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方法その7 しっかりした意思と態度ではっきり決断を下しましょう 後編



 たどり着いたのは、人気のない中庭。

 放課後すぐに東条先輩に捕まったクラス前の廊下と違って、ここはとても静かでした。

 ああ、またヤジ馬さん達から何か言われるんでしょう。

 見られてたのは知ってたんですが、東条先輩も東雲先輩も、そういう事は気にしませんからね……。

 そうしたら、きっとあの例の人にも話が行って、クラスの人にもまた迷惑が掛かっちゃいますね……。

 落ち込んだその時でした。

「マリアちゃんっ!」

 涙が出そうになっていた私に声をかけたのは……追いかけて来たらしい東雲先輩でした。

 先輩が走って来たとこを見るのは、今日2回目です。

 ……怒ったのに、それでも心配してくれたんですかね……?


「あ、あの、……ごめん」

「……理由とか分かってないのに、ゴメンって言われても困ります」

 ぷい、と顔をそむけて言う私。

 ……さっきの今で素直になれない自分に少し……いえ、でっかい自己嫌悪です。

「その、マリアちゃんの意見も聞かずに、勝手な事言った……から」

 ……びっくり、です。

 理由、ちゃんと分かってくれてました。

 私が、勝手だって、地雷だって、それが嫌だって思ったって事、ちゃんと。

「……分かってくれたなら、それでいいです」

 それでも今は、放っておいてくれると嬉しかったです。まだ素直に、なれませんから。

「うん。それに、あの……彼女の事も」

 それは……。

 もう何度も謝ってくれましたし……。

 だから正直、それについては話したくないです。

 その話題だけでも嫌になってしまいますし。

「先輩が、どうにかしようと動いてくれてるのは、分かってますから」

「……うん……ごめん」

 しおらしく謝られても、こっちもどうしようもないんです。

「でもね、あの男だけは心許しちゃダメだよ」

 これだけは、といった感じで、目を合わせて東雲先輩はきっぱりそう言いました。

「これはその、アイツが嫌いだってのもあるけど……」

 先輩、でっかい正直です。

「それだけじゃなくって……アイツ、何か抱えてるっぽいからさ」

 顔をしかめた東雲先輩。

 そういえば先輩は、ヒロインがパラに要求されるくらいの情報通なのでした。

 その先輩でも、まだ具体的な“何か”が分かっていないのでしょうか?

 東条先輩の秘密が。

 でもそれなら、でっかい問題ありません。

「あのですね、さーりゃん先輩から友美先輩を通じて、空条先輩には話が行っているので、東条先輩に関しては調査開始しているはずなのです」

 やり手のお二方……さーりゃん先輩と空条先輩の事です。

 上手く行けば、隠しキャラの天上氏とコンタクトも取れる事でしょう。

 そうすれば、例え東条先輩が何を隠していようと、恐れるものはありません。

 信じられなくなってしまったのは悲しいけど、その点に関して心配はあまりしていないのです。

 だからむしろ不安材料といえばあの……あの人の事で……。

「だから、大丈夫なのです」

 心配して下さってるのは分かっていましたから、こちらもまっすぐ見つめて大丈夫アピールです。

「……そっか。なら、僕の出番は無さそうかな」

 あ、えーと?どうしてでしょうか、東雲先輩落ち込んじゃいました?

 どこか笑顔が寂しそうです。

「念の為、こちらからも話を通して置くよ」

「はい……よろしくお願いします?」

 何だかこうしてると、東条先輩が本当に私達と敵対してるみたいです。

 本当のところはどうなんでしょう。

 さーりゃん先輩が脅された、って白樹先輩は言ってましたけど、確かにそう、見えましたけど、でも……。

 そんな風に簡単に向こうが敵だ、なんて言い切っちゃって、いいんでしょうか……?

「だから君も、十分注意するんだよ。弱み、見せないようにね」

 そんな風に、悪く言うのは、どうなんでしょう……。

 東条先輩の事を考えると怖いなって思うのは本当ですが、でも東雲先輩にだって、そこまで言う権利は無いと思うのです。


「櫻ちゃんも、知美ちゃんも、言いたくないけど白樹だって君の事守ろうって一生懸命なんだ。それともちろん、僕もだから。だから、アイツじゃなくて、僕の事、頼ってよ」

 心配して下さるのは嬉しいのですが、先ほどから言葉の端々に東条先輩の事混ぜてくるあたり……これってもしかして、いわゆるやきもちイベントというやつですか?

 

 気がつけばもう11月。

 今後多発する可能性のある“あの”一連の地雷原回避の為に、そう、例えば今、選択しなければならないのだとしたら?

