方法その1 頼りになる先輩を味方につけましょう 後編
うう、ショックが隠せません。
あのゲームセンターの店員さんはバグ枠なんて言われるくらい人気あって、……当然と言うか何と言うか私も好きだったりしたんですよ。かっこいいキャラでしたし。
言われるまで忘れていたとはいえ、思い出してしまえばやっぱり残念としか……。
何で私、2年も後に生まれて来たんでしょう……。あ、ちょっと泣きそうかもです。
「さて、ひと通り話せたし、今日はこんなところかな」
私がひそかに落ち込んでいるのに気を使ったのか、先輩が気を取り直す様に明るい声で声をかけて来ました。
私は慌てて、立ちあがります。
「あ、今日はありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして。私も君と知り合えて良かったよ。何かあったら遠慮なく言って?後輩ちゃん」
「あ……」
わ、後輩……。それはその、先輩にとって特別な後輩と認められたという事でいいのでしょうか……。
「それと、この子ともよろしくね」
「痛い、おねーちゃん」
ぐい、と美々ちゃんの頭を引き寄せ笑います。
先輩美人さんなのに、何だか“にかっ”っという豪快…?な笑みというか、ちょっと凄味のある笑い方というか……。でもその質問には、当然肯定で返しますよ!
「もちろんです!美々ちゃん、これからもよろしくお願いします!」
「……当然」
そう私が宣言すれば、先輩の腕を外した美々ちゃんも真面目な表情でこくんと頷いてくれました。
「そういえば、さっき会ったあの上級生、『東雲愉快』だって気付いたみたいだったけど、何かワケアリなの?」
「え?」
「いや、嫌がってるみたいだったからさ。まあ、アイツは確かに癖のあるヤツだけど……」
そういえばさっき、「大っ嫌い」とか言った気が……。
タイミング的に先輩があの発言を聞いていたかは微妙ですが、その後の私の態度で察してくれたのでしょう、きっと。
だから、私は正直に告白しました。
「私、『ガーデンティーパーティー』のキャラの中でも『東雲愉快』だけは―――いえ、はっきり言いましょう。私にとって、『東雲愉快』は『地雷』です」
場がしーんと静まり返りました。
「それは、何か踏んではいけない心の傷みたいな物……という訳では無くて、要するに許せない位大っ嫌いという事?」
「それで合ってます」
先輩と私は、とても真面目な顔で頷き合いました。
「ちなみに理由は?」
「性格とイベント内容、です」
「……それは、仕方ないというか何というか……」
困らせてしまったでしょうか……?
でも、あの軽い調子で相手を手の上で転がすのを楽しむような性格も、後半の、あの周囲を考えない行動も、私には耐えがたく感じてしまったのです。
「んー、でもフルコンプはしたんだよね?」
「ええとまあ、ざっとですけど多分。EDは記憶にあるのとないのとがあるので何とも……。元々はコミックスから入ったみたいです」
私の記憶が正しければ……というやつですね。
この辺は感覚に近いです。
「うーん……さっきも言ったけどさ、いわゆる攻略をする分には、そんなに難しくないと思うんだよね」
「望んでません」
「でっすよねー」
間髪入れずに返しました。
冗談ではありません。
「ほら僕等、その人物に関わる物事や趣味嗜好、考え方なんかを最初から知ってる訳ですし?だから……言い方がアレなんであんまり気にしないで欲しいっていうか、だいぶ上から目線の話だけど、その人物にとって欲しい言葉や行為、行動を与えてあげられる事が出来る訳だ。そうすれば、自分が主人公じゃ無くても、いわゆる好感度は上げられると思うんだよね。まあ実際に必須イベントが全部起こらなくても攻略成功した例が目の前にいる訳だし。……その気がある無いに関わらず」
そっと横を向く先輩。
不本意だって雰囲気を出してても、それ、自慢にしかなりませんから!
「まあそれはともかく。言った通り攻略自体は難しくないんだろうけど……、逆を言わせてもらえばフラグを折るのは実は難しいという事なんだよ。相手は私達の知っているゲームのキャラと同じであって、ただのキャラクターでいるだけじゃ無い。自分の意思を持って、自分の考えに従って行動する……あんまり美々のいる前でこういう言い方はしたくは無いけど、……“私達と同じ”、人間だ。“彼等”は時に“私達”の思いもよらない様な考え方をする事もあるし、場合によっては行動も伴う。知らない事情が出て来る事もある。……私の実体験を聞いてもなお、フラグをへし折るという新たなフラグ建てをしようとするかね?君は」
すごく、重みのある言葉を聞いた気がします。
でも、今の私には正直実感できませんでした。
困惑する私に向かって、先輩は急に明るく表情を変えて、
「まあどうしても嫌だっていうんなら、最初から近づかなければいいだけの話なんだけどね。特に君は2つも学年が下なんだから、接点なんてそうそう無いと思うよ」
とフォローしてくれました。
……そう、ですよね。
あまり深く考える事は無いのかもしれません。
向こうから接触しない限り、そしてよほどこっちに事情でも無い限り、『東雲愉快』との接点は無いはずですから。
「そうそう。深く考えずに学校生活楽しむと良いよ。美々、そういう訳だから、さっきの変質者にはくれぐれも近寄らない、近寄らせない様に。君も十分注意だからね」
「ん、わかった」
先輩の言葉に、美々ちゃんがこくんと頷きます。
……好きなゲームの攻略対象に対して変質者って、先輩って結構……。
というか、美々ちゃんが鵜呑みにしちゃってるみたいなのは良いんでしょうか……。
~~~~~~~~~~~~~~~~♪♪
「おやおや~、今日は連絡が多いなー……って、げっ」
再び先輩の携帯が着信を受けた様です。
でも何故か、妙な声を出しました……?
