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決別の再会

何とか9月11日に間に合いました。世界が平和でありますように(^人^)

「聞こえる……アニマの声が」

 宇宙ステーション、セクション1へ着いたエレベーターから降りたエリファは、中央ロビーを歩きながらおもむろに口を開いた。

 どこからともなく聞こえるそれは、かつて耳にした囁きそのものだった。間違いなく幻聴ではない。耳鳴りのように、たとえ耳を塞いだとしても囁きは呪いのように脳裏で高鳴る。だが、1つだけ決定的な違いがあった。

「苦痛は……感じない? 対干渉還元制御(AIF)が機能しているから?」

 確かに、冷静に聞けている自分に驚きはしたが、それが不快であることは変わりなかった。逃れる事もできはしない。

「まだ私を誘っているとでもいうの?」

 粟立あわだつような感覚が走った両腕を抱え込み、エリファは独りごちた。

『たまには誘われてみたら?』

 アオイが投げやりに言ってくる。

「冷かさないで下さい」

『茶化してるのよ』

「意味変わらないじゃないですか」

『もう。このアオイ姉さんの心遣いが分からないかなぁ。エリファ自分で気付いてないみたいだけど、声震えてるんだもの』

「…………」

 思わず口ごもる。正直声が震えている自覚はなかったが、体が震えているのだけは認めていた。抱え込んだ両腕を更に強く抱え、エリファはうずくまった。痛みがどうにか震えを抑えてくれる。思考を切り替え、エリファは今すべき事を思い出した。

「……早くゼーンを助けにいかないと。反応が小さい。セクション4みたいだけど確かよね?」

 なるべく声が震えないように、エリファは慎重に言葉を紡いだ。

『そうね。こっちでも確認したけど生命維持ぎりぎりかもしれない。だけど、そっちは心配しないで。シレーヌが警備隊に連絡したから。彼等にはNA剤(NBM緊急補充用薬剤)を所持してもらってるし、ちゃんと対処してくれるよ。それよりも、今警備隊はミリアが指揮してるからそっちに行ってあげてくれる?』

「ミリアが?」

『シュウもゼーン同様、もうあまり無理はできないのよ。だからミリアが代役してるんだけど……正直彼女じゃ頼りないからさぁ。だからって、エリファにお願いするのも悪いんだけど』

「心配しないで、私はもう平気だから」

『そう? ま、エリファがそう言うならいいけど。……あ、でもね、センチメンタルな女は得するから覚えておいた方がいいわよ』

 どこか愉快そうに話の内容を変えたアオイに、思わず訝しげに問い掛ける。

「……何の話?」

『恋愛の指南よ』

 溜め息を吐き出す一瞬の沈黙を経て、エリファは震えの止まった体から腕を解いた。

「またそんな話?」

『あら、お気に召さない? 同じ乙女同士、他愛ない話もいいじゃないのぉ』

「別に今じゃなくてもいいと思うだけです」

 言いながら、エリファはセクション4へ向かう正面のエレベーターへと歩を進めた。

『つまんないなぁ、ゼーンは今話せる状態じゃないしさ。キメラもいなくなったし、暇してるわけなのよ』

 さも当然のようにそんな不謹慎な悩みを打ち明けられても、どうにかできるわけがないのだが。返答に迷いつつ、エリファはエレベーターのボタンを押した。

 −−が。

「あれ?」

 本来押せば点灯するはずのボタンが点灯しない。

『あ、ごめんごめん! キメラとの戦闘で安全装置が働いてターミナル内のエレベーターは全部停止してるんだった』

「…………」

 つい、うっかり割ってしまったエレベーターのボタンから指を離し、エリファは無言で別の移動手段を探した。



 擬似重力を生み出す為に軸を中心として回転を続けるネウロンのリングは5層構造になっており、その5層目が最奥部と呼ばれている。そのネウロンは今、第1層を地上へ向け、軌道エレベーターの柱頭部と軸を直線にして連結されていた。

