方法その2 イベントが起こる前に自分で恋人候補を見つけてしまいましょう 前編
「先輩、東雲先輩の第1イベントって、一緒にお菓子作りするので合ってますよね?」
「いやそれ観月先輩のイベント。しののんのは一緒にお菓子を飾り付けする方」
「………でっかいビンゴです……」
放課後、わざわざ誰もいなくなる時間まで待ってから私の教室に立ち寄って下さったさーりゃん先輩に、私はありのまま起こった事全てをお話ししました。
数日前の事です。
下校の為、私は美々ちゃんと一緒に校門に向かっていました。
彼女は徒歩、私は車でお迎が来ているので、一緒に居られるのは校門までです。
本当は一緒に帰りたいなと思っていたのですが、そこに辿り着くまでに事件は起こりました。
通り道にした1階の廊下の先、甘い匂いのする調理実習室から顔を出したのは、よりによって“あの”東雲愉快!……センパイだったのです。
帰りますと言えば、上級生に逆らうの?なんてにっこり微笑まれ、私は自らの失態を知りました。
「時期も過ぎてますし、偶然とか、考え過ぎだとか言われてしまえばそこまでなんですけど……」
「まあねえ。でも完全には否定しきれないかな……。美々もその場にいたの?」
「ん」
隣に座っていた美々ちゃんのその返事に、先輩は考え込んでしまいました。
「私の時と同じ状況か……。判断つかないから、とりあえずイベントかそうじゃないかはひとまず置いとくとして、それで?どうやって逃げて来たの?」
「お菓子を少しだけ頂いて、後は東雲先輩の作業を見ていました。……本当に奇麗に飾り付けしていくんですよね。だから余計、“すごく”もったいないなあって」
なんで“あんな”性格なのでしょうか……。
人をおちょくったり、罠にはめたり、脅かしたり、……それを楽しんだり……。
確かに、それにも理由があるのは知ってます。
でも私は、東雲先輩のその自分勝手な性格はやっぱり好きになれそうにありません。
それでも少しは、見直した部分もありました。
今回見ていて分かったのです。先輩にだってちゃんと才能はあるのだと。
細かい作業も丁寧にこなし、飾り付けの為の色やバランスのセンスもある人なのだと、この私でさえ感心させられてしまったのですから。
「適当な事言うつもりで『フードスタイリストにでもなればいいんです』って言ったら、フーンって、……言われて、その、」
あ、思い出したら顔が赤くなってきました。
「どした?」
「いえその」
は、恥ずかしい……です。
「顔覗き込まれてたから止めたけど」
美々ちゃん!!
「美々グッジョブ!」
先輩でっかいサムズアップです!それに何で嬉しそうなんですか!完全に面白がっていますね!?
「にしても、んー、ごめん、それ失策だったかもしんない」
「えっ!?」
「好感度上下までは分からないけど、興味持たれたかも……」
腕組みをして考え込む先輩を見て、私は急速に顔がこわばるのを自覚しました。
「私も友美のイベントの時、似たような事言ったんだよ。でも何でかその時はフーンで流されて終わっちゃって、後続のイベントも起きなかったんだけどさ」
フラグが折れたのなら、良い事では……?
「そのアイツが同じ『フーン』でもそんなリアクションするって事は、まーりゃんの場合返って気にされたかもね。例えば“私”と同じ事言った、とかって理由でさ」
ええーっ!?……そんな………。
がーん、と思わず項垂れてしまいました。
……どうしよう……というか、どうしてそうなっちゃうんですかー……。
「後は……そうだなあ」
まだ何かあるんですか!?
「まーりゃんて“情報”強い方?」
「え?何ですか急に」
唐突に言われて、思わず目を白黒させてしまいます。
混乱する私に追い打ちをかける様に、先輩は立て続けに質問を浴びせて来ました。
「ネットとか細かくチェックするタイプ?ニュース番組とかは?あるいは新聞や雑誌。友達の情報はどのくらい把握してる?噂、詳しい方?」
ビックリが落ち着かないまま私は、深く考えずに一つ一つ答えて行きました。
「ネットは、まあ。雑誌もテレビもある程度はチェックしますね」
前世は情報の入手の手段が限られていた上に、暇な時間だけはあった為か、そういった『外の世界』の話には飢えていたようで、テレビや雑誌のチェックは欠かさずしていた様です。
だから、その癖……というか名残の様なものが染み付いてしまっているのかもしれません。
まあこのご時世、情報は大切なので、今さらこのチェック癖を止めるつもりは無いのですけれどね。
「友人関係は、まだたいして広がっていませんが、持ち上がりなので中等部の頃の友人なら……」
確かに、中には情報通と言ってもいいような子もいましたけど。
私のその言葉に、さーりゃん先輩は顔を顰めました。
「……不味いね。このままだと第2、第3のイベントが起きる可能性ある」
「「えっ!?」」
その言葉には、私も、隣で黙って聞いていた美々ちゃんも驚きました。
「『東雲愉快』の“注目パラメ”は“情報”なんだよ」
そっちも気にしなければなりませんか!
盲点でした。
イベントにだけ気を取られていましたが、この『ゲーム』はシミュの部分もあったのです。
「そうだなあ、……ねえまーりゃん、どうしても回避したい?」
「え?それは……是非そうしたいのですが」
最初からそう言ってますが。何で念の為の確認をするんでしょう?
「例えばだよ?例えば……東雲君とイベントを起こす前に他の人とのフラグ建てるとかはどうだろう」
「えっ!?」
「……お姉ちゃん」
心配そうに美々ちゃんが声を掛けますが、私はそれどころではありません。
それは、つまり……?
