方法その9 全部バラしていっそどっ引きされましょう その1
あれからすぐに、私達は移動する事になりました。
胴長のリムジンは、全員が乗ってもまだ余裕があるくらいでっかかったです。
行き先は、空条クラウンパレス―――クリスマスパーティ会場ですね。
私にとっては移動ですが、他の皆さんにしてみれば、元の場所に戻る、といった感じでしょうか。
ただ、これから話し合いをするという事で、私達は会場ホールには戻らず開いている会議用ホールを一部屋お借りし、先輩方は先輩方で、ご両親や進行に携わる関係者の方々に報告をしに行かれたので、そこで少し待つ事になりました。
ここに来るまで東条先輩と東雲先輩はむっつりと押し黙っており、話しかける事も遠慮せざるをえないような空気になっていました。
……何があったのかは、軽くですが簡単に聞きましたので、黙り込む理由も分かるのですけれど。
それにしても、うう、本当にでっかい危機一髪だったのですね!!
散々重ねてきたストレスのせいか、私自身前世のフラッシュバックの様な事を起こしてしまっていた様ですし。
少々記憶が吹っ飛んでしまっていますが、今こうして無事に私がここにいる以上、何とかなったという事なのでしょうね。でも、それについても説明する必要があるはずです。……正直でっかい気が重いです。
連れて行かれたという定先輩や、目の前にいる東条先輩に関しては……自業自得といいますか、仕方ない事の様な気もしますけど、私から何か言える雰囲気でもなくてですね。
特に東雲先輩には言いたい事がたくさんあった筈なのですが、やっぱり口に出せる雰囲気ではなく、あきらめて大人しく待つ事にしました。
逆に友美先輩や美々ちゃんには、大丈夫かとでっかい心配されてしまい、でっかい気遣われちゃいましたけれど。
さーりゃん先輩は少し目を閉じて、白樹先輩に寄り添ってじっとしてます。
そんなに疲れる様な事があったのでしょうか?それとも私、やっぱりご迷惑をおかけしてしまったんですかね。
白樹先輩は、そんな少し疲れた様子のさーりゃん先輩の肩に、腕を回して支えていました。
……どこかこわばった顔をしながら。
空条先輩と椿先輩、観月先輩と、そして白い服の――――――なんと“元隠しキャラ”の天上岬さんは、今まであった事、これからの行動について、ああでもないこうでもないと相談している様でした。
ただその声は、周囲を気遣っているのかあまり大きくなく、詳しい内容は私にも分かりませんでした。
指定された会議室で、天使みたいな友美先輩と美々ちゃんの2人に甲斐甲斐しくお世話されながら待っていると――――手伝うと言ったら全力で止められてしまいました……そうこうしている内に、報告に行っていた空条先輩達が戻って来ました。
「さて、では始めるか」
各自の前に飲み物が用意され、「お腹がすいているだろうから」と観月先輩からのケーキの差し入れが全員に配られた後、空条先輩のその開始の宣言に、いきなり立ち上がって噛み付くみたいに叫んだのは東条先輩でした。
「一体、先ほどの“アレ”は何なんですか!?」
でっかい場がしーんと静まり返ったです。
「……………お前が言う事では無いと思うがな」
でっかい溜息でした。
それからおもむろにさーりゃん先輩の方に顔を向け、腕を組み、椅子に背を預けた姿勢を取りながら「お前が適任だろうな」と、そう言いました。
でっかい王様オーラ出しながらの、でっかい聞く態勢です。
さーりゃん先輩は少しの間黙っていましたが、少し戸惑う様子を見せながらも口を開きました。
「私も全部を把握している訳じゃないですけど……」
「それにしては、実にスムーズに事が運んだじゃないですか!やはり貴女は……!!」
「貴臣、黙っていろ」
ぐう、なのです。
「あー……とりあえず分かってる事は、そこの彼がどんな手段を使ったか、まーりゃんの存在に気付き、手を出そうとして失敗した事、ですかね?で、その理由が私に近づく為、と」
あ、白樹先輩が東条先輩の事、でっかい睨んでますぅ。
「“定”……“定ちゃん”の“アレ”はもう病気なんでしょう。専門家じゃないからホントに“そうなのか”までは分かりませんが。恐らく“そこの彼”に“煽られ”たのが原因……一部かどうかは別にして……。彼女についても、恐らくまーりゃんがらみで東雲君を調べ、目を付けたんだと思いますけどね」
さーりゃん先輩、苦笑してました。
「そうだな。状況からしても、上がって来ている証拠の面からいっても、そう間違いでは無いだろう。その辺りも含め、貴臣のやった事については後で詳しく監査機関を設けて調べる事とする。で、だ」
きらりん、ではなく、ぎらりっ、と空条先輩の瞳が鋭くなったのが、素人の私にも分かりました。
「問題は、どうしてお前が“具体的な話が出る前に”事件の状況と場所を正確に理解したか、だ。あのまま問い詰めていれば、こいつの事だ、じきに全てを吐き出していたに違いない」
「ただ、時間がかかれば掛かるほど、『彼女』の生存率は低くなっていただろうねえ」
真剣な表情の空条先輩に続き、天上さんが私を指し示しながら、にっこりのんびりとした様子でそう言いました。
……それって、でっかいシャレにならないですっ!?