 ステーションからネウロンへ行く為のエレベーターは、予想通り安全装置が働き停止していたが、1台だけは何とか起動させる事に成功した。

 セクション5。軌道エレベーターの先端部、連結ブロックへ到着したエレベーターから、ミリアは無重力空間へ体を滑らせた。ブロックの中心には円柱型のエレベーターがあり、それがネウロンの軸へ直結している。

「……静か過ぎる」

 森閑しんかんとした空間はかえって不気味さを引き立てている。募る不安に思わずミリアは呟いた。

「頼みのキメラが全滅したから、士気が低下したんじゃないのか?」

 後から続いた警備隊の1人が言ってきた。

「まさか逃げたの?」

「それはないだろ。奴らの船はまだステーションに停泊しているし」

「やっぱり、突入するなら今かな?」

「ああ。キメラには遅れを取ったからな。俺達には汚名返上のいい機会だ」

「へへ〜今度は頼むよ? ……あれ?」

「どうかしたのか?」

 ふと気になった耳鳴りに、ミリアは違和感を覚えた。それはインターフェースジャマーによる影響であろう事は予想できたが、

「何かイライラするなぁこの耳鳴り。頭痛もしてきた」

「急ごう。OBISオヴィスへの干渉波も影響してるのかもしれない」

「そうだね。抵抗無いなら無いうちに」

 加えて、もし抵抗があったとしても、相手が人間であれば対処は容易い。が、強腰な言動の反面、心中では半ば取り乱している自分もいた。

(ん〜隊長、私大丈夫かなぁ)

 依然続く耳鳴り−−いや、それは徐々に痛みに変わりつつあった。



「お粗末だなぁ」

 ほんのりと冷たい床に仰向けのまま、薄暗いロビーの天井を眺めながら、ゼーンはぼやいた。

「なかなか引き際は難しいものだよ」

 脇でNA剤の準備をしながらシュウが苦笑する。

「ま、相手があれじゃあな。ホントにOBISオヴィスかあれ?」

「だと思うよ。でも、僕がもう少し頑張れれば問題はなかったんだろうけど」

「そりゃお互い様さ」

 想定外のキメラに苦戦した事よりも、それだけのキメラが生み出された事実の方がより重い。

「これが僕等の宿命なんだろうけどね」

「クサイ台詞だな隊長」

「そうかい?」

 シュウは携帯ケースからNA剤の容器を取り出し、使用量の目盛りを合わせていた。

NA剤とは、ハイブリッド専用のNBM緊急補充用薬剤の事で、NBMの有効稼働率を補助的に回復する為に使用される。その容器は直径約2センチ、長さは10センチ程の注射器のような形をしているがそれに特有の針は無い。代わりにハイブリッドの固有分子情報を読み取る小さなプラグが付いており、それによってある程度適合させながらNA剤を注入させる仕組みとなっている。

「よし、準備完了」

 その必要は無いのだが、シュウは容器を軽く指で弾き、注射器を使用する際にはよくやる気泡を抜く仕種を見せた。

「頼むよ」

 言いながら、ゼーンはわずかに動く左腕をシュウに差し出した。

 プラグが腕に差し込まれると同時に、バイザー状ディスプレイが自動的に下がり、現在のNBM有効稼働率やNA剤との適合レベルなどが表示されていく。

「有効稼働率5%未満かよ……俺も落ちぶれたもんだな」

「そう言うな。戦争の道具だったあの頃と今は違うよ」

「……“俺達は”な」

 注入が終わると徐々に全身に感覚が戻り、右肩の傷の修復が始まる。しかしそれでもまだ、血流が滞って痺れた後のような体を動かすのは難儀だった。

「NA剤が馴染むまでは無理に動かない方がいいよ。とはいえ、ある程度回復してもさすがに戦闘は無理だろうけど」

 と。言い終えたシュウはNA剤の容器を携帯ケースに入れようとしていた手を止め、突然上を向いた。

「どうかしたのか?」

「……何か声が。いや、耳鳴りかな?」

 シュウのその言葉に、ふと不安が過る。ゼーンはバイザー状ディスプレイの表示を切り替えた。

「……この、干渉波は」

「ゼーンまだ」

 シュウの制止を無視して軋む体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。目眩めまいに似たふらつきはまだNA剤が馴染んでいないからだろう。走る事も辛いかもしれない。だが。