断るようなそぶりの後、席を立って外に行ってしまいました。
でも、すぐに戻って来て……。
「あー、えー、今から彼氏と親友がきまーす」
えっ……
えええええええええええええええっ!!??
こちらに来る時に、まだ校内に居る筈の彼氏(元攻略対象)さんや親友(元主人公)さんに、うっかり連絡を入れ忘れていたという先輩は、その流れでお互いの紹介をしてくれました。
元主人公の『篠原友美』先輩は、可愛いといった言葉がよく似合う、どこかふわっとした印象のお姉さんでした。
ゲームの頃の印象よりちゃんと年上っぽく見えるのは、2年という年月が経っているせいなのか、それとも私や美々ちゃんがいるからなのか、それは分かりませんでしたが。
それと、彼氏さん……いわゆる(元)2番手攻略キャラの『白樹去夜』先輩。
すっごくすっごくかっこいいです!!あとすっごく爽やかな感じですし!
いいんです。それは仲良くない人向けのパフォーマンスだっていうのは分かってるんです……。
でもでもそれでも良いんです!かっこいいものはかっこいいんです!
外見もすらっとしてて、なんというか、こう、まるでモデルさんみたいな!
髪の毛はちょっと色を抜いているみたいでしたが、案外普通なのですね。そこだけちょっと違和感です。
そんな素敵なお2人と、とても気安いやり取りをする櫻先輩……。
すごいです……。
見とれていたら、櫻先輩に「とっちゃやーよ」ってニヤリとされました。
盗りません!とんでもないです!!
「それじゃ」
「またな」
「学校で会ったら絶対声をかけてね!」
「また、明日」
「はい、また」
駅前のロータリーまで皆さんに送って貰ってしまいました。
道中は賑やかで楽しかったです。
途中で櫻先輩に、「私の事は『さーりゃん先輩』と呼びなさい。君の事は『まーりゃん』と呼ぶから。それと、形容詞の前には必ず“でっかい”を付けなさい。これ先輩命令だからね」と胸張って言われた時にはどうしようかと迷いましたが……。
美々ちゃんが「おねーちゃん!」と、少し恥ずかしそうに先輩の袖を引っ張るのを目撃したり、彼氏の白樹先輩がすかさず「またそんな変な事言って、相手困ってるぞ」なんて、まるで良くある事みたいにたしなめるのを見たり、親友の―――元主人公の篠原先輩には、「わたしの事も名前で呼んでね!その方が仲良くなった気がするもの」なんて言われて舞い上がってみたり。
ふふっ、最初にバレた時にはどうなるかと思いましたが、まさかこんな出会いがあるだなんて。
にやけた顔のまま家の車を待っていたら、人に気付かず、どんっとぶつかってしまいました。
「あっ、すまない」
「いえ、こちらこそすみません、ぼんやりしていまして」
彩星学園の制服……どうやら同じ学校に通う人の様です。
エンブレムは緑。1つ上の先輩の様でした。
「怪我は無いかい?」
「あ、ちょっとぶつかっただけなので大丈夫です。先輩の方は大丈夫ですか?」
「ああ、後輩に当たるのか。いや、こちらも問題無いよ。むしろあったら驚きだ」
体格的に、というその男子の先輩は、さっきの白樹先輩に比べれば地味……かもしれませんが、それでもそこそこ背が高くて、ちょっとだけ余計に男の人っぽいというか……。
かっこいい範疇には間違いなく入るであろうその人は、何かあったらここへ連絡して、と白いカード……名刺を渡して来ました。
同い年くらいなのに、名刺、ですか……。
「ボクは東条貴臣。空条って知っているかな?ボクはそこの親戚筋の中でも『空条四家』といわれる家の息子なんだ。だから、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「は、はい。あ、でも」
「無いなんて、言ってくれるなよ」
遠慮しようとしたのですけど、その前に先手を打ってしかも器用にウインクまでされてしまいました。
ええと……、お茶目な人、なのでしょうか?
「っと、すまないが今日は急いでいてね。また学園で会おう」
「あ……」
さっと手を挙げ、そのまま去って行かれてしまいました……。
ちょっと変な、でも少しぶつかっただけの私を気にしてくれましたし、悪い方では無いのでしょう。
「……東条先輩、か」
『空条』とは物凄く大雑把に言ってしまえば、世界でも有数の大企業です。
そして、ゲーム『夢恋☆ガーデンティーパーティー』の攻略キャラの苗字でもあります。
聞く限りでは、主人公と結ばれたお相手の方で……。
その『空条』のご親戚の方、ですか。
不思議なご縁、なのですね。
―――――――――――――その時は、そのくらいにしか思わなかったのですが。
明けて翌日――――――
放課後、私はさっそく櫻先輩―――改め、さーりゃん先輩に泣き付くハメになっていました。
『さーりゃん先輩、でっかい事件です!』
『なっ、何だって――――!?』
………先輩、でっかいノリがいいです……。
本編のエンディングから丸1年が過ぎて、旧主人公もあの頃とは色々考え方が変わって来ている様です。
変わらない部分もありますが(笑)
白樹君に対する真理亜ちゃんの態度がミーハーっぽいのは仕様w
好きだったゲームキャラにリアル邂逅したという衝撃でフィーバー状態になってます。
テンションが上がり過ぎて語彙が乏しい(笑)>「モデルさんみたい!」