「お前には、肝心な時にいつも助けられていたと思う。その全てが的確で最適な判断だった……とは言えないかもしれないが。だが“あまりにも的確すぎる”」
「それに、『彼女』は『今の自分』とは『別の名前』を名乗った。しかも無意識の内に、ね。彼女が……いわゆる『多重人格』だという報告は上がって来てはいなかったけど、それにも理由があるのかな?――――――それも、俺達には言えない事?」
王様と、にこやかな笑みを浮かべる謎の組織の人。
この2人にそこまで言われて逆らえる人がいたら、でっかいお目にかかってみたい……と思わなくもないかもしれません。……すみません、想像してでっかいどっぴきしちゃいました。どんな超人ですか、それは。
実際さーりゃん先輩も、ゆるく首を横に振ってから「そんな身構えるほど大層な話では……」とでっかい困った顔をしてましたです。
「あー、えーと、あのー……ですね。かなり荒唐無稽な話」
「いいから話せ」
「………あー、と、信じる信じないはお任せで。後“未来を予測したり確定させたり出来る程度の能力”とか、そういうカッコイイモノじゃないんで」
でっかい回りくどいですっ!?
あ、東条先輩が全否定されてて、でっかい驚いているみたいです。え、違うの?みたいな。
さーりゃん先輩が話し始める前に、一度私の方を見たので、私はその視線にこくんと頷いて応えました。
先輩が全面降伏するのなら、私に出来る事なんてありませんしね。
隠し立てするだけ、時間の無駄なのでしょう。
「つまりですね、私とまーりゃんには、生まれる前の記憶……胎内記憶とかよりももっと前、一度死んだ自覚があって、その死の前にどんな人生を送って来たかの記憶が……物凄く簡単にいうと、前世の記憶があるんですよ」
やっぱり場がシーンと静まり返りました。
「ま、普通、信じられないですよね」
先輩、でっかい苦笑です。
……かなりあっさりとした口調で言ってましたけど……きっとでっかい葛藤があったんだと思います。
私でさえ今、どうしよう、どうしよう、って心の中ぐるぐる回っているのに。
冗談だと思われたかな、とか、本気だと知れたら今までの人間関係、全部白紙に戻されても文句言えない、とか、そんな風な悪い方向の想像ばかりが頭を駆け巡ってしまって。
それでもさーりゃん先輩は、今回の東条先輩みたいに早合点する人がまた出て来ない様にって、言わなくちゃ駄目だって、そう思ったからこそ告白したんだろうと、そう思うのです。
「……続けろ」
「……あれ、信じるんですか?」
重い空条先輩の言葉とは真逆で、思わず、といった感じにぽつりと零れた先輩の声は、なんだかでっかい軽い響きでした。
でっかい予想外だった、っていうのが、でっかい良く分かります。ハイ。
「いいから続けろ」
「あー、えーと、ですねー……どう説明したらいいかな。だから、その記憶があるおかげでの……ある意味チート?的な?」
目を細めて困った様に言う先輩。
まあ確かに前世知識とか、チートですよねえ。主に勉強的な意味で。
あ、東雲先輩がガタッてしました。チートがどこの部分にかかってくるのか気付いたんですね。
「それって……!?」
「ああうん、多分想像通りだと思うよ?」
「ずっるーーーーーーーーい!!!!!!」
東雲先輩、でっかい大絶叫です。思わず耳塞いじゃいました。
でも、
「ぷ」
「くすくす」
「ごめ……」
「……っ、ははっ」
そのおかげか、でっかい重かった空気が、どっかに吹っ飛んでっちゃったみたいです。
「なんで笑うんだよー!!怒らずにいられる方がおかしいでしょ!?だって、最初っから知ってるって事なんだよ!?つまりそれって、勉強しなくて遊んでても良い点取れるって事じゃんか!ずっるいずっるいずっるいーーー!!!」
