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発露

 警告を知らせる音と共に、モニターに表示されるネウロン内部の異常な数値を示す干渉波のグラフ。インターフェースジャマーによって内部の詳しい状況を知る事はできないが、それは普通では考えられないレベルに達していた。

「局地的なものみたいだけど、いったいこれは」

 干渉波が何に対して影響しているのか調べながら、シレーヌは目を見開いた。数値から予測するに、生身の人間では意識を保つ事は不可能かもしれない。

 アオイがたまらず言ってくる。

「まさかナイトメア?」

「冗談はよしてよ。……でも、ネウロンの内部はもしかしたら」

 シレーヌは続くべき言葉を右手で塞ぎ、封印した。そして左手は最後のキーを押す。

 ゴーストのように照らし合わされた別の干渉波のグラフと数値。

「……やっぱり」

 尋常ではない干渉波は、紛れも無くアニマのものだった。慌てた様子でエームズがモニターを覗き込んで来る。

「間違いないか?」

「えぇ、このパターンは統合制御戦闘体系(UCFS)、アニマのハイブリッドに対する干渉制御に酷似しているわ。AIFアンチインターフェースフィードバックが無いと、レセプタータイプのハイブリッドには為す術が……」

「まずいな。いったい何が起きているんだ?」

 エームズが唸る。この状況では、知る術は無いに等しい。一度は静まった統制本部も、再び混乱していた。ネウロン内部に突入した警備隊と通信が繋がればいいが、状況からして期待はできそうもない。

「あ、先輩、ゼーンから通信です!」

「ゼーンから!?」

 期待していた相手とは違ったが、アオイは心なしか嬉しそうな表情をしている。

「ゼーンよかった、無事なのね?」

『もちろん、もう大丈夫ですよ。今、シュウとネウロンへ向かってます』

 いつもの脳天気さは影を潜め、その声はやや緊張している。だが、気にすべきはそこではない。

「ちょっと、馬鹿を言わないで! 2人共今の状態じゃまともな戦闘なんてできないわよ?」

『そんな事言ってられる状況じゃないっすよ?』

「……知ってるのね?」

『一応“経験者”なんで』

 含みのある言葉にシレーヌは一瞬鳥肌が立った。その言葉はアオイの冗談より肝を冷やす。いや、つまりはもう冗談ではない。

「わ、分かったわ。でも、無茶はさせないわよ?」

『いやぁ、正直もう無茶はしたくないかな』

 いくらかいつもの口調に戻ったゼーンの様子に安堵しつつ、シレーヌは言葉を返した。

「まったく。無駄口をたたく余裕があるなら、早く本題に入りなさい」

『お、さすがシレーヌさん。話が早い』

「それが無駄口」

『へい。実は頼み事なんですが、シュウにもAIFをインストールできますかね?』

「可能よ。ただ、少し時間ちょうだい。ネウロンに到着するまでには必ず用意するから」

『お願いします』

 通信が切れると同時に汗ばんだ両手をハンカチで拭き取り、シレーヌは急いでAIFのインストール作業に集中した。



 立ち上がったハイブリッド達に動き出す気配はなかった。吹き渡る風に揺れる草原の千草のように、彼等は立っている。

(コントロールされているの?)

 一度に20名近いハイブリッドをやり過ごすというのはさすがに厳しい。アニマがこの場を去る為の時間稼ぎだとすればどうということはないが。ひとまずハイブリッド達から殺気が感じられないのを確かめてから、エリファは胸を撫で下ろした。

「アニマ、何故逃げるの!」

 どこからともなく感じる別の気配に向かって、叫ぶ。そしてアニマの声もまたどこからともなく、耳の奥−−脳裏に響く。

『私は逃げはしない。お前が自分の存在が何なのかを知るまで、待つだけだ』

 震えは無いが、気分がざわつく。あまりの不快さにかぶりを振り、エリファは反駁はんぱくした。

「この期に及んでまだそんな事を!」

 だがアニマの言葉は返ってこなかった。自分の発した声の余韻よいんだけが静寂を散らす。

 そして、その刹那。

 居並ぶハイブリッドの中から殺気を感じ、エリファは直ぐさま飛び退いて、右手でシュナーベルを構えた。

(来る!)

