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方法その9 全部バラしていっそどっ引きされましょう その3



このお話は「ガーデンティーパーティーへようこそ!~フラグなんてぶっちぎれ~」の内容について、“あの時”という形で触れる描写が多々出て来ます。

該当作品を読んでから、こちらをお読みいただく事をお勧めいたします。





喧嘩っぷるおっすおっす。




「あれが……?」

「そ」

 戸惑う友美先輩に、短く答えるさーりゃん先輩。

「あの屋上で先輩達に会って、それからお茶会に混ざる事になって皆と仲良くなって、最終的に1人の男性(ひと)と結ばれる、女性向け恋愛ゲーム……だったんだよ」

「この手帳に記されているのは、一部を除く、ここにいる人間全員の家族や交友関係、それに伴うトラブルと関わり合いになる人間のリスト、さらには将来どんな未来を選択するのかといった、現段階でも不確定な要素を含む個人情報。好きな場所や好みの服装、好きな飲食物。それに“その当時”に喋ったらしいセリフの一部とそれに対する返答。合わせて、いつどういう事が起こって、どんなふうに対処すればいいのか、事件の起こる条件と、その対処法が書かれているってところかな。しかもどうやらこれを見る限り、それぞれの個人の事情と進行する感情の変化に合わせて起こる出来事だったらしいね。……まさか俺の事についてまで書いてあるとは思わなかったけど」

「あ、ちょぉっ!?」

「ふ、む……」

 あ、さーりゃん先輩の(恐らくお手製の)攻略本が、天上さんの手から空条先輩の手に渡っちゃいました。

「確かに、ここに書かれているのは過去に起こった出来事と、一昨年の……いや、正確にいえば去年の3月までに起こった、あるいは起こる予定らしき出来事の様だな。そこから先の未来については、時期が特定出来ない上に非常に大まかなものしか分からない、か。この『本』によれば、どうやら俺や白樹の出来事は最後まで起こっている様だな。逆に『木森』や『東雲』、『大寺林先生』には、起こるべき事象が起こっていない、という事になるか。……ふむ、面白い。……面白いが、良く知っている人物達がこういった事を友美に言うとは……」

 腹が立つから返す、ですか。さすが『好きになったら嫉妬深い』空条先輩です。


「……ねえ櫻ちゃん、櫻ちゃんがあの時わたしの事応援してくれてたのって、どうなるのか全部知っていたからなの?」

「……ま、ね」

 先輩、少し痛そうな顔してます。

 ……さーりゃん先輩が決して興味本位だっただけじゃない事は、この1年だけの付き合いでも、転生という同じ経験をして来た私には良く分かります。

 でも、当事者だった友美先輩なら、また違った感情を抱く事もあるのでしょう。

「……わたし、怒ってるんだよ」

「友美……」

 やっぱり、怒りますよね。

 さーりゃん先輩の今の気持ちが分かって、私も悲しくなっちゃいました。

 どんなに否定したって、自分の経験してきた事が実はゲームだったんだよ、何て言われたら、そりゃあ怒るでしょう。

 ましてや、そばでずっと観客として見て来たんだよ、なんて。


 でも友美先輩は、やっぱり友美先輩だったのです。

「わたしが怒っているのはね、そんな重要な話、どうしてわたしにも教えてくれなかったの、って事なの。ずっと隠していたなんて、ずるいよ。……明日葉さん達に言うか言わないかは置いといて「おい」……誘拐された後、話すチャンスはあったはずだよね?その時、言ってくれてよかったんだよ。そうしたら、もっと櫻ちゃんの事早くいっぱい知れたし、今回の事だって、きっともっといっぱい手助け出来た。マリアちゃんの事だって、もっと早く助けられたかもしれないじゃない!」

「友美……」

「友美先輩……」

 う、ヤバいです。マズイです。どうしよう、泣きそう、です。

 隣に座った美々ちゃんが、そっと背中を撫でてくれました。

「マリアちゃんと出会うまでは、本当の事、ずっとずっと言えなかったんだよね?きっとそれって、とっても辛い事だったと思うの。だから、今度からは隠し事無しで、何でも言って!約束してくれなきゃ、嫌いになっちゃうんだから!」

