方法その6 人間関係の変化には敏感になるべきです 前編
あっという間に時は過ぎ、もう10月も終わりです。
今年の学園祭は通年の11月頭ではなく、10月最終週の土日にかけて。
そうつまり、でっかいハロウィンパーティーなのです!
誰が企画通したのか、でっかいまるっとお見通しです!
でもですねえ、この時期は廃人が出るとか言っておきながら、生徒会もよく無茶をしたものです。
あ、廃人が出るって言っていたのはさーりゃん先輩でしたか。
その忙しい時期に、さらに無茶が通せる東雲先輩も相当凄いですけどね。
人望?人柄?はてさて、って感じです。
方法については大体のところ、想像がつきますよねー。
うーん、おねだりの威力は今だ健在、ってところです?
出会った頃より嫌悪感が薄れてしまっているのは、東雲先輩の行動パターンに慣れたからなのでしょうか、それとも、少しずつでも仲良くなってきているせいなんでしょうか……。
……なんて、他人事みたいに分析なんてしていますけど、文化祭関係のお仕事には私も美々ちゃんと一緒に『関係者』扱いで、がっちり人員に組み込まれていましたよ!
主にさーりゃん先輩の陰謀ですよぅ……。
ラスト1ヶ月は本当に忙しかったです、はい。
そんなこんなで、文化祭兼ハロウィンパーティのでっかい開幕なのです!
私は当然、美々ちゃんや他のお友達と一緒に回りますですよ!
東雲先輩は、例によって女子生徒に囲まれてウハウハしてました。もう放置です放置!
それでですね、今回ハロウィンパーティという事で、実は仮装もアリなのですよ。
といいますか、学内学外に広くアピールする為にむしろ推奨されているくらいなのです。
学内向けというのは、主に個々の出し物の宣伝活動って事ですね。
そんな訳で、私も美々ちゃんもコスプレです。
私はオレンジと黒のストライプが基調の、ちょっと派手目の魔法少女……って言っていいのか……、とにかくそんな感じです。
背中にはマント代わりの蝙蝠の羽が付いているんです。
髪型については……まさかこの年齢でツインテールを体験するハメになろうとは……。
美々ちゃんの方は、意外にも魔界の王子様風男装少女なのですっ!
黒を基調に、ゴシックな感じがまたよく似合うのですよっ!!
当然ですが一緒に写真を撮りました!基本ですね!
私達のクラスの出し物は、お菓子つかみ取りなのです。
小さなチョコやクッキーを、用意した専用の容器に入れて、入るだけ持って帰って下さいというあれですね。つかみ取りというよりはでっかい詰め放題です?
ただし、中身には妥協しませんでしたから!
私も美々ちゃんと一緒に、さーりゃん先輩押しの銘店に行き、じっくり吟味させて頂きました。
某デパートの店員さん……この人もゲーム内では人気のあったサブキャラクターさんなのですが、もう何年か経っていますし、きっと移動とかしていますよねー……なんて思っていたら、意外な事にまだいらっしゃったです!
若い店員さんに何かご指導していたみたいですが、私達がきょろきょろしていたらすぐに声をかけてくれました!わあ、さすが執事(あくまで店員)さんです!