 見定めた方向。ハイブリッド達を薙ぎ倒し、その殺気が剥き出しになる。

「ミリア!?」

 右手で振り下ろされた鈍い光を放つミリアの長剣をシュナーベルの峰で受け流しつつ、エリファは叫んだ。だがミリアは無反応のまま、間髪を入れず次の挙動に移ろうとする。

(早い!)

 右に流れた剣が滑らかに反転し、小振りに始動。

その動きに無駄はない。

知る限り、幼いミリアにそんな器用さはなかった。

だがアニマのコントロールによるもの−−本来ミリアは長剣を使用しない事から予想できる−−だとすれば得心が行く。救いは相手がハイブリッドの中では非力なミリアだということぐらいだろうか。更に速さを重視している分、必殺の一撃にはならない。とはいえ、冷静に対応できる距離でもなく、ミリアに振り切られる前に、エリファは彼女の長剣を左手で捕らえた。

「ミリア、めて!」

 再び呼び掛けるが、ミリアに期待した反応は見られない。むしろ彼女の長剣には力が入る。咄嗟にその力を抑制しようと掴んでいた手に負けじと力を込めたが剣は手から擦り抜けていく。指先には長剣の表面から剥がれたNBMナノバイオマテリアルのざらりとした触感だけが残った。

(次は、突き?)

 上半身を捻り、右腕を引いた体勢を見てエリファは予測した。と、ほぼ同時にミリアの突きが放たれる。

 肩の位置と腕の角度で軌道を読んでエリファは寸前で屈んだ。ミリアの放った突きがイメージ通りの軌道で顔の真横を掠め、プロテクターの肩口を僅かにえぐった。そこで動きが止まる。

 透かさずシュナーベルで肩口の長剣を跳ね上げ、がら空きになったミリアの腹部−−プロテクターに守られていない脇腹−−に拳を叩き込む。手応えはあった。普通に動くことすらままならないはずである。が、ミリアからは呻きの一つも漏れなかった。聞こえたのは、雄叫びだけ。

「ああぁぁっ!!」

 再びミリアの右手が振り下ろされる。もちろんそれに対応するだけの余裕はあった。だが予想以上に−−初めの一撃よりも−−その一撃は重みがあった。長剣との衝突で甲高い金属音を響かせ、シュナーベルが弾き飛ばされる。ミリアの長剣の切っ先は、そのまま空気を裂いて目の前を過って行く。

「くっ!」

 ミリアから漂う剥き出しの殺気に、胸の奥がうずき、その奥から吹き上がる風に全身の神経が逆立つ。その風を吹かせるのは、アニマの息吹。

 だがミリアは関係ない。傷付ける事などできるはずがない。アニマの思惑が予想通りなのだとすれば、なおさら。

(でも、どうすれば!?)

 考えあぐねている最中も、ミリアの力攻めが続く。なんとかその全てを紙一重でかわすが、そう長く続けられそうもない。エリファは止むを得ず左手を長剣へと変えた。数回の打ち合いでミリアの長剣を強く弾き返すが、勢いを止めるまでには至らない。

 後方を見る余裕すらないまま後ずさる。

 俄然がぜんミリアの攻めは激しさを増した。小刻みに切っ先の軌道を変化させ、突きと薙ぎ、上下の切り込みを織り交ぜての猛攻。抜け出る事ができない。

 と、不意に硬い物が背中を叩いた。

「−−っ!」

 思わず視線を流す。

(壁際にっ!)

 視線を流したのは一瞬とはいえ、それはあまりに迂闊うかつだった。急いで視線を戻すも、ミリアの長剣は雄叫びと共にすでに眼前にある。

 −−間に合わない。

 その確信と諦めが心中に沸き上がった瞬間、視界は一面闇に閉ざされた。

 終わった。呆気なく自分は死んだ−−そう思ったが、冷静に判断してみれば違った。まだ意識はある。シュナーベルを握っていた右手の痺れを感じられる。ふと、顔に付いた温かい液体のような物も感じた。その臭いまでも。

(血?)

