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方法その6 人間関係の変化には敏感になるべきです 後編

「あれ?さっき女の子に囲まれてた人。ハーレムはどうした?」

 さっきの怖い雰囲気がどっか行っちゃいました。その点は、東雲先輩に感謝、でしょうか?

「ハーレムって人聞き悪い事言わないでよー。僕はただ、真理亜ちゃん見かけたから追って来ただけで……」

 ぶー、と膨れる先輩。

 ちょっとドキッとしましたけど、これって後で置いて行かれた女子生徒の集団に呼び出されるフラグじゃないですよねっ!?

 うー、やっぱりでっかい地雷製造機は健在です……。

「で?何があったの?揉め事?」

 携帯を取り出す東雲先輩。

 今回企画立案に大きく関係しているとあって、実行委員や生徒会関係者に連絡を取れるようにしてあったのでしょう。

 それとも、いきなり警備員さんを呼ぶつもりなのでしょうか?

「東雲先輩には、何の関係もありません。引っこんでいて下さいませんか」

 言い方は丁寧ですが、その口調は明らかに、喧嘩売っているようにしか聞こえませんです。

 本当に、今日の東条先輩はどうしちゃったんでしょうか。

「関係なくはないよ。友達と後輩が絡まれているんなら、助けなきゃね」

「絡むだなんて誤解ですよ、嫌だなあ。東雲先輩は想像力だけは人一倍でいらっしゃる」

「……どういう意味か、じっくり聞かせて貰いたい所ではあるけどね」

 何故かお互いいきなり険悪です。

 というか、東条先輩が何故こんなに周囲に悪い態度取るのか、よく分かりません。

 口元は笑みの形を保ったままですが、目が笑ってないです。ギラギラしてるって言うんでしょうか……。

 そこには、いつもの東条先輩の穏やかさはどこにも無く、まるで歪んだ微笑みに見えてしまいます。

 そのせいか、今すぐ何をするか分からない、不気味な怖さがありました。


 その歪んだ笑みのまま、東条先輩は大げさに両腕を広げます。

 まるで、ここにいる人達が何も理解出来ていなくて、仕方がないなあ、とでも言うように。

「ボクはただ、大事な『真理亜』と『話』があるので、その『許可』を取りに来ただけなんですから。ねえ?央川先輩?」

「許可なんか出すか、ばーか」

 しゅ、瞬殺ですっ!?

「『真理亜』って何、いきなり。キモチワルイ」

 嫌悪感もあらわに、東雲先輩が東条先輩を睨みつけます。

 そうですよ、それも気になってました。

「『真理亜』は『真理亜』、彼女の名前でしょう?何ですか?彼女の名前を呼ぶことがそんなにおかしいとでも?それこそおかしな話だ。僕と彼女は親しい間柄。名前を呼ぶ事ぐらい自然な事ではありませんか」

 でっかい不自然ですうううう!?

 でも、その心の叫びは、引き結んだ口から洩れる事は無かったです。

「ほら、彼女も否定しないでしょう?」

 くすくす、と笑う東条先輩。

 “キモチワルイ”というのは言い過ぎだと思うのですが、それにしても、何だかとっても不自然な感じがして……。

 こう、なんといいますか、もやもやするんです。

「……彼女の表情を見てもそう言い切れるってあたりは、大物だと思うけどね。だけど、勝手な判断でこの子達を傷つける事は許されないし、許さないよ」

 東雲先輩、今、私だけじゃなくて、美々ちゃんの事も一緒にかばってくれましたです……!

 こんな時に抱く感想ではないですが、でっかい成長ですっ!!(感動)

「東雲の意見に同意……っていうのも微妙だけど……これは問題視せざるを得ないかな。これ以上彼女達に手を出すような事があったら、彼女達の関係者としても、元生徒会役員としても見過ごせないね」

 ふあっ!?白樹先輩、ぶ、ブラック降臨してます!?

 はわわ、両先輩ともブチギレモードですっ!?

「事情も理解出来ないような方が関係者、ねえ?」

 東条先輩も負けてません。嘲笑、というやつでしょうか……。

 どういう理由かは分かりませんが、明らかに白樹先輩の事、格下扱いしてるみたいに見えます。

「どういう意味だよ」

 はわっ!?白樹先輩、本気で怒り始めてませんか……?

 私と美々ちゃんが、手を繋ぎながら怯え始めたその時でした。

「何をしている」

 響いたのは、この場を支配する王者の声でした。


「大丈夫!?2人とも!」

 天使も降臨ですっ!?な、何が、今何が起こっているんですかっ!?

「……神山、と、央川……の妹か」

「……」

 無敵のボディーガードまで現れて、東条先輩の顔色が明らかに悪くなりました。

「明日葉、さん」

「……お前は、東条の」

「……」

 東条先輩、空条先輩の事、でっかい睨みつけてます。

 まだ、何か言う気なんでしょうか……?