あれこれ聞きながら選んだあの時間は、まさに至福というべき時間でした。
今でも思い出すと、ほう、と溜息が出そうになっちゃいます。
そのおかげかどうなのか分かりませんが、自クラスの出し物もそれなりにお客様がいらっしゃって……央川家御家族様一行がいらっしゃった時には、少しだけ騒ぎになったりもしましたが……。
ご両親というよりは、弟さん達のせいですね。央川家は美形姉弟なのです。
そして弟さんのご友人達も皆さんいわゆるイケメンさん達なので……。
後はまあ、分かりやすい流れと言えばそうなのかもしれませんが、女子の皆さんがすごく騒いでしまってですね……美々ちゃんがあっという間に囲まれてて、助け出すのにでっかい一苦労だったです。
そんな一幕もありつつ、私と美々ちゃんは休憩時間に一緒に出し物を見に行く事にしました。
一通り巡り、他に見たいものがあったりとか出し物の当番の時間になったりとかで、一緒だった子達と別れた後、さーりゃん先輩達にも挨拶に行こうという事になったのです。
普段はなかなか行けない3年生のフロア。そこに“先輩方”はいました。
「……それは、どういう事?」
階段を上がりきった先から不意に聞こえて来たのは、さーりゃん先輩の声。
けどそれは、いつものあの柔らかで穏やかで、少しどこかとぼけたような優しい声ではなく。
「……貴女なら、言わずとも理解して下さると思っていたのですが。……それとも、いえ、構わないのですよ?ここで全てをお話ししてしまっても」
「………それは」
とげとげしい口調から一転、今度は戸惑う声。
お姉さんの非常事態に、美々ちゃんがきゅ、と服の裾を掴みます。
私と美々ちゃんの視線が交じわりました。
そうですね、先輩に何かあったのなら、私達が出て行く事で状況が変わるかもしれません。
「さーりゃんせんぱ……」
意を決して踏み込もうとしたその時でした。
「“神山真理亜”。貴女がこの半年で急に親しくなり積極的に関わって来た人物。……彼女も“関係者”なんでしょう?」
私、ですか?
かけた声は途中で尻すぼみになりましたが、それでも向こうに気づかれるには十分で。
こちらを見て驚いた表情をしたのはさーりゃん先輩と、白樹先輩。
……そして振り向いたのは、
「おや、これはこれは。『真理亜』、それに妹の美々さん、おそろいで」
優雅に両手を広げ、まるで歓迎しているかのような仕草の、東条先輩でした。
「まーりゃん……」
「あー……」
さーりゃん先輩も白樹先輩も、なんだかとっても微妙そうです?
一応、お助けのつもりだったのですが……。
「そうそう、先ほどのお話なのですがね」
にこり、と微笑んだ東条先輩は、すすっとこちらに近づいて、おもむろに私の手を取りました。
「貴女が駄目ならば彼女に聞く、という選択肢もあるんですよ。どうします?」
「お前……」
「ちょっと」
白樹先輩もさーりゃん先輩も唸ってます。
あ、れ?……これって何だかまるで、人質みたいじゃないですか?
いえ別に、危害を加えられそうなほど危ない雰囲気、という訳ではないのですが。
「……考えておくから、彼女を放して」
さーりゃん先輩、すっごく東条先輩の事、睨みつけてます。
一体、何があったんです?
「そうですか。それが言葉通りである事を望みますよ。さ、『真理亜』」
手を放してはくれましたが、その手は今度は背中に回りましたですっ!?
東条先輩は、そういう方面でも結構スマートな方ですけど、今日はやけに何だかでっかい積極的ですっ!?
「真理亜ちゃん……」
はっとして後ろを振り返ります。
おどおどとした印象の、美々ちゃんと目が合いました。
ああ、美々ちゃん、男の人苦手なのに、私の為に……。
そのすぐ下に視線を向ければ、背中から抱え込むような東条先輩の手に、彼女の手が延ばされているのが見えました。
その一生懸命さに、思わず手を伸ばし、ぎゅっと握りしめました。
スマートなのは良く分かりますが、女の子怯えさせちゃ駄目ですよ!
「『真理亜』?どうしたんだい?何もおかしな事なんて無いよ?ボクはただ、君と一緒に回ろうと思っていただけなんだ。ほら、一緒に行こうよ?ただ話がしたいだけなんだ」
ぐい、と腕を掴まれて、思わず顔をしかめます。
本当にどうしたんでしょう。東条先輩、いつもと様子が違うみたいです。
さっきのさーりゃん先輩達とのやり取りで、何かあったのでしょうか……?
「しつこい男は嫌われるんじゃないかな?」
見かねたらしい白樹先輩が、東条先輩と私の間に割って入ってくれました。
「……人の事言えた義理じゃないと思うけどね。けどまあ、同感、かな。……ウチのカワイイ後輩と大事な妹に、何しくさっとんじゃワレェ」
語尾がなんだか違うように聞こえたんですが、さーりゃん先輩。
とってもでっかいこわいですううう。
「ちょっとちょっと、そこでなにやってんの!?」
廊下の向こうからやってきたのは、例のあの人でした。
ああまた、でっかい大事になりそうな予感です……。