「友……」

 先輩、でっかい言葉に詰まっちゃってます。

「ふざけてんの、って、怒んないの?ゲーム感覚で楽しんでたんでしょ、とか思わない訳?」

「……そんなの、櫻ちゃんの方が『よく知ってる』事じゃない?」

 友美先輩のおどけた表情に、さーりゃん先輩はたまらず、といった感じで席を飛び出し抱き付いちゃいました。

「友美……ゴメ……っ」

「櫻ちゃんが、わたしの為に一生懸命だった事知ってるよ。……すこし楽しそうだったのも知ってた。でもね、だからって、櫻ちゃんがわたしの事本当の意味で好きじゃないとか、そんなの絶対思わないよ。だって、2月のバレンタインの日、あんなに一生懸命告白してくれじゃない」

「友美……」

 さーりゃん先輩には珍しく、ふにゃけちゃった声。

 きっとそれだけ、でっかい嬉しいんです。

 私には察する事しかできないし、それでも今の話はかなり嬉しいけど、きっとその何倍も、何倍も、でっかい嬉しい事なんだと思います。

 ……と、いいますか……『告白』?

「確かにいろんな事があったし、怖い目にもあったけど、櫻ちゃんがいたから頑張れたのも本当なの。あの時出会った全ての事が、自分の中で宝物みたいに輝いているのが分かるよ。……えっとね、わたしね、櫻ちゃんの事好き。大好きよ。それに、マリアちゃんもビビちゃんも、ティーパーティーのメンバーだった皆も、自分の家族も。みんなみんな大好き!あっ、でもね、一番好きなのは明日葉先輩かなっ。なんてね、えへっ」

 天使さんがご降臨なされておりました……!!

 まぶしくて見れません……っ!!

 ……なんて、でっかいでっかい嬉しいんですけどねっ!