「ふむ、何故お前がここにいるかは分からないが、どうやら原因はお前の方にあるらしいな」

「っな!?何故そう断言できるんです!ボクはただ、彼女達と……っ!!」

「黙れ。発言を許した覚えはない」

「……っ」

 先輩方に守られた私と美々ちゃんの方に、それでもなお手を伸ばそうとする東条先輩に、ぴしゃりと言い放つ空条先輩。

 その差は歴然。圧倒的でした。

「大丈夫か?」

「……」

 東条先輩と椿先輩を交互に見ていた美々ちゃんは、僅かな迷いの後、こそこそっと椿先輩の後ろに隠れちゃいました。

 ……さーりゃん先輩、「あらあら」じゃありませんって。微笑ましそうに見てる場合じゃないですって!


「……っち」

 王者が出てきた今、できる事は何もないと悟ったのか、東条先輩は舌打ち一つ残してその場を去って行きました。

 東条先輩が舌打ちするところなんて、始めて見た気がします……。

 いつもと違う先輩の様子に、不安だけが募っていきそうになった時。

「……もう、大丈夫だ」

 背後で声がしたので振り返れば、椿先輩が美々ちゃんを気遣っていました。

「……」

 椿先輩の言葉に、首を横に振って、さらに裾をギュッと掴んだ美々ちゃん。

 よっぽど怖かったんでしょうねえ。

 椿先輩、ちょっとおぼつかない手つきではありますが、美々ちゃんの事なだめてくれてます。

 さーりゃん先輩じゃないですが、これでちょっとは仲良くなっちゃいます?進展、しちゃいます?

 友人の恋の予感に状況も忘れ、わくわくした気分になっていたら、天使に声をかけられちゃいました。

「大変だったね。でも、もう大丈夫だよ!」

 天使……友美先輩が、輝く笑顔でこちらを覗き込んで来ました。

「はい、ありがとうございました」

「お礼は明日葉さんに、かなあ」

「あっ、もちろんそうですね!」

 そうでしたそうでした。

「あの、でも、何故ここが?」

「それはねー」

 えへへ、と笑った友美先輩はさーりゃん先輩と目配せ。

 先輩、でっかいサムズアップです。

 ……なるほど。


「あの、来た時にはすでに険悪ムードだったのは何故なんでしょう?」

 普段と違う、東条先輩の様子も気になります。

 せめて事情が知りたいと、そう口を開いた私とは反対に、先輩は黙っちゃいました。

「……………私は、まーりゃんが自分自身で恋を見つけるなら応援するつもりだったけど……相手にもっと注意を払うべきだったかもしれないな」

 周囲が見つめる中、やっと出てきた言葉は独り言のようにぽつりと零され、まるで謎かけの様でした。

 それから、さーりゃん先輩は真っ直ぐにこちらを見つめて、

「まーりゃん、東条先輩には、もう近付かない方がいいかもしれない」

 はっきりきっぱりと、そう言い切りました。

 

 結局、何があったのか最後まで詳しく言わないまま、先輩は空条先輩と話し始めてしまいました。

「……分かっているとは思いますけど、これは彼女の事だけじゃないかもしれません」

「……ああ。すぐに手配しよう」

「よろしくお願いします」

 主語の無い、短い言葉の応酬。

 でも、当人達はそれで全て分かってしまっているらしかったです。

「ねえちょっと、何の事?何があったのさー」

「……」

 東雲先輩の言葉に、顔をしかめた先輩。

 代わりに答えたのは、白樹先輩でした。

「俺も全部を理解出来たわけじゃないけどな、多分、脅迫だ」

 あってるか?という問いに、さーりゃん先輩はしばらく白樹先輩を見詰めた後、こくんと頷きました。

 私の名前が出ていた事、巻き込まれかけた事から察するに、もしや、その脅迫の内容というのは……。

「真理亜ちゃん!?」

 目ざとくも私の様子に気付いた東雲先輩が慌てますが、それどころじゃないです。

 想像しただけで、血の気が引いて行くのが分かりました。

 さーりゃん先輩を真っ直ぐ見つめます。

 まさか、まさか、私達が転生した人間であることがバレたのでしょうか!?

 そして、この世界が私達にとってゲーム世界であった事も。

 いえ、まだ何がどこまで把握されているのか私は知りません。

 さーりゃん先輩に話をしなければ!でも、ここは人が多いです。改めて、という事になるのでしょう。

 もしかしたら、もしかしたら、全然別の事で脅されたのかもですし……っ。


 場が解散する直前、さーりゃん先輩は空条先輩に向かって話しかけてました。

「……ご親戚は選んだほうがいいですよ」

「やかましい。ふんっ、そんな事が出来るならとっくにやっている!」

 何故か『お笑い』っぽくなっているんですが。

 ここはシリアスな場面では?

 それで良いんですか!?さーりゃん先輩!









ぼちぼちシリアス(笑)混入します。




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