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Q:地雷キャラに会った場合の対処法を教えて下さい! 

以前ファンディスクで書いた「そして新年度」の部分の焼き直し版。

少しいじっただけで、ほぼ内容に変わりは無いです。




 がたん、と大きな音を立てて、その扉は開きました。

「…………キレイ」

 思わず溜息が洩れます。

 話には聞いていましたが、ここは、予想していた以上に美しい場所でした。


 『私』が『この世界』に生を受けて15年、幸いにも重い病気に罹る事も無く、これまで生きて来る事が出来ました。

 健康のありがたみを日々実感しながら、それでも私は体に気を使って生きて来ました。

 私が唯一他人と違う点があるとすれば、それは私が『私』、つまり私として生まれる以前の『私』を覚えていた、と言う事です。

 いつからかは覚えていません。

 気が付いた時にはもう、私の心の中には『私』が住んでいました。

 とは言っても2重人格という訳では無いです。

 当時の記憶、その時感じていた感情が残っていて、時折何かのきっかけで思い出す、といった感じです。



 前世の『私』は、あまり恵まれた人生を送っていた訳では無かったようです。

 少し思い出すだけで溢れて来る、寂しい、つらい、苦しいといったあまりよくない感情に、小さな頃の私は引きずられてしまい、一緒になって苦しんでいた様に思います。

 親にもさんざん心配されてしまいました。

 どうも当時の『私』は入院患者だったらしく、薬の臭いのする中寝込んでいたのが大半だった様です。

 そのつらく苦しい日々の記憶のおかげで、今生きている私は病気にならない、怪我もしない!をモットーにしているくらいです。

 あんな気持ちは、記憶の中だけで十分ですからね。


 外見上の共通点は、ほぼ無いと言っていいでしょう。

 今の私は、どうも御先祖様の何処かに海外の人の血が混ざっているらしく遺伝的に色素が薄い為、肌が白いとよく言われます。

 『あの頃の私』は病気だった事もあり、同じ肌の白さでもやはりやつれている印象がありました。

 髪も、染めた訳でもないのに明るい髪色をしていますが、『私』の頃は脂っ気の無い黒髪だったように思います。

 今も確かに纏まりの無い髪をしていますが、私のコレは猫っ毛って言うんですよ!違いますからね!

 ……無駄に腰まで長さがある為に、毎日大変です。

 家族の仕事の都合上、勝手に切るなと言われているので切れないんですよ……。

  

 入院していた『私』の日々の慰めは、持ち込んだ本の数々。

 その中でもお気に入りは、少女向けコミックや少女小説だったのはご愛嬌……?

 特に、その中でも気に入っていた本がありまして、それはとあるゲームのコミカライズ本だったのですが、まだそれほど症状がひどく無く、一時帰宅が許されていた頃にはゲーム自体にも手を出していた様です。


 それがこの世界と密接に関わってくる記憶だったなど、幼い私はまったくもって気付かなかったのでしたが。

 ……ハア……。


 ともかく、今まではそれだけで済んでいました。

 この学園、『私立彩星学園』中等部に入学する事を決めたのは両親でしたし、私もそれで何の問題もありませんでした。

 そうして時間は瞬く間に過ぎ、高等部入学間近になった頃、私達の周囲は一時期とある話題で一色になりました。

 それは、この学園高等部の中でもトップクラスの成績優秀者、並びに有数のセレブの家の人たちが集まった“秘密の倶楽部”が存在する、と。

 その“秘密の倶楽部”が開催されるのが高等部の目玉施設、“屋上温室”だったというのも、話の盛り上がりに拍車を掛けた要素だった気がします。

 かく言う私自身もその話題に飛びつき、あれこれ想像をめぐらせた一人でしたが。

 だって、想像するだけでうっとりしちゃいません?