「まだ後少し、無理しなきゃまずいかもな」

 バイザーを上げながら頭上を見上げ、ゼーンは舌打ちした。



 ある1つの事を除けば静寂であろうネウロン。そのある1つの事である耳鳴りに悩まされながらも、ミリア達は第3層まで到達していた。

 そこまでの捜索は難無く終えたものの、救助すべき所員の生存者はゼロ。状況を考えれば予想はできたが、それは所員に限られた事ではなかった。腑に落ちない思いを胸に、ミリアは何度目かの言葉を吐き出した。

「いったい何があったの?」

 目の前には、ライフル銃を握りしめた犯行メンバーの1人であろう男が死んで倒れている。男の頭部には明らかに銃で撃った痕があった。

「自殺、なのか?」

「こんなあっさりと? 何か不自然じゃ……うっ!」

「どうかし−−っ!?」

 痛みが広がる。

 それはまるで、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃にも似ていた。続けざまにこめかみの辺りが締め付けられ、目の前がかすみ、意識が一瞬遠退く。平衡へいこう感覚を回復させる事もできず、なんとか壁にもたれ掛かり、倒れるのだけはしのいだ。

(立ちくらみ……なんかじゃ、ない?)

 味わった事のない体の異変に、ミリアは平静を失いつつあった。だが、それを自覚していても手の施しようが無い。

「うぅ……いったい、なんなの……これ」

 壁に肩を擦るように歩きながら、ミリアはうめいた。ふと後方を見遣ると、他の隊員は皆床に倒れ伏している。

(私はまだ、マシみたい……ね)

 だが、意識と感覚が徐々に削がれていくような状態では自分も近いうちに倒れるのは間違いない。抗おうにも、体の自由すら無くなってきた。それは恐怖としか例えようがない。訳も分からずミリアは唇を噛み締めた。

 と、その時−−

 おぼろげに映る視界の中央で、銀色の何かが揺らいだ。まるで陽炎かげろうに潜む火柱のように。陽炎なら幻と大差ない気もしたが、“それ”は確かに存在している。朦朧もうろうとした意識の中でもそれだけは感知できた。

 いや、否応なしに感じさせられた。

(……背筋が、凍る)

 寒さを感じる炎など馬鹿げた妄想でしかない。ならば“それ”は何なのか。確かめようと手を伸ばすが、触れる事ができない。

 もはや立っているのは限界だった。手を差し出したまま、前に倒れる。受け身も無残に失敗し、冷たい床が容赦なく頬を叩いた。皮肉にも、その痛みと冷たさが意識を僅かに覚醒させる。そして、“それ”の気配が、硬質の床を伝ってくるのが分かった。

 数秒の間。唐突に聞こえてきたのは、寒気を含んだ男の囁きだった。

「苦しいか?……何故苦しい。いや、何故苦しむ必要がある?」

 あざけるような口調。見下されている心地に反感を覚えたが、抗言する余裕はとっくに無かった。



「やはり、あくまで静観を貫くつもりのようですね」

 統制本部宛に届いたメールの無機質な文字の羅列を見て、エームズは込み上げる怒りを抑えながらガヴリアに報告した。

国際連環機関ト・コイノンか?」

「はい。こちらの救援要請は却下されました。しかも返答がメールとは。リベラルが関与しているならば動いてしかるべき事態のはず……」

「それが“彼等”だ。そんな対応しかできないから、リベラルにもてあそばれてしまう。これは一種の歴史に宿る必然の呪縛とでもいうのかな?」

 それは比喩ひゆのつもりなのだろうか?

