大学を後にする事にしました。



 それから数日。

 ゴールデンウィークも真っ只中の祝日に、私は美々ちゃんと一緒に買い物に来ていました。

 最寄りの駅まで車で送ってもらい、待ち合わせしていた美々ちゃんと無事に合流。その後駅ナカのショップを冷やかし、お昼になったのでどこかで食べようかと駅の外に出た時でした。


 がつっ、だか、ばっ、だか、とにかくそんな何かぶつかるような音がしたかと思うと、私のバッグは驚くほど簡単に、するりと手から離れて行ってしまったのです。

 ひったくりでした。

 自分ではちゃんと持っているつもりだったのです。でもすでに時は遅く、今もバッグと自分の距離は離れて行ってしまって―――

「だれかっ、だれか助けて!!」

 あまりの事に凍りついて身動き取れないままの私の隣で、美々ちゃんが、普段の彼女からは考えられないほど必死で切羽詰まった大声を出しました。

 その時。

「これか?」

 がつっ、と鈍い音がしたかと思うと、私のバッグを持って逃げた人は、体格のいい男の人に簡単に取り押さえられてしまったのです。

「え……」

 何という偶然でしょう。

 助けてくれたのは、“あの”椿三十朗……先輩でした。


「これで間違いないか?中身を確かめてくれ」

「は、はい……」

 奇麗な手際で犯人の首に手刀を落とし、あっさり気絶させた後(いいんでしょうか……正当防衛って事になるんですかね……?)歩道の隅に寄せてから、先輩は私のバッグを持ってこちらへとやって来ました。

「怪我は、無さそうだな」

「はい、あの、おかげさまで……」

「あ、あの……っ、先輩、怪我、とか……。大丈、夫……ですか?」

 あまりに素早い一連の出来事について行けてない私がぼんやりと返事をする横で、青ざめた表情の美々ちゃんが椿先輩に向かって、たどたどしい口調のまま詰め寄っていました。

「先輩……ああ、お前達はこの間の……。俺は……大丈夫だ」

 先輩のその言葉に、美々ちゃんはホッとしてへたり込んでしまいました。

 私もですが、美々ちゃんもかなりいっぱいいっぱいだった様です。

 椿先輩がしゃがみ込んで美々ちゃんを覗き込んでも、彼女はこの前の様にビクついたりはしませんでした。

 ……それだけの余裕が無かっただけかもしれませんが。

「そうか、心配してくれたんだな、……ありがとう」

 先輩は怖いながらも優しい笑顔で、くしゃりと美々ちゃんの頭を撫でました。


「ちっ」


 不意に何処からか舌打ちのような音が聞こえた気がして、思わず私は周囲を見渡しました。

 周りには今の出来事のせいで人が集まりつつあって、その中から不審な人物を見つけようとしても、所詮素人の私には判断できませんでした。

「あれは――――――……」

 だからきっと……多分、気のせいだったのでしょう。

 どこかで見たような人が、いた様な気がしたのも。

「人が集まって来たな」

 外側を向いていた私の頭の上から、椿先輩がぽつりとそう言いました。

 先輩は、私の見ていた方向を、まるで睨みつける様に険しい表情で見ていました。


 「行くぞ」と声をかけられ、私達はその場を移動する事になりました。

 警察への連絡や詳しい事情説明については先輩の方でどうにかすると言われてしまい、まだ混乱の収まらない私達は、素直に頷いてお任せする以外出来ませんでした。

 そうして連れて来られたのは、駅ナカフードコートの一角。

 和風カフェ『万寿堂』。

 ここではない本店の方の話になりますが、口コミでの人気も高く、私も興味本位で1度入った事があるお店でした。

「以前、央川の姉の方とも一緒に来た事があったな」

 席に着くなり椿先輩がそう言ったので、私も美々ちゃんも先輩の方を見ます。

「お姉ちゃん、と?」

「ああ。確か『姉』が1年だった時の……夏休みだったか」

「そう、なの……ですか」

 敬語の苦手そうな……というか、あまり話す事自体得意そうに見えない美々ちゃんが珍しく頑張ってるのは、話題が自分の『姉』に関する事だからでしょうか。

「羊羹を一緒に」

「ヨウカン……。珍しい。和菓子、お家だとあんまり食べないのに」

「……そうなのか?」

「そう……です。あんまり甘いもの、食べない?から?」

「好きそうだったがな」

「大好き、だけど、お姉ちゃん、体重とか気にしてるから」

 それバラしていいんですか!?美々ちゃん!

 何故か話が弾みはじめた2人を見て、私はこっそり携帯を取り出しました。


『これって何かのイベントですか?』

 気付かれない様細心の注意を払いつつ、さーりゃん先輩にメールを送って事情を説明したところ、こんな返事が返って来ました。

『まさかの椿×美々ルート……だと!?いやいやいや、そんなまさか』

 まさかねー、と続けた先輩。……でっかい動揺してます。

 あの、こっちはイベントかイベントじゃないかの確認がしたかったのですが。

 先輩の中では今回のこれは、どうにもイベント扱いになってしまっているようです。

 本当に……どっちなんでしょうか……。

『今何の話してんの?』

『さっきまでさーりゃん先輩の話で盛り上がってました。今は……運動とか体育の授業の事で盛り上がっているみたいです。地味に』

『まあ、あの2人ならキャーキャーうるさくはしないだろうけど』

 さーりゃん先輩と話し込んでいる内に、いつの間にか話題が変わっていました。

「何か得意なものはあるのか」という椿先輩の質問に対して、「テニスとかバドミントン。結構、面白い……です。お姉ちゃんと、小さい頃からずっとやってた」などと淡々と答えて行く美々ちゃん。

 この前感じていた怖さは、さっきの今で完全に無くなった様ですね。


『あの男嫌いがよりによって椿先輩とか……。家族会議開くべき?弟にイケメンでマッチョな兄が出来ると言ったら……あ、ダメだそれ喜ぶだけだな。しかも去夜君が空気決定だわコレ』

 先輩先輩、妹さんは多分今すぐにはでっかいお嫁に行かないと思います。

『きょーやくん泣いちゃうなあ』

 そろそろその辺で、でっかい止めてあげて下さい。





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