 とにかく、そんな訳で高等部入学式が終わった後、憧れの屋上に来てみました。

「気が、済んだ?神山さん」

「うーん、もう少し」

 一緒について来たのは、今日の入学式で知り合ったばかりのクラスメイト、央川美々(おうかわびび)さん。

 央川さんは、最近日本に帰って来たばかりだという帰国子女で、今の3年にお姉さんがいるそうです。

でも何故かそのお姉さんからは、“現在の屋上には近づくな”と言われていたそうです。

 どういう意味なのか分らず、でもせっかくクラスメイトが忠告してくれたので、少しだけ一緒に覗いて帰ろうという事になりました。

 もしかしたら、この機会に友達になれるかもしれないですしね。


「あまり奥に行くのは、お勧めしない、けど」

「大丈夫ですよ?何も不審な所は無いみたいです。あ、あれ、東屋ですね」

「東屋…」

 ぴくっと彼女が動きを止めました。

「これ以上は、危険」

 央川さんが袖を引いたので、私も自然と止まります。

 ……どうやら、ここまでの様ですね。

 周囲をぐるっと見渡して、見納めとする事にしましょう。

「残念です。でも、お友達の方がもっと大事です。だから今日はここまでですね」

「お友達……」

「嫌ですか?」

 少しびっくりした様子の央川さんに、少し急だったかな?と声をかけると、ふるふると首を横に振られました。

 良かったです。

「では戻りますか、美々ちゃん」

「―――…」

 央川さん、いえ、友達の美々ちゃんが、何か言いかける様に口を開きかけた時でした。


「さっきから誰かの声が聞こえると思ったら、そんな所で何話してんの?ねー君達、よかったらこっちで一緒にお茶しな~い?」

 前方の東屋から、男子生徒が出て来ました。

 明るい髪の色に、ぱっちりとした大きな目。

 最初に何かな、とこちらを覗き込んでから、人懐っこそうな笑顔に変わるまで、くるくると良く変化するその表情は、暗い部分なんて欠片も見えず、まるで子供の様。

 軽い調子のその声を聞いた途端、どくん、と私の心臓が大きく跳ねました。

 あ、これは、過去の『私』が何か思い出した時と同じです。

 でもまだ、まだ、それが何なのか分りません。

「………失敗」

 ぽつりと、美々ちゃんが呟きました。

 危ないとか危険とか、もしかしてこの人の事ですか?

「あ、の……」

 ネクタイと胸ポケットのエンブレムの色は赤。3年の上級生でした。

 少し隠れる様に後ろに下がった美々ちゃんの様子を見るに、このお話はお断りした方がよさそうです。

 どうやって上手に断ろうかと考えながらその人を見上げると、何かに気付いた様にその人はにっこり笑って、

「ああそっか、ハジメマシテだよね?僕は“東雲愉快(しののめゆかい)”3年だよ」


 その瞬間、まるで雷が落ちたみたいな衝撃が私を襲いました。

 なんで、何で気が付かなかったのでしょう。

 私は今まで、『この世界』の何を見ていたのか。

 ああ、だめ、だめです。

 思わずよろりと1歩後ろに後退りました。


「しののめく~ん、なにやってんのよ~」

「しのく~ん、早く戻ってきなよ~、そんな子達かまってないでさ~」

「しーのくーん」

「ゆーく~ん?」

「はやくはやく~」

 東屋から声が聞こえたかと思ったら、何人かの女子が表に出てきました。

 それを見た途端、私は思わずダッシュで逃げかけていました。

「神山、さん!?」

「えっ、ちょっと!?」


 慌てた様子の“東雲愉快”が私の腕を掴みました。

 運動パラは(・・・・・)条件に入って(・・・・・・)いなかった(・・・・・)のに、実は運動神経も良かった、という事ですか!?