「恋に対抗するには恋!……っていうのはどうかな、と。東雲君より先に他の誰かとくっついちゃえば、さすがのヤツも手出ししなくなると思うんだ。こう、別の方向から攻略不可にするというか、フラグを折るというか……」
え?え?え!?
戸惑う私に構わず、先輩は案を煮詰めて行きます。
「とはいっても観月先輩は留学中で、きもりん……木森浩太も渡英中。大寺林先生には会えてるだろうけど、担当学年が違うせいであまり接点は無いだろうし……」
そもそも大寺林先生、今なんか浮かれてる臭いんだよなあ……と独り言のように続ける先輩。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!ストップ!そこまで!」
美々ちゃんの必死の制止で、ようやくさーりゃん先輩の暴走も止まった様です。
さすが現役の妹なだけはあります……。
「え、あ、ゴメンゴメン。一人で突っ走ってたか。まあともかく、今後は“情報パラ”控えめに、他のパラメ上げてくと良いよ」
先輩の攻略に対する姿勢が前のめり過ぎてついて行けません……。
というかここ現実の筈なのに、ホントにでっかいゲーム攻略みたいになってます……。
ありがたいですが……非常にありがたいし、頼もしいのも分かるんですが……。
さ、参考程度に考えておきたいと思います……。
「あの、先程の話は……」
「ああうん、他キャラ攻略の話?気にしなくていいよ」
その言葉にホッとしました。
向こうがダメならこっち、みたいなのはどうかと思いますし、何より私自身が誰かとお付き合いをするとか、今はまだ考えられないので……。
「別にどうしても『キャラクター』に恋しなきゃいけない、って訳じゃないんだし、まーりゃんが自分で自分の恋人を見つけられるなら、きっとそれが一番だよ」
先輩も、にっこり優しく笑ってそう言ってくれました。
恋人、ですか……ちょっと照れちゃいますね。
「まあ、こっちもその内紹介してあげるから」
……話、終わったんじゃ無かったんですか!?
それから、しばらくの間は平穏な日々を過ごしました。
友人の輪も徐々に広がりつつあります。
もちろん、美々ちゃんとも相変わらず仲良しです!
ただ……東雲先輩がうざいです。
結構な頻度で見かける上、その度に声かけて来る(しかもなぜか毎回違う女の子侍らして!)ので、さーりゃん先輩に説教願い出しておきましたが。
4月後半には、さーりゃん先輩の誕生日がありました。
なんとあの有名な、『娘大好きファーザー』こと友美先輩のお父様経営のレストランにお呼ばれです!
ごはん、すっごく……いえ、でっかいおいしかったです!
今回はごく内輪だけの集まりとの事で、さーりゃん先輩の会社関係者の方はほとんどいらっしゃいませんでした。ちょっとほっとしたのは内緒です(笑)
私は白樹先輩や友美先輩、友美先輩のご両親、それに美々ちゃんとさーりゃん先輩のご家族の方たちとご挨拶させて頂いて、豪華で華やかなひと時を過ごさせて頂きました!
だって周りの方々、皆さん美形なんですよ!これを豪華と言わずに何を豪華と言えと!?
誕プレも、もちろんお渡しして来ました!
美々ちゃんと弟さん、それに留学生だという超絶美少年による家族からのプレゼントとして、花柄のフェイスタオルが贈られていました。
……当たり前の様に海外の高級ブランド輸入雑貨でした。……もしかして1点モノだったり……しませんよね?
友美先輩は『レニー・イン・ザ・ナイト』の春季限定トリュフ。
このブランドさんは、どちらかというと秋季限定の『ハロウィンシリーズ』が有名なのですが……さすが自他共に認めるスイーツ好きの友美先輩、マニアックな選択です!(褒め言葉ですよ?)
皆で一緒に食べようと思って、と言って頂いたので、さっそく遠慮なく頂いちゃいました!至福です!
白樹先輩からは、とっても素敵な花束が贈られました。こちらも別の意味で甘いです!
さーりゃん先輩が嬉しそうに「ブリザーブドフラワーにする」と言ってはにかんだのが印象的でした。
サプライズプレゼントとして、海外にいるという元攻略キャラクターの『木森浩太』……さん、からなんと自作のドールが贈られるという場面も!
完全個人作成の試作1号だそうです。なんとうらやましい。
ドールさんは友美先輩をモデルにしているとの事で、ふわふわの髪につぶらな瞳の可愛らしい女の子でした。
どちらかと言えば、ゲーム内の主人公のイメージに似てるかもしれません。ポーズとか取らせるとほぼそのままです。……っていうか分ってますねさーりゃん先輩。
秋口にある友美先輩の誕生日には、さーりゃん先輩似のドールを友美先輩に贈るとの予告もあり、お二方とも「一緒に座らせて皆で写真撮ろうね!」などとすごく盛り上がっていました。
どうでもいいですけどさーりゃん先輩、個人的に“2人目の姉妹”をお迎えするのはでっかい危険ですからね?先輩なら十分にお分かり頂いてる事とは思いますが。
私自身としては、お腹を押すとしゃべる猫のぬいぐるみ(1/1サイズ)をプレゼントさせて頂きました。
確かに他の方々のプレゼントから見ればチープと言われてもおかしくないのでしょうが、それでもお渡しした時に先輩が「つるふわ……っ!!」と言って感激した様にぎゅっと抱きしめていたので、この選択は間違っていなかったと確信しました。
ふと視線を上げれば、そんなさーりゃん先輩の横で白樹先輩が目を見開いていましたが。
え?
え?今?
え、むしろ今ですか?
ちなみに旧主人公が新主人公に貰ったにゃんこ先生ぬいぐるみですが、1/1という部分はともかく、作者が誕生日に実際に頂いたものです。
その節はどうもありがとう。→某氏