「悪いけど、俺はそうは思えないかなあ」

 1人不機嫌な様子で水を差したのは、白樹先輩でした。

「今の話を聞いてると、『その状況』も、茶番にしか見えないんだけど?」

 厳しい目つきで、友美先輩に抱きついたさーりゃん先輩を見詰めます。

 さーりゃん先輩も、友美先輩を抱いたまま睨み合っちゃってます。……ちょっと涙目なのは、友美先輩のせいでしょうか。

「……君ならそう言うだろうな、と思ってたよ」

 ふう、と先輩は視線を少し下に向けて言いました。

「ふうん?それも『攻略情報』?」

「そうだと、言ったら?」

 真っすぐに見つめ返すさーりゃん先輩。

 わわっ……!?でっかい火花散ってますよ、お二方とも。

 さっきまでのとはまた違う空気で、誰も口出し出来ませんっ。

「2年近く付き合って来てさ、俺もっと信頼されてるかなって自惚れてた。がっかりだよ」

 それはきっと、お互いの心を傷つける、諸刃の剣みたいな言葉なのです。

 そしてその言葉の刃は、白樹先輩の心を守る為の刃の鎧なのでしょう。

 でも、だからって……そこまで言う事無いと思ってしまうのは、私がさーりゃん先輩と同じ立場だからなのかもしれません。


「……櫻さあ、もしかして俺と付き合ったのって……俺が“ゲームキャラ”だから?」

 “ブラックの時の表情”をしながら、それでもどこか痛みに耐えるみたいに見えるのは、先輩がさーりゃん先輩の事、本当に好きだからなのかもしれません。

 きっと本当に好きだから、平気そうな顔しきれていないんだと、そう思うんです。

「言われると思った」

 はっ、とそっぽ向いて、吐き捨てる様に歪な笑みを浮かべるさーりゃん先輩。

「だから言いたくなかったんだよねえ。自意識過剰乙」

「んだよ、それっ!?」

 白樹先輩、とうとう、ガタッと立ち上がっちゃいました。

「よく思い出してみなよ。一昨年の今頃何してた?年明けに私、何言った?その後どういう行動取った?」

 思い返していたらしい白樹先輩のその表情が、だんだん色を無くして行くのが分かりました。

「……んだよ、それ。全然、わかんねえよ」

 さーりゃん先輩は、はあ、と溜息を吐きました。

「付き合う気なんか、最初から無かったよ。だからわざわざ、あるかどうかも分かんない『フラグ』を一々へし折ってたのに」

「そんな……」

 ショックを受ける白樹先輩に、さーりゃん先輩は友美先輩から引いた腕を組んで話を続けます。

「“誰とも”交際する気なんか無かった。少なくとも大学行くまではね。私は、自分の人生の事しか考えてなかったよ。今度こそまっとうに生きて、人に胸張れる人生送るんだって決めてた。……“あの時”までは」

「“あの時”って……」

「~~~~~~っ、君がおかしな事言いだしたから悪いんじゃん!『私の事攻略する』とか言い出して、四六時中追い回したりするから!」

「俺のせいかよ!?」

 あ、でっかい復活です。

「しょうがないじゃんよ、人に好意を向けられるの慣れてないんだから、私は!特に色恋には耐性無いの!基本単純なんだよ!ああ、どうせちょろいさ、悪かったなあっ!そもそも私、本来の趣味は年上で生活力のある大人の男性で、中坊高坊はお呼びじゃねーのよ!?それをねえっ!」

「んな事良く知ってるよ!後ダルデレ好きだろ!?」

 良いんでしょうか……でっかいシュミバレしてますが……。

 と、そこまで勢いで叫んでた白樹先輩は、何かに気付いたみたいに急に口をつぐみました。

「……“あの時”『昔好きだった人がいて、その人と俺が似てる』って言ってたの、もしかして、“俺”の事?」


 でっかい沈黙です。

 いえもう私も含め、周囲は完全に見守る体制なんですけどね。

「……いつの話してんのかなあ。君、実はかなりの粘着だよね?“ゲーム”してた当時は、そんな風に感じなかったけどさ」

 呆れた風に言ってますけど先輩、それって多分ですが、追う追われるの立場の違いだと思います。

 友美先輩主人公(ヒロイン)だと、逆に白樹先輩追っかける方ですもんね。

「何だよそれ!?そうやっていっつも比較してたんだろ!?」

「とっくに止めてるわ、バカ者ォ!いっとくけどねえ、“リアルの去夜君”は、何かあるとすぐねちっこく絡むし、ゲームの時より圧倒的に“うっかり”多いし、正直青くてガキ臭いとこあるしで、悪いけど結構イラッと来る事多かったんだからね!?私の“萌え”返せって何度思った事か!」

 わあ、売り言葉、

「悪かったな!ゲームキャラの“俺”より出来が悪くて!そんなにゲームの俺が好きならゲームと結婚すればいいだろ!?」

 でっかいお買い上げですぅ。

「訳が分からん!」

 でっかいまったくです。


「~~~っ、全部俺のせいにするなら、“あの時”断れば良かっただろ!?」

「はァ!?今更ぁ!?責任取って欲しいのはこっちだっつの!!」

 いい加減痴話喧嘩みたいになって来たところで、どん、とテーブルを叩く音が響きました。

「「あ」」

「2人とも、そのくらいにしておけ。収拾がつかん」

 お殿様、いえ、この場合はお奉行様でしょうか。

 空条先輩の一言で、とりあえず場は収まった……かの様に見えました。

「空条先輩」

 ……見えただけであって、白樹先輩のブラックは今だでっかい継続中の様です。

「先帰ります」

「ああ。存分に語り合って仲直りして来い」

「って、ちょっとちょっと、話まだ終わって無いんじゃないの……!?あ、あれ?ちょ……っ!?」

 心底どうでもいいみたいに送り出す空条先輩に背を向け、白樹先輩はさーりゃん先輩の腕を引っ掴んだまま、部屋の外へと出て行かれました。

 ……誰も、止められませんでした……。



 その後ですが、話の中心だったさーりゃん先輩が抜けた事で、そのまま解散となりました。

 東条先輩は天上さんに連れられて部屋を出て行き、美々ちゃんは友美先輩と空条先輩の車で送って貰うそうです。

 私は、東雲先輩に呼ばれた事もあって一緒に帰る事になりました。

 あ、これって、集団でパーティ、でっかいボイコットしてません、か?