「待って待って、もしかして誤解した!?違う違う、全然違うって、彼女達は友達!ただの友達だからね!?僕今付き合ってる子とかいないからさ!」

 その言葉に、私は瞬間的にキレてしまったのです。

「私は、あなたの、そういうとこ(・・・・・・)大っ嫌いなんです!!…っ、何で、何で“あなたが”“ここで”ハーレム築いてるんですか!?」


 『私』、『夢恋☆ガーデンティーパーティ』のキャラの中でも、『東雲愉快』だけはダメなんです!

 性格も、シナリオも、全部全部全部―――!!



 地雷なんです!!



「ちょっと、何の騒ぎ?」

 その時、後ろからキツそうな女の人の声が聞こえました。天の助けです!

「お姉ちゃん」

「何やってんの美々」

 美々ちゃんと私が振り返ると、呆れた様子の女子生徒が立っていました。

 この人が、「屋上は危険」だと言ったというお姉さんですか?

「ちょっと東雲君、その手を放しなさい」

「えー」

「婦女誘拐暴行容疑で警察」

「えーっ!?」

 わかったわかったよー、と言いながら、東雲……先輩は私の手を離してくれました。

 ささっと女子先輩の後ろに隠れます。

 ハーレム女子達がブーイングしていますが、私は断然、女子の先輩の味方です!

「念の為見に来てよかった。哀れな子羊達が、東雲君の毒牙にかかる前に救出できたみたいだもんね?」

「毒牙って酷いよー。ただちょっと一緒にお茶しようって誘っただけなのにさー」

 ハーレムさん達がそうだそうだーとかそんなノリで加勢しますが、女子の先輩は気にした様子がありません。丸無視です。シカトです。

 ただ少しだけ悲しそうに溜息をつきました。

「こんな事が長続きするもんじゃないって、知ってるでしょ?“先輩達”がいなくなって、“ティーパーティー”も解散した。今の君のやってる事は、公共の場を私物化し、女の子を侍らして風紀を乱しているだけだって。……これが最後通告だよ。生徒会は今後いっさい君を庇わない」