 痛みだけは感じていないはずだった。未だにミリアに斬られた実感はない。そもそも、本当に斬られたのだろうか?

 と、不意に震え始めた目の周囲の筋肉が、我知らず目をきつく閉じていた事を教えてくれた。まぶたを開けば、何が起こったのか、全てが分かる。

 エリファはゆっくり瞼を開いた。

「……?」

 そこにはミリアがいた。が、すぐに違和感に気付く。あるべきはずのもの−−彼女の長剣が無かった。いや、正確にはミリアの右腕そのものが無くなっていた。まるで吹き飛んだかのような腕の付け根からは、鮮血が噴き出している。

 顔の血の気が失せていく。エリファははっきりと戦慄を覚えた。

 目の前の状況にではなく、自分の犯してしまった過ちに。

(……そんな)

 たとえ無意識であっても、力の使い道を誤れば咎められる罪である。後悔するような事があってはならない。したくはない。してはいけなかった。

 事切れたように崩れ落ちるミリアをエリファは直ぐ抱き留めた。まだ息はある。そのまま左手を彼女の患部に宛がう。腕を再生させる事はできないが、傷を塞ぐ程度ならなんとかなる。

『突発的な事象への対応では完全ではないが……ひとまず戻ってきたようだな。ノエマ・デュナミス』

 唐突に聞こえたアニマの声。それだけでも腹立たしさが増すというのに、最後に呼ばれた異称が、更に気持ちをさいなむ。

「黙れ」

 怒りを押し殺した声が、噛み締めた歯の隙間から抜けていく。

ここまで蓄積されてきた怒りを制するのはもはや限界だったが、今はとにかく自分の左手に集中したかった。グラウの時の感覚はまだ覚えている。同じように、左手に意識を集中すればいい。エリファはくすぶる怒りと葛藤しながら、左手に意志を注いだ。脈打つ手の表面から患部に、NBMが流動していく。

『……なるほど。ちっぽけな独りよがりの正義感で、かたくなに自分を否定するつもりか?』

「高慢な男。どこまで自惚うぬぼれれば気が済むの?」

 止血を終えたミリアをよこたわらせたエリファは、顔の血を拭いながら毒づいた。

『それがハイブリッドやお前にとっての運命だと何故気付かない?』

「運命ですって? こんな……むごい事を強いられるのが!? いったい何を根拠に言っているの!」

 高圧的な気配に向かって、エリファは思わず声を荒らげた。

『根拠? 人間という1つの存在に限界を感じた者達が、人を越えた存在であるハイブリッドに新たな時代を託そうとした。それが真実だ。自然淘汰と同じだよ。……逃れられぬ運命を疎外し、訪れた偶然を受け入れる事は真意であって過ちではなく、純粋であるが真っ当ではない。お前はそんな人間にくみし続ける事を選ぶつもりなのか?』