「お前は少しやった方がいい」
「愉快、今回テストの点良かったんだって?やっぱり愉快は少しくらい勉強した方がいいんだよ」
「央川は、割といつも勉強していたと思うが。ずるい、か?」
「白樹だってそう思うよねえ!?」
3先輩方に肯定してもらえなかった東雲先輩は、今度は同じ学年の白樹先輩に泣きついちゃいました。
「今の話がほんとなら、確かにチートだよな。うん、確かにずるい」
「そうでしょう!?ほらあ!!」
「けど、それと東雲が勉強しないのは別、だろ?」
あ、でっかい撃沈です。
「ひどい、みんなひどい、僕の味方なんて一人もいないんだ……」
「し、東雲くん?元気、だして?」
友美先輩、手抜きばっかり考える人にでっかい優しくする事無いですってば。
「で、だ」
でっかい仕切り直しですぅ。
「前世、だと?」
「あー、ハイ。その『前世』の世界と『ここ』は、基本的にそれほど変わってるって感じた事は無かったですから、おかげでずいぶん楽させてもらいました」
「ずっるーい」
でっかい怨念です。
「多少技術的な部分でこちらの方が先を行っているな、と思ったくらいですね。まあ、比較するものでもないんでしょうけど」
「……私は、先輩みたいに違和感感じたりした事無かったです」
先輩だけの例で話を進めるのもアレかな、と思い、口を挟みました。
「人の生き死にに関わる事だし、きっと当たり前の事なんだろうね。……プライベートここに極まれりな内容って事もあるけど、私自身あまり話したく無かったから、あまり過去世の話とかした事無かったし……。でもそれで今回みたいな事件が起こったんなら、一度くらいはきちんと話しておくべきだったかもしれないね」
「…………話が通じてる、って事は、少なくとも君達の中では『前世』があるという事は当たり前なんだね……」
天上さんが驚いた表情でつぶやきました。
「当たり前な訳無いでしょう。……どう考えたってバグみたいなもんですよ。でもどういう訳か、私とまーりゃんの間では共通認識として存在してるんですよね。で、まあ、あるものは使うのが当然、みたいな部分はありましたから?誰だって自身の生活を向上させたいと思うのは当然でしょう」
「そうですよ!当然なんです!!」
いきなり、東条先輩がガタッて立ち上がりました。
あ、空条先輩がでっかい顔しかめてます。
「それを分かっていながら、何故『こちら側』と手を組もうとしないのか、ボクにはそれが分からない!」
“こちら側”っていうのは、空条先輩や東条先輩達のいる、いわゆる空条グループの事でしょうか。
「いやあ、いきなり面識も無い幼女が世界のトップグループに対して『ワタシ美味シイ話持ッテ来タアルヨー』って言って、話聞いてくれると思う?」
「そっ、それはそうですが、って、そうじゃなくてですね!!」
東条先輩、でっかい声、でっかいです。……正直キーンってしましたよ。もう少しボリューム抑えてくれませんかね。
「……出来る限りの事はしたいと思ったよ」
さーりゃん先輩の声のトーンが、少しだけ下がりました。
「『前』に住んでた『世界』は、あまり良い世界とは言い難い部分もあったから。勿論それは、この世界でも同じ事がいえる訳だけど。住みやすいかもしれない。だけどそれが全てじゃない。だから、『前』で起こった出来事からの教訓を、出来る限り伝えようとした事もあったよ。“向こう”にあって“こちら”には無かった技術を“子供の思い付き”みたいな形でアイディアやイメージとして話した事もあった。家はさ、こう見えてそれなりの規模の会社抱えてるから、意見通りやすい部分もあったんだ。でも世界を変えたりとか、政治に介入とかは、まず無理。そもそも自分の人生第一だったしね。自分が第一で、その次が自分の家。友美と出会ってからは友美も、友美の家族も大事。もっとも、友美ん家に関しては特に何した訳でもないけど……今でもそれは変わらない。他に手を出そうとしなかったのは、その事もあって……あんまり手広くやっちゃうと、自分だけの話じゃ無くなったりとかしそうだったから、それが嫌で、ね。収拾付かなくなるのは本意じゃなかったし」
