終わり、そして始まり
今回は、良い子は真似しちゃいかんシーンからスタートです。
ホント、シャレにならんので止めよう(提案)
それは、とある真夜中の出来事だった。
出来る限りそっと、重い鉄の扉を開ければそこは――――――
どこかボロい印象さえある、打ちっ放しのコンクリートの屋上。
“今からしようとする事”を考えれば、怖くないと言ったら嘘になる。
でも私は、衰えた体で何とか、えっちらおっちらとそう高くもない筈の錆びたフェンスを乗り越えた後、決して爽やかでは無い風を感じ、それでもほう、と一息ついた。
普段の自分からは考えられないほど強くフェンスを握りしめている事に気づき、苦笑する。
今はまだ、その手を放すのは何だかんだ言ってもやっぱり怖い。
“今からしようとしている事”からすれば、それは思わず笑っちゃうほどにおかしい事だ。
でも私は、まだ、まだ少しだけ――――――。
暗い夜景をどこか見るともなしに見やり、巻き上がる風に煽られながら“あの言葉”を思い出して、じわりと胸が軋む。
疲れ切った表情の母が、“病室”の外に出て吐き出した、あの一言を。
そこを見つけたのは偶然だった。
幸か不幸か、都心を少し離れた田舎町の古い病院。
私の病状からすれば、その病院は全く見合っていなかった。
実際、先生方からは転院を何度となく打診されたほどだ。
しかし我が家の経済では、このランクの病院で治療して貰うのが精一杯で。
もはや治療とは名ばかりの現状維持に過ぎなくても、これ以上の良い病院での治療など、望むべくもなかった。
だから、ここが私にとっては最期の場所になるのだろうと、そう思っていた。
そしてそれは―――間違っていなかった訳だけれども。
「いつまで―――」「はやく―――」
母が呟いた、その後に続く言葉など容易に想像できて、私は生まれて初めて目の前が真っ暗になるという経験をした。
聞こえた声が震えていたとか言う事も無く、それはただただ乾ききった声だった。
私だって苦しいんだとか、つらいんだとか、恨み事が無かった訳じゃない。
でもそれ以上に、『じゃあ居なくなってやる』と思う方が強くて、私は昼間の内に錆びたボロい扉に布を噛ませ、細工をし、
――――――そしていま、ここにいる。
短くない時間病院にいた私にとって、ベッドを抜け出す事はそう難しい事では無かった。
しかし、もしかしたらきっと今頃はバレているかもしれない。
――――――あまり、時間は無いだろう。
恐る恐るフェンスから手を放し、やっぱり恐る恐る体の向きを変える。
――――――風が強い。
うっかりすると飛ばされそうだ。
――――――まあ、飛ばされても良いんだけど。
そこまで考えて、心が落ち着いた。
目を細める。まるで世界を睨みつける様に。
――――――前園瑞穂、享年16歳。
私は、今までの人生に感謝する事無く、
『足を一歩、踏み出した』
真似したらダメ、絶対。(二度)
この辺の話も含めてのPC限定版なのですよ。
あ、次回から通常営業戻りまーす。