「たとえそれが真実でも、私の意志を非難されるいわれはない! 人間でもハイブリッドでも、守らなければならないものは同じなはずよ」

 右腕を大きく振り払って、エリファはがなった。それでも、アニマの口調は淡々と、こちらの心理を嘲笑あざわらうかのように言ってくる。

『それは“心”の事を言ってるのか? くだらない。お前はまだ分からないようだな。……ネウロンにいた人間達の末路を見ただろう?』

 アニマの口から平然と漏れた言葉に息が詰まる。それに同調して速まる鼓動も、抑える事ができない。

「ま、まさか」

『言わずとも分かるだろう? そう、これが新たなる摂理そのものなのだよ』

 その強い抑揚よくようが合図かのように、ミリア以外のハイブリッド達が再び立ち上がる。それを視線だけで見回したエリファは、シュナーベルを拾い上げた。

「お前のエゴで仕組まれた摂理や運命なんて馬鹿げてる」

『これは私一人の意志ではない。それとも、私が見せた人の潜在意識がでっちあげだと思っているのか?』

 今更それも、馬鹿げた蛇足でしかない。エリファはかぶりを振り、

「もうそんなのはどうでもいい事よ。私は素直に、人の未来を見てみたいと思えただけ。あれが全てじゃないと、教えてくれた人達がいるから」

 エリファは強い信念を口にして、シュナーベルを握る右手を胸に添えた。

『全てではないとはつまり、根底は変わりはしない。だからこそ、魂を躍動させる者−−アニマシオン−−である私が必要なのだ!』

 痺れを切らしたらしく、突然語気が強まった。結局はそれがアニマの本心なのだろう。言い知れぬ野心が、その口調には満ちていた。

「それがエゴだって言っているのよ!」

『ならばお前が人間を導くか?』

 今やアニマの感情を顕現けんげんする使者となったハイブリッド達が、アニマの言葉に呼応して動き出す気配を見せた。

「そんな事をしなくても、人は歩んで行けるはずよ。お前のような存在がいなくなればなおさら!」

 エリファは反駁しながら、自分の行く手を阻むハイブリッドの動きをうかがった。

(無意識に力を発動してしまうくらいなら、自分で制御するしかない)

 強引にでも切り抜ける方法もあるが、そのタイミングがなかなか見つからない。

 ハイブリッド達がじりじりと間合いを詰めてくる。

「決別すると言ったけれど……私も殺すつもり?」

 はやる心中を隠し、エリファは平静を装って問い掛けた。動き出すタイミングを逃さないように、まばたきすらせず神経を研ぎ澄ます。

『できればそうしたいが、お前はまだ死ねないようだ。……ただ、苦渋を与える事はできるがな』

 同時に、シュナーベルを振り上げたハイブリッド1人が迫る。

(どうするの、エリファ?)

 自問し、そして答えられないまま、エリファはシュナーベルの峰を相手に向けて構えた。そのハイブリッドもミリア同様、完全にコントロールされているのか、躊躇ためらう仕種など微塵も見せずシュナーベルを振り下ろしてくる。

(何とかしないと)

 半ば観念して右手を振り出す。

 そして。シュナーベルの刃と峰が弾き合う−−その寸前。突然ハイブリッドの殺気が消え失せ、気抜けたように床に倒れた。空を斬る右腕をそのままに、エリファはそれを呆然と見つめた。

「よっ! 待たせたな、エリファ」

 聞こえたのは、聞き慣れた緊張感の無い声。ふと視線を上げると、

「……ゼーン!」

 驚きと安堵で思わず声が上擦る。ゼーンは不格好なウインクをしてから、何やら自慢げに口元をほころばせた。

「いやぁやっぱ主役キャラはこうゆう登場の仕方じゃなきゃな」

 どうやら自己満足に浸っているようだったが、それを尊重する気にもなれず、エリファは視線を移した。

「シュウ」

「エリファ、遅れてすまなかったね」

「謝らなければならないのは私の方。……私は」

 面伏おもぶせな気持ちから、エリファは視線を落とした。おびただしい血溜まりの上で、ミリアの胸が弱々しく上下動を繰り返している。

「……行くんだエリファ」

「シュウ」

 許しをおうなどとは思っていない。少なからず非難の言葉は覚悟していただけに、その言葉は予想外ではあった。拍子抜けして、それ以上返す言葉が見つからずにいると、シュウは繰り返してきた。

「行くんだよエリファ。君は君にしかできない事を成すんだ」

 シュウが大きく頷く。

「ここは、俺達の汚名“挽回”の為に任せてくれればいいんだよ」

「いや、ゼーン? 汚名を“挽回”したら駄目じゃないか」

 シュウに透かさず突っ込まれ、ゼーンは首をかしげる。

「あ、あれ、そうだっけ?」

 それは無視して−−

「分かりました。ここはお願いします」

「気をつけて。ミリアのMTSマルチトランスシステムとシュナーベルが無くなっているから。こっちは“名誉返上”しないように頑張ってみるよ」

 そう言って、シュウは微笑みを浮かべた。

「行きます」

 エリファはそこでようやく力強く頷き、MTSを起動させた。

 躍動する細胞で得た推力で床を蹴る。行く手を阻むハイブリッドも同時に動き出したが、標的が増えた事で散漫になった攻撃をかい潜るのは容易だった。そのまま脇目も振らず、直走ひたはしる。

