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方法その10 時には諦めるのも肝心です!

 あれから色々ありまして、さーりゃん先輩は改めて空条先輩、椿先輩、それに友美先輩と白樹先輩の5人で集まって、きちんとお話ししたそうです。

 お話が“OHANASHI”に聞こえたのは気のせいでしょうか……。

 隠していた訳じゃないんだけど、と困った様に首を傾げた先輩は、主に空条先輩の質問に答えていったそうです。世界情勢の事とか、災害について、それから技術的な事についても。

 とはいえ、もうそれほど力になれるような話も出来なくて、かえって謝ってばかりだった、と先輩は言っていましたが。

 それでも空条先輩は「参考になった」と言って下さったのだとか。

 気を使ったセリフなのか、それとも本当に参考にするつもりなのか、そこはちょっと……いえ、でっかい気になるところですね。


 定先輩については、病院に入院する事になったらしい、という事しか知りません。

 詳しい事情については、私がじかに聞くのにはまだ負担が大きいだろうからと、そこまで気遣ってくれたさーりゃん先輩が空条先輩や天上さんに聴いておいてくれたみたいですが――――――私は首を横に振りました。

 本当に何かの病気だったとしても、そうじゃなかったとしても、どちらにしろ私にはもう関係ありませんから、と、そう言って。

「同情なんて、したくないから聞きません」

 そういった私に、さーりゃん先輩は少しだけ微笑んで「それがいいと思うよ」とだけ言ってくれました。

 前世の記憶に残る病院の記憶。その中には、心を病んでしまった人達の姿も少しだけ残っていました。

 恐らく通りすがっただけなのでしょうけれども、そこはきっと『精神科』あるいは『神経科』や『心療内科』とか言われる類の場所だったのでしょう。

 そこで私は、本当に参ってしまっている人の姿を見たんだと思います。

 そして思い出されるのは疲れ切った『母』の姿。

 “あの場所”には、死を連想させる様なドロドロとした物が漂っていました。

 そばを通る度に、あの悪い空気みたいな物がまとわりついた揚句に剥がれなくてこびりついて……じわじわと自分にも感染して行く様な、そんな被害妄想じみた感覚を覚えたものです。

 なんて、その後に自分がやらかした事を思えば、とっくにでっかい感染済みだったのかもしれませんね。

 そんな彼らの―――あるいは当時の母の様子に比べれば―――比べるというのも間違ってる気がしますが、正直に言って定先輩のは“よっぱらっている”様に見えるくらいです。

 ……もっとも、今生きているからこそ、そんな事が言えるのかもしれませんけど。

 心情的には、ある意味“当時の自分”と似ているのかもしれません。

 ……簡単にヤケになっちゃうあたりとか。

 でっかい認めたくないものですね。これも、若さゆえの過ち、とでも言うのでしょうか?


 東条先輩は、事件に大きく関わったものの実際には未遂で済んだという事、何より動機が『もうすでに取り返しのつかない物』であったという事から、そう大きく咎められる様な事にはならなかったそうです。

 新学期からもきちんと登校されるそうで、それを聞いて、正直ほっとしました。

 何やらひどい扱いだったというのは、話を聞いていますから分かるのですが、実際に何か物理的に暴力振るわれたりだとか(人を介しての間接的にならありますが、それも本意では無いとの事なので)暴言吐かれたりだとか(やっぱり間接的にならあるんですが、これは……)は無かったので……。

 確かにおかしいな、少し強引だな、と思う部分もありましたが、それでも最後まで、あくまで丁寧に優しく接して下さったので……。

 それが何か見返りを求めた物であったとしても、私自身には決してその事について触れて来ませんでしたし……。

 もし状況がこの後進展しない様であれば、また違ったのかもしれませんが……。

 

 さかのぼればゴールデンウィークに引ったくりに遭った事も、実は東条先輩が引き起こした“やらせ”みたいなもので、後で助けて私に対する印象を良くしようとしていただとか、椿先輩はその時東条先輩の姿を見かけてて、それについてもすでに裏付けが取れているだとか、夏祭りの花火の日、東条先輩と私に付きまとってた不審な影が実は定先輩で、すでにその頃からもう結託しちゃってたとか、どうにも余罪があるらしいのですが……。

 でも、被害にあったっていう実感が湧かないんですよね。

 さーりゃん先輩には「甘いけどしゃーないかな」って苦い顔されちゃいました。

 私も、そう思わなくもないですけど……でも、これ以上向こうもどうしようも無いでしょうし、そういう意味では安全は保たれていると思うのですが、どうでしょう?