「櫻ちゃん……」
友美先輩の話が出たからか、先輩ちょっと潤んじゃってるみたいです。
「だから、“今”それを使えばいいんですよ!今ならボクがいますし、明日葉さんだって協力しますよ!ねっ!?」
うわあ、でっかい空気読みませんね、東条先輩。
何ていいますか、真っすぐ前しか見えてない、みたいな感じになっちゃってます。
「貴臣……」
空条先輩がでっかい溜息吐いてますけど……でも『公式』だと、先輩もでっかい空気読まない『設定』だったですよね?
「意見としては、間違っていないのだろうな。それでも、お前の採った方法は不味かった」
「何故です?」
空条先輩と東条先輩、でっかい睨み合っちゃいました。
「確かに脅してでも、というのは大げさだったかもしれません。ですがこれだけ将来性のある能力、眠らせて置く方が間違っています!……まさか、相手が身内や関係者だから手加減すべき、とでも言うつもりですか?」
「そこは否定せん。だが、それならそれで丸く収め、お互いに利を得るという形で相手側から積極的に情報を引き出させる方法など他にいくらでもあるだろう。……お前の考えは短絡で強引だ」
ぐっ、と何か飲み込む様に詰まった東条先輩。
「……人の事言えた義理じゃないと思いますけどね」
黙っときますわ、とさーりゃん先輩が呟くのが聞こえました。
「央川先輩、央川先輩はどうなんです!?」
わあ、まだでっかい喰い付きますか。でっかい諦め切れてませんね?
「私?」
「空条につけば、世界を牛耳れるも同然なんですよ!」
思ったのですが、東条先輩って意外と権力志向の方なんですね。
いつも一緒にいる時は、今みたいにがつがつしてる様には見えなかったのですが……。
……あれも、央川先輩の気を引く為の演技だったのでしょうか……?
考えたら、ちょっと悲しくなってきちゃいました。
「バッカねー」
わあ、さーりゃん先輩、でっかい鼻で笑ってますぅ。
「そんなんで世界の全てを手に入れられるなら、とっくにやってるっつの」
「何故、出来ないと?」
口を挟んだのは、空条先輩。
もしかして今のさーりゃん先輩の発言で、プライドに傷でも付いちゃったですか?
「私は、自ら蛇の巣にも虎の巣にも首突っ込むつもりは無かった、って事です。空条なんて大きな怪獣に首差し出して、無事に済んだとは到底思えません。現に今ここに私がいるのが良い証拠じゃないですか?“秘密はいつか明かされる”……ってね。それに、誰が『今も記憶が残っている』と言いましたか」
この場にいたほとんど全員が、「えっ?」という顔をしましたです。
実際何人かは口にも出してましたし。
「だって、生まれてこの方18年ですよ?赤ん坊の頃の記憶なんて誰が覚えていますか。こんな感じだったっていう薄ぼんやりとした記憶は確かにありますが、そもそもが似た様な世界なんです。向こうとこっちの細かな違いなんて、もうとっくに認識出来なくなってますよ。大きな機関に進言出来る事なんて、そうそうありはしません。出来る事といったら、人為や自然問わず災害が起こった時に備える個人的な防災くらいなものです」
「お…………お、お……」
あー……東条先輩、でっかいショック受けちゃってます。
可哀想ですけど、仕方ないですかね。