 信念を胸に。

 明るい明日を求めて。



 下瞼したまぶた一杯に溜まった涙が、まばたきをする度に一粒二粒と、頬を伝って流れていく。

 紅涙こうるいに沈む瞳の少女が見せた表情は、はっきりと苦痛に歪んでいた。その少女の咆哮と呼び声は今でも覚えている。決して忘れる事はできない記憶。そして今もまた、脳裏には時間を超越した呼び声が響いていた。


「……エリファ!!」

 グラウは自分の叫び声で目を覚ました。いや、目を覚ましてから叫んだのかもしれないが、そんな事はたいした問題ではない。

 見慣れたはずの夢。だがいつもとは違う感慨かんがいを抱いている自分に、気鬱にならざるを得なかった。

 と−−ふと人の気配に気付き、顔を向ける。

「お目覚め? 気分はどう?」

「アオイ? お前、ここでいったい何を?」

 言いながら、事態を把握しようと周囲を見回し、グラウは初めて自分がベットの上にいる事に気付いた。

「見ての通り、病室よ。失礼しちゃうわね、せっかく看病してあげようと思ってるのに」

「……そう、なのか?……そうか。すまない」

 アオイに対して素直に謝っている自分はあまりにも奇妙だったが、アオイはそれ以上に驚きを隠せないでいる。

「ちょ、ちょっと! グラウ正気? 意識ある? 頭痛くない? 吐き気しない? この指何本に見える? 自分が誰だか分かる? あーえぇっとぉ」

 いくらなんでも、寝起きにこれだけまくし立てられれば、誰だろうと不快になる。グラウは耳を塞いで声を荒らげた。

やかましい奴だな! 俺は別に問題ない」

「え? あ、そう?」

 心なしか安堵の表情を浮かべたアオイはベットの脇に置かれた椅子に腰掛けた。

「でも、寝言聞く限りでは、問題ありって感じするんだけど?」

 静かに語り始めたかと思いきや、その内容は意外に鋭い。自分の寝言を知る由も無いが、たった今見た夢からすれば何となく想像はつく。

「本当にこれでよかったのかって……色々後悔してるのさ」

 たまらず呟いて、それは唐突だったと実感して、グラウはかぶりを振った。改めて口を開く。

「上の状況は?」

「あ、えっと……ネウロン内部の状況はまだ詳しく分からないわね。シュウとゼーンのお陰でキメラは掃討できたけど、さっき統合制御戦闘体系(UCFS)らしき干渉波が確認されたの。シュウにもAIFをインストールして、ゼーンと2人ネウロンに行ったわ。もうエリファとも合流できてるとは思うけど……場合によってはネウロンを強制的に切り離して、爆破する計画もあるみたい」

「……そうか。むしろ状況は悪化しているとも言えるか」

 言いながら、グラウは頭部に巻かれた包帯に触れた。その奥には自分の肌とは違う感触が確かにある。だが不快ではない。まるでそこにエリファの手があるかのような不思議な感覚に、心が和らぐ。もう痛みはない。

 安心させようと、愛想笑いを見せたが、どうやらアオイにはそう見えなかったらしい。哀れむような眼差しを向けてきた。

「エリファの事、心配?」

「……まぁ、な」

 顔はそのままで答える。アオイもまた、眼差しを変えない。

「でも、全てが終わればきっと笑顔で帰って来るんじゃない?」

「期待は俺にだってあるさ」

 内心、願いに近い思いを呟いたグラウは、溜め息の後、ふと天を仰いだ。

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