 動かない事態に、私の心はすでに限界を突破しつつあります。

 このままでは、心だけでなく身体もぼろぼろになってしまいそうです。

 周囲はストーカーまがいに、信じたくても信じられなくなっている東条先輩。

 あの文化祭の日の話、よく思い出してみましょう。まるで私が人質だったみたいにも取れますよね?

 私にとても優しくして下さる東条先輩の狙いが、本当はさーりゃん先輩だったとしたら……?


 ――――――なら、絶対巻き込む訳にはいかないのです。


 これ以上自分の手でどうにも出来ないというなら、やることは一つ。


「東条先輩の事はもういいんです。先輩方が手を打って下さるって知っていますので」

「マリアちゃん……?」

 硬い雰囲気を感じ取ったのでしょう。東雲先輩が怪訝そうに私の名を呼びます。

「問題はあの人―――淀先輩の方です」

「……」

 今までの饒舌さがウソみたいに、黙り込んじゃいました。

「あの人をどうにかしない限り、平穏な生活は戻ってこないと思います。正直、今まで怪我しなかったのが不思議なくらいです」

「……ごめ」

 今まで話題にしようともしなかったのに、突然真正面から切り出されて、先輩項垂れてます。

「謝って欲しい訳じゃないんです。そうじゃなくて、ただこのまま、あの人の為に生活を犠牲にしていたくないんです」

「ごめんね……それは、だから、どうにか」

 歯切れが悪いのは、どうにか出来なかった自分を責めているからなのでしょうか。

 でも、ここで止める訳にはいきません。

「私、思うんですけど、こうやってお会いするのも止めた方がいいと思うんです」

 その言葉に、東雲先輩がはっと顔を上げます。

 だってそうですよね?

 東雲先輩と無関係だって証明するのが、それが一番、安全ですよね?

 今こうしているのだって、相手に知られればどうなるか分からないのに。

 想像しただけでも、とっても怖いですよ?

「待ってよ!それ、前に言ったよね!?無視しないって、今までどおりだって!」

「それがいけないんじゃないでしょうか」

 きゅ、と口を引きしめます。

 自分を守るため、守るためだと必死に言い聞かせながら。

「言うだけなら、簡単ですよね?」

 先輩の顔色が、はっきり変わりました。

「僕の事、信じらんないっていうの」

「……」

 無言は肯定。

 きっとそう取るでしょう。

「先輩がそうやって意地を張って自分のワガママ押し通して、今まで通り好きな様にやって行けるって思っている内は、きっと何も変わらないです。いまだに自分の進路もなあなあで、まるで独りじゃ何も出来ない、でっかい子供みたいです。先輩は―――もう遅いかもしれませんが、そろそろ大人になるという事を、本気で考えた方がいいんじゃないですか?」

「……そんなこと言うの、マリアちゃんらしくない」

「……私らしいって、どんなです?先輩は、私の―――『私』の何を知っていますか?」

 先輩自身に売り言葉のつもりはないかもですが、こっちはもう、いろんな感情が混ざり合って止まらないのです。

 傷つける言葉が言いたい訳ではないのに、先輩がこちらの(かこ)をかすめるような言葉を言うから……。

「知らないでしょう?言う気もありません。だからこの話はここでお終いです。話しかけるのも止めて下さい」

「そんなの、無理だよ……せっかくこんなに仲良くなったのに……」

 そんな情けない声出して、幻滅させないでください。

 この先の、地雷原の先輩を、嫌でも思い出してしまうから――――――


「お願いです、耐えられないんですっ!!」

 悲鳴みたいな叫びが飛び出ました。


 私は―――これ以上東雲先輩の事“嫌いになりたくない”んですっ!


「…………そう」

 叫んだ後顔を伏せた私に、低い声が降ってきました。

 びくり、と肩が震えます。

「分かった。――――――“大人になれば”いいんだね」

 そう言って東雲先輩は、踵を返して立ち去って行きました。




 そして、先輩のその言葉の真意を知るのは、もう少しだけ先のお話なのです。







人間何がどう転ぶか分からないものですね……。

まさかこんな所でGS2のあの名セリフ「耐えられないんだ!」を使うハメになるとは……(爆)


まーりゃんの東雲君と東条先輩に対する態度ですが、『元』を知っている分東雲君の方が不利ですね。

東条先輩については今まで優しくされてきた実績がありますし、そこまで嫌悪感を抱いていなかったので、不信感はあるけれど、急に大嫌い!というところまでには至っていません。ただかなり警戒はする様になっています。

しののんの方は、それなりに仲良くしていましたし、必ずしも原作通りでは無い事は肌で感じてはいるのですが、正直今のまーりゃんには、そこを熟考するほどの余裕がありません。哀れな……。


しかし何だか『ぶっちぎれ』後半の白樹君みたいな状況になって来た気がします。

さてさて今後、逆襲なるか……?

ま、起こる事件はそれだけじゃないんですけどね。





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