 納得しようとするよりも、考え込む事が先立つ。予期せぬガヴリアの言葉にエームズは戸惑いを隠せなかった。

「おっしゃりたい事がいまいち分からないのですが」

「そんなはずはない。エームズにも分かっているはずだ」

 そう言うと、ガヴリアがふっと口元を緩める。そして立ち上がると双眸そうぼうをどこか遠くを見るように漂わせた。沈黙が数秒続き−−

「6年前。世界情勢の悪化に伴い、国連は苦肉の策として、安保理決議の採択により国際連環機関を発足させた。平和維持、テロや紛争の抑圧の為の軍事力行使。世界規模での調和を促す事を主立った活動として。だが……それはまったくの逆効果となった。国際連環機関の発足に端を発し、反連合政府同盟アウガルは世界にその名を現す事になった」

 ガヴリアの口から語られたのは歴史の断片、かの大戦の発端に纏わる部分だった。確かにそれならば分かる。エームズも自分の記憶を辿り、言い添えた。

「理想主義の仮面をかぶった軍事的独善などとも揶揄やゆされていましたね。強硬姿勢過ぎたのがあだになっていたのでしょう」

「そうだね。……だが皮肉にも、ジオ社はその国際連環機関ト・コイノンの後ろ盾によってここまで発展した。いわゆるハイブリッド技術提供による見返りだな。戦争への協力……いや荷担、かな」

 途端、ガヴリアの顔にははっきりと険しい陰が見えた。それは人が何かを忌み嫌う時に見せる表情。

「荷担ですか。……前総裁である父上の功労もあったと私は思いますが」

 視線を合わせる事ができないまま、怖ず怖ずとエームズは言った。

「父の全てを否定するつもりはないよ。功労もあったのは認める。……しかし、大戦への功労者として国際連環機関ト・コイノンに表彰されたのだけは私には到底理解できない。戦争への功労など喜ぶべきじゃない」

 ガヴリアが父親を憎んでいる事は社内でもよく知られている。それは前総裁である父親が死に、ガヴリアに引き継がれてから、それまで密接だった国際連環機関との間に大きく距離を取るなど、社の方針に顕著に現れていた。とはいえ、その心裏しんりをここまであからさまにするのは記憶に無い。繕う言葉も見つからず、エームズは口をつぐんだ。

 ガヴリアは険しい表情のまま続ける。

「父は死んだが……どうやら私は父の呪縛からは逃れられないようだな」

 かぶりを振るガヴリアの顔には苦笑が浮かぶ。

「それが……必然の呪縛ですか?」

「過ちは繰り返されるという教訓だよ。いや、そう仕組まれていたと言うべきなのかな」

「……?」

「人は何故争うのか。それは、人には未来永劫説き明かす事のできない命題かもしれない。そう。だからこそ、国際連環機関は存在しているのだ」

 矛盾の二文字が脳裏に過ったが、口にはせずガヴリアの次の言葉を待った。

国際連環機関ト・コイノンの思想がそれを証明している」

「……思想、ですか?」

「機関の代表ヴィンセント・ブリストーは言った。世界の本体は精神的であると。ただ精神のみが真の存在でありそれを重視すると」

「唯心論、ですか」

 ようやく穏やかになりつつあったガヴリアの表情に安堵しながら、エームズは言った。

「この事態は、私の恐怖心が招いた結果だ。……アニマは、国際連環機関ト・コイノンの精神そのものだからこそ、否定しきれなかった私の責任だ」

 エームズはガヴリアの言動に言い知れぬ不安を感じ、咄嗟に口を挟んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください! その言い回しはまるで」