 良いんでしょうか……?


 「少し歩きたい」という事だったので、駅に車を迎えに寄こした先輩は、私の手を引いてイルミネーションで飾られた大通りを進んで行きます。

 お互い話さないままに歩くのは、やっぱりお互いに、少し頭を冷したいからなのかもしれません。

「あのさ」

 少し進んだあたりで、ぽつりと呼びかけられました。

「“設定で知ってたから”、だから最初から嫌いだった、って事?」

「あ……」

 そうですね、白樹先輩とさーりゃん先輩は、話し合いに……なってるかなって無いかはともかくとして、少なくともその話をしました。

 私も東雲先輩に、その話をしなければならないのでしょう。

 でも、今までみたいに縁を切りたいから、とか、別れたいから、とか、そんな気持ちで話したい訳じゃない事に気付きました。

 ……そこから新しい関係が結ばれる事を、私はきっと願っているのです。

「そう、です」

 でも、そうなるまでには、この難関をどうにか切り抜けなければなりません。

 もしかしたら当初のもくろみ通り、嫌われて終わるのかもしれません。

 それが良い事なのか、悪い事なのか……。

 今の私にとって、あまり嬉しくない事なのは事実でしたが。

「“ゲームの僕”は、君に嫌われるくらい、すっごい嫌な奴だったんだ?」

「ゲームしてた人達の、全部が全部嫌いだった訳じゃ無かったとは思います。さーりゃん先輩も地雷じゃないって言ってましたし。ただ、そうですね……私は“ダメ”でした」

 ただ、そうはいってもここで嘘は吐きたくありませんでしたから、私は本当のところを正直に話しました。

「ふうん」

 そっと横顔をうかがっても特に表情を変えた様子は無くて、真っすぐ前を向いてる先輩の心を察するのは難しい事だと悟りました。

「……なら、白樹みたいに設定外の事をやれば、僕にもチャンスはある、って事かな。僕の場合は押しても無駄そうだし……やっぱりここはひとつ、真面目さを出してアピール、とか?将来がどうとか言ってたし……」

 え?

 小声でつぶやく東雲先輩の表情は、先ほどと何ら変わりのない、感情の見えない横顔のままでしたが……。

「……でっかい悪寒がします」

「え!?寒いのっ!?」

 慌てた東雲先輩は、マフラーを貸してくれようとして……「その『寒い』じゃない」と上手く説明するのに、でっかい労力を必要とする羽目になったのでした。



 無事に家までたどり着き、お風呂から上がった後くらいで、メールが入っている事に気付きました。

 ……白樹先輩とさーりゃん先輩の連名で。


 さらに翌日、喫茶店天球儀にて再度集まった結果、でっかいテッカテカな白樹先輩と何故か憔悴したさーりゃん先輩の姿が、そこにはありました。

 さーりゃん先輩曰く「肉体言語的仲直りの方法」だったとか。……どんな解決法ですか、それは。

 黒い手帳(攻略本)の返却だとか、今回はさすがに不参加だった東条先輩の今後とかについて話した後、美々ちゃんと友美先輩も交えての女子(おとまり)会の席で、珍しく弱々しいさーりゃん先輩の愚痴にお付き合いする事になりました。


「具体的にkwsk(くわしく)

「まーりゃんがネットスラング、だと……?あー、まあ、なんだ、……ある意味言葉攻めヒドス、とだけ」

「ほう、それはそれは。で、結局何て言ったんです?」

「わくわく」

「わくわく」

「…………言わせんな恥ずかしい」


 さーりゃん先輩はそっぽ向いたまま、結局最後まで言いませんでしたが……。


 でっかい気になりますねえ(ニヤニヤ)







美々ちゃんが最後しかしゃべってない件について。

まあそもそも普段から、自己主張する様な子じゃなかったですし。

説明などの必要があったりだとか義務でもない限り、こういった場で自分から話す事は無いですね。


あ、(精神)年齢についてのツッコミ入れるの忘れた。

櫻「よっしゃあああ、セーーーーフ!!!」




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