 状況は何となく把握しました。

 “ティーパーティー”と言っていたから、ゲーム本編のシナリオは発生したのだと思います。

 でも話の内容から察するに、“東雲先輩”は“ヒロイン”と結ばれなかったんだと思います。

 その結果が、コレ(・・)、ですか……。

 何というか、凄くがっかりです。

 思わず隠れた女子先輩の服を掴み、俯いてしまいました。

「ああ、ご免なさいね?忘れてたわ」

 私の存在に気付いたらしい女子先輩が振り向き、安心させる様に笑いかけてくれました。

 今更ですが、改めてちゃんと顔を見た気がします。

肩より少し長い黒い髪、左側の上の部分を軽く摘む様に、細い臙脂(エンジ)のリボンで結んでいます。

 可愛い、と言うよりは奇麗、美人な先輩さんです。

 それに生徒会関係者なら、事の経緯を知っていてもおかしくないかもしれないです。

 確か、誰かのルートで生徒会が絡んでくる話があった気がしますから。


「私は生徒会会計『央川櫻(おうかわさくら)』、3年。そこの『央川美々』の姉よ」

「私は、『神山真理亜(かみやままりあ)』、1年です」

「友達?」

 先輩…央川先輩は、美々ちゃんに確認する様に顔を上げると、美々ちゃんもそれに応える様にこくんと頷いてくれました。

 友達。彼女が私の事を友達だと言ってくれて、こんな時だけど嬉しいです。

「そう、この子人見知り強いし癖のある子でとっつきにくいとこあるけど、仲良くしてやってね」

「おねーちゃん!!」

 にっこり笑った先輩に、美々ちゃんが初めて大きな声を上げました。何だか怒ってるみたいです。

 ……正直びっくりです。物静かな子だと思っていたので。

 まあ、私も人の事は言えませんが。

 中等部の頃から、大人しい子という認識でしたから。


「何照れてんの?もう行くよ。しののん、君等も撤収だからね!」

「えー!?」

「えー、じゃないよ!さっきの話聞いてた?ちゃんと。言っとくけど2度目の忠告は無いと思いな!」

 びしっと東雲先輩を指した先輩は、その髪型に似合わず凄くカッコ良かったです。

「ぶー。でもさー、僕まだその子達とお茶したいなー、って」

「さっきあんだけ嫌がられてて、まだ懲りないか」

「だーってさー、僕達初対面だよね?何か“知ってるみたいだった”から、どこかで会った事あったかなー?って」

 ぎく。

 あ、さっき勢いに任せて叫んじゃいましたから。

 しまりました。これで終わり、もう無関係だと思っていたのに。

「……ふーん」

 央川先輩も何故かこっちをじっと見て考え込んでいるみたいです。

 う、売り飛ばされたりしないですよね?

 びくびくしているのが分かったと思います。

「ならその話は場所変えてやろうか。女の子同士の方が話しやすいって事もあるだろうしね」

「ちょっとー!?」

「はい撤収!!」

 にっこり笑って撤収を命じた央川先輩の様子に、渋々といった感じで東雲先輩達は片付けを始めました。

 ハーレムさん達は不満そうですが、私の身の安全の為にも大人しくしていて欲しいです。

 ……目を付けられたらどうしよう、困るなあ。

 こっそりと溜息を吐くくらいは、見逃されてもいいと思います。


「さ、君達も行くよ」

「神山さ……真理亜ちゃんの事、話、するの?」

「いや、あれは単なる離脱の言い訳。ああでも言わないと諦めないだろうしね」

「そうなの」

「話がしたいなら2人で話せば良いじゃない。せっかく友達になったんでしょ?ええっと、神山さん?この子海外から戻って来たばっかりで、日本語不自由なとこあるから」

「うるさい」

 けりっ

 またまたびっくりしちゃいました。

 不機嫌になった美々ちゃんは、なんとお姉さんの足に向かって軽く蹴りを入れたのです。

 実際には当たらなかったので、もしかしたらフリだけだったのかもしれませんが。

 でも、それだけだってびっくりです。

「はいはい、それも含めていっぱい話して、ゆっくり仲良くなっていってねって言いたかったのよ」

 友達じゃなくて姉妹だから、こんなに気安い感じに見えるのかもしれないです。


 そんな事を考えながらぼんやり2人の後をついて屋上から出ようとしていたら、たまたまこっちに話しかけようとしていたらしい央川先輩が、不意に立ち止まりました。

「あれ?君、タイがずれてるよ」

 手を伸ばし、ささっと私の首元の青いリボンタイを直してくれました。

 さっきの騒ぎで少しずれてしまった様です。

 その時さっきよりも軽く、心臓がとくん、と鳴りました。

 それは―――、その様子は―――、まるで―――


「―――ショーコ様」


 思わず、考えもぜずにそのまま口に出していました。

 バラに囲まれた空間の中、長い黒髪が美しいキリッとした女子先輩にタイを直されて、連想しない訳がありません。


「え………?」

 見れば、央川先輩もびっくりした様子でこっちを見ていました。

「あ、あの、これはその、す、すみません、“好きな小説”に似てたもので、つい……」

 慌てて訂正します。

 これなら誤魔化せると思いました。

 言っている内容も間違ってないです。

 ただ1点、『私』が好きだった、という部分以外は。

「…………」

 その誤魔化しを黙って聞いていた央川先輩は、しばらく険しい顔のままでしたが、やがてふわっと優しい笑顔になって、

「……私も好きだよ。その小説」

 と返してくれました。

 上手に誤魔化せたのと、同志に巡り合えた嬉しさで、私がぱっと顔を上げると、何故か先輩はにやりとしてから私の耳元に顔を寄せて、こう言いました。


「でも残念。その小説、“こっちの世界”では『リョーコ』様、なのよ」



 え、


 えええっ!?





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