 そんなこんなで、それこそあっという間に大みそかです。

 美々ちゃんやさーりゃん先輩、それに友美先輩との初詣のお約束はだいぶ前からしてましたが、それとは別に東雲先輩と2人だけで鐘つきと初詣行こうって、メールが来ました。

 でっかい急にもほどがあると思います。予定とかあったらどうするんですか。

 でも、他の人達は皆それぞれいちゃいちゃしてるから……って。

 それはそうなのかもしれませんが、もう少し……いえ、でっかい言い方ってものがあると思いますよ?東雲先輩。

 一応、さーりゃん先輩にご報告したらですね、『いてら』って、でっかいサムズアップが返ってきましたです。

 ……どういう、事なの、ですか……。



 真夜中に出歩くのは、正直言って初めてです。

 しかも隣には……でっかくないけど東雲先輩です。

 危ないからと手を繋いだまま、鐘つきに初詣。

 確かにお寺も神社もでっかいいっぱい人がいますけど、少し道を外れれば、そこに人通りなんてありませんし……。

 ドキドキびくびくしながらお参りを済ませると、東雲先輩が「信用無いなあ」って、でっかい苦笑してました。

 でも、その足で少し参道外れた先に連れ込もうとするあたり、でっかい説得力ありませんから!

「まあまあ、君が考えている様な事なんてしないよ」

 私が考えてる事って何なのか、でっかい理解してますかっ!?それってでっかい本当ですよね!?

 動揺する私に対して、東雲先輩はでっかい落ち着いています。

 ううーん、確かに普段の賑やかな先輩とはちょっと、いえ、でっかい違うのは分かるんですが……。

 だからと言って、その後の行動まで補償されるかどうかはまた、でっかい別ですよね?

「あんまり目立つこと好きじゃないって聞いたからさ。だからわざわざこっち来たのに。……今回の“コレ”も、櫻ちゃんに“地雷回避”って事で、わざわざこの時期を指定されたんだよ」

「コレ、ですか?」

「うん……告白」

 でっかい言葉を失っちゃいました。


「あのさ」

 少しの間の沈黙の後、東雲先輩は私の目を見て、ゆっくりと話し始めました。

「“新学期になってからの告白”は、君にとっては、とっても怖い事なんだよね?僕は、周囲からも祝福された方が嬉しいと思うタイプだけど、世の中にはそうじゃない人もいるんだって言われた」

 ……その“周囲”がどの範囲を指示しているのか、その人達が本心ではどう思っているのかは、この際2の次なのでしょう。

 ……だから“今後”の『親衛隊との対決』を経て『信用を取り戻す為に校内全力で一周』さらには『屋上から愛を叫ぶ』なんてイベントが待っているのですから。

 でも、そうですか。

 もしかして“今回”の初詣も、さーりゃん先輩が1枚噛んでいるのかもしれませんね。

 だったら……信用してもいい、んですかね……?

「今は色んな人からアドバイス貰っている状態だけど、今後はそういう事も1つずつ知って行きたいと思ってるよ。……夏、水族館に一緒に行った時、君の事色々考えるのは、とてもわくわくして楽しかった。あんな風に他人(ひと)の事を考えたのは、きっとたぶん初めてで。嬉しかったんだ。知って行くのも、笑顔が見れた事もね。だから、これからもずっと、君の事知り続けたい、考え続けていたい。……もっともっと好きになっていきたいんだ」

 参道から少し離れたこの場所は、周囲の明かりで薄ぼんやりとした明りがあるだけで、その表情も目を眇めないと見失ってしまいそうでした。

 でも、その分声がしっかり心に届いた気がします。

 自分の事だけじゃなくて、他の人の事も……“私”の事も、ちゃんと考えてくれるなら……。

 それは素直に嬉しい事だと、そう思いました。


「あのね、僕、将来フードスタイリスト目指してみようかなって」

「え?」

 急に変った明るい声と話題に、でっかい戸惑っちゃいました。


「いつまでもふらふら出来ないし」なんて茶化した様に言ってますけど、今までの先輩とはまるででっかい真逆の意見ですよ?分かってます?