「そう声を荒らげるな。エームズが気にかける必要はないよ。推測の域とは得てしていい加減なものだからね」

 そう言って、ガヴリアは事もなげに意味深な笑みをこぼした。



 突然消え失せた耳鳴りの後に訪れたのは何の変哲もない沈黙だった。自分の呼吸と足音が無ければ、ネウロンの分厚い壁の外と何等変わらないだろう。ふと、そんな事を思いながら、エリファは第3層へ着いたエレベーターから降りた。

(感じる)

 安否が不明な所員12名や警備隊の反応が確認できない状況なのはインターフェースジャマーの影響だろう。それでも目を閉じれば今でも不敵な笑みが甦る。この気配だけは忘れるはずがない。忌ま忌ましい記憶がうずき、気分を逆撫でする。我知らず止めていた息をゆっくりと吐き出し、エリファ廊下を走り出した。

 擬似重力は回転するリングの内側に発生している。廊下はまるで坂を上るようだった。その廊下を200メートルほど走っただろうか。徐々に見えてくる状況に、足が自然と動かなくなる。

 倒れ伏した20名前後のハイブリッド。微かな呻き声が聞こえてくるがそのほとんどが気絶しているようだった。

(……やっぱり)

 手前から今一度見回し、視線を奥へと移していく。やがて、たった1人悠然と立ちはだかる男の姿が視界に入った。青藍の瞳は変わらず、禍禍まがまがしい気をはらんでいた。

 男は口元だけで笑い、言ってくる。

「来たか。久しいな、エリファ」

「……アニマ。二度とこの目で見る事は無いと思っていたけど」

 臆する事なくアニマを睨み据え、エリファは言葉を喉から搾り出した。言いたい事は山ほどあったが、今は沸き返る感情を抑えるので精一杯だった。それでもこれは言わなければならない。

「でも、私がここにいるのは他律的じゃないわ!」

 抑え切れなかった感情が上乗せされ、口調は自ずと強くなった。

 アニマは口の端を吊り上げながら言ってくる。

「なまじ一部の人間に感化されて、それが自分の意志だとでも勘違いしたか?」

「……否定はしないわ」

 アニマの表情が一瞬にして険しくなり、いぶかるような眼差しで唸り声をあげた。

「なんだと?」

「私にとって自分の意志で踏み出したこの一歩はまだ始まりでしかない。……だから大切にしたい。絶望を知っているからこそ感じられる人の優しさを」

 一言一言を噛み締めるようにエリファは言った。今はもう惑う事はしない。信じられる揺るぎない意志があるからこそ、過去を振り返らずに済むかもしれない。

「後悔はしないとでも言いたげだな」

「後悔ならもう十分してきたわ。……これ以上後悔しない為に、誰にもさせない為に、私はここにいる!」

 青藍の瞳が全てを見透かすかのように、妖しい光を放つ。動揺を誘う目を細めて、アニマはくぐもった笑い声を漏らした。

「お前は自分が正しいと、正義だと、そう言いたいのか? くっくっくっ、健気だな、何も知らないというのは。またお前に問わねばならないか。真に憎むべき、忌むべき存在は何か、を」

 その答えにはもう迷わない。答えはすでに決まっている。ここへ来たのは、それを告げる為でもある。躊躇わず、素直に−−

「これが答えよ」

 同時に、エリファは抜いたシュナーベルの切っ先をアニマへと向けた。

「多くの犠牲をかえりみず自分のせいだけに固執するお前の方が正しいのか? 人間を否定しても、所詮お前だって人間の端くれなのは変わらないんだ!」

「利用されている者が何を言うか。……ハイブリッドの真意すら知らないお前が」

 ののしりを吐き捨て、アニマがきびすを返す。

 追い掛けようと駆け出すが、次の瞬間アニマの後ろ姿が見えなくなる。それはアニマの存在自体が消えたのではない。突然遮さえぎられた視界。エリファは我が目を疑った。

「……そ、そんな、まさか?」

 目に映ったのは、今まで倒れ伏していたハイブリッド達が、行く手を阻むようにゆらゆらと立ち上がっていく光景だった。

 耳鳴りが、再び始まる。

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