表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

Prologue

 生きたくても生きられない者。

 死にたくても死ねない者。逃げたくても逃げられない者。

 何が正しく何が過ちなのか……真実を見極める事すら叶わない。その術すら与えられない。それが私達の戦争だった。

 正義とは望まれるはかない象徴でしかなく、悪意は流行りのウイルスのように蔓延まんえんし、人々や世界をむしばんでいく。

 希望などという政治家や官僚の戯言たわごとがどれほどの意味を成すだろうか。

 言葉が持つ力など、たかが知れている。それは人間にとっては単なる建前たてまえでしかない。

 私には全て分かっていた。

 人間の世界を司る精神と呼ばれる心の根底が。

 それはただただみにくく、あさましく、おろかで、がたい人間の慣例かんれいたくみに構築された偽善の中で、私達ハイブリッド−−Humanoid Interface Bio Linkage Device−−は生み出されたに外ならない。その力は世界を救う為とうたわれ、その存在は新時代を担うと祭り上げられた。だが、真実は違う。兵器として扱われたハイブリッドは破壊と殺戮さつりくを招くだけで、平和などまさに傍観者ぼうかんしゃの戯言に過ぎない。故に、変わり果てていく世界に悲しむ権利すら、ハイブリッドには無かった。

 『敵』を倒し続ける途方もない時間だけがハイブリッドの今。

 戦争は醜い。果たしてその先に平和があるのだろうか。確証の無い未来の為に戦うハイブリッドの命に、どれだけの価値があるのか……何時しか、私は降り積もる疑問を吐き出していた。


 囁き。

 否応なく聞こえてくる男の答が、幻聴ではないと分かっていた。幻聴だと思うことはできても、それに意味は無い。たとえ耳を塞いだとしても、それは呪いのように脳裏で高鳴る。

『真に憎むべきは誰か。お前にはそれが分かるはずだ』

 意識をかい潜り、無意識が支配されていく。脳髄のうずいからの痛みは全身に広がり、五感が麻痺する。肺の中をきむしられるような息苦しさにあえぎ、止まらない吐き気に涙が零れ、やがて、寒気ではない体の奮えは芯から溢れ出した。

 未曾有みぞうの苦しみに抗う事もできず、更に喘ぐ。横隔膜が痙攣けいれんしそうな程の叫び。自分の耳すらつんざく絶叫−−情動の咆哮ほうこう

『ああああぁっっ!!』

『なら、知ればいい。真に憎むべき者。むべき存在を。……お前が望めば、顕現けんげんされる現実がある!』

 もはやそれは恫喝どうかつに似た物言いだった。剥き出しの男の意志は、意識すら霧散させていく。人の意志が渦巻く表象……紛れも無い漆黒の悪意に、心がむしばまれていくのが分かった。

『……わ……私は』

 朦朧もうろうとした意識と共に、抗いの言葉が消えてゆく。だが、男の囁きは未だ脳裏に染み込むように聞こえてきた。

『ノエマ・デュナミス。その名は究極の力を冠する者の証明。摂理を越えた最強の存在。万象ばんしょうを掌握する精神の根底。お前は……』

『……黙れ!……私は……私は!』


 私の名は、エリファ。

 私はその日、『世界精神の破滅』を望んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