「それに、君はしっかりした人が好みだって、櫻ちゃんから情報貰っちゃったしねー」

 でっかいさーりゃん先輩のせいですかあああああ!!!

 心の中で盛大に非難を浴びせていたら、東雲先輩は少し苦笑したみたいでした。

「小さい頃からずっと年の近い観月と比較され続けて、いつの間にか僕が出来ない子だっていう評価が当たり前になってて……自分で努力する事を最初からあきらめてた。そんな風に言われ続けてきたからだ、って、全部人のせいにして。何度か言われていた“将来の夢に()ついての意見()”を、真剣に考えてみようかなって気になったのは、君がいたからなんだよ」

 私、ですか……。

 東雲先輩らしからぬ、いたって真面目な話題と表情に、私もいつの間にか真っ直ぐ先輩の事を見つめ返していました。

「東条君を見ていてイライラしてたのは、その辺の事もあったかもしれない。今にして思えば、さ」

 その言葉には、いくらかの自嘲の響きが籠っている様に思えました。

 そういえば、どちらも似た様な境遇……?ですよね。

 かたや観月先輩という天才パティシエ(の卵)さんと、その従兄弟である東雲先輩。

 お菓子好きっていう趣味もでっかいよく似てます。

 そして空条当主の息子さんである空条先輩と、その従兄弟の東条先輩。

 きっと同じ様に、比較される事もあったのでしょう。

 ……そういえば『そんな話は出てこなかった』です……と思った瞬間、自分でもよくわからない不思議な感覚で、背筋がでっかいぞくっとしました。

 ……これがさーりゃん先輩の言っていた『ゲームには出てこなかった裏事情』というやつなのでしょうか?

「他人なんかどうだって良い、自分は自分の好きな事だけしてれば良いやって思ってた僕が、どうしてかな、君に嫌われるのだけはすごく嫌だった。嫌だったって、気付いたんだ」

 東雲先輩は、真剣な目で見つめてきます。

 あの頃(ゲーム)と同じ表情で、でもあの頃には全く出会った事の無かった“東雲愉快と一緒に初詣”というシチュエーションの“イベント”で。

 ……本当はもうとっくにでっかい気付いているんです。

 これが“ゲームでは無かった”事に。

 ふと耳に入って来た、遠くで鳴り響いてくる除夜の鐘の音。

 さすがにこの音と教会の鐘の音を混同するつもりはありません。……むしろそれ笑い壺になっちゃいますから。

 でも、どうしてでしょう――――――とっても良い雰囲気に見えるのは。

「君の為に、僕は変わるよ」

 静かに、本当に静かにそう言った東雲先輩。

 それはあの、3月のラストイベントで(あっつ)い暴走をした人と同じ人物だとは思えないほど穏やかで、とても静かな告白でした。


 「だから僕の事、一番近くで見ていて欲しいんだ」


 ――――――先輩が本当に、心の底からそう願ってくれるのなら。


 かつて電源を入れる度、いつも見ていた底が抜けた様な明るい笑顔も悪くないですけど、それ以上に、ゲームでも見た事の無いマジ顔が強く胸に残って、気が付けばこくんと頷いていました。

「やったあ!」とはしゃいで抱きしめて来る、いつもの東雲先輩の様子に『あ、やっぱ早まったかな?』と思ったのは、でっかいここだけの秘密です。


 ……でも、しっかり将来を見据えて動こうとする東雲先輩の力になりたいと、そう思ったのは、でっかい本当ですから。







 2年後の私の卒業式の日、真っ赤なオープンカーで乗り付けた挙句、でっかいバラの花束押し付けて来た東雲先輩に「僕と人生を共にして欲しい」と校庭のど真ん中で宣言され、でっかい後悔した事は言うまでもありません。

 いくらそれが就職的な意味であっても、傍から聞けばそれでっかいプロポーズにしか聞こえませんから!


 回避出来た筈だったのに……!!こうならない為の下準備だった筈なのに……!!

 変わるって言ってくれてたのは、結局でっかい口先だけだったって事ですか!?


 ああもうっ、やっぱり東雲先輩は、でっかいでっかい地雷ですっ!!!






誰かさんの心の叫び

「でっかいタイトル詐欺じゃないですかー!!こうなったら訴訟です!賠償しやがれですううう!!」




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