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ランとアラシで神隠し  作者: 迦陵びんが
第9章 「男の子と女の子のはざまで」
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第95話 修学旅行 プロアマ戦

プロアマ競技は、スクランブル方式のチーム戦で行われた。


女子プロゴルファー1名にアマチュア4名をつけて1チームとし、アマチュアは1打ごと4人の中で一番よかった球を選択してその位置から4人が打っていくのだ。

プロとアマチュア良い方をそのホールのスコアとして採用するチーム戦なので、運命共同体として全員でサポートし応援しあってラウンドできるところがミソであり、親睦目的にはもってこいの競技方式なのだ。アマチュアにとっては、憧れのプロ選手に手取り足取りアドバイスしてもらいながらプレーできる夢のようなシチュエーションと言える。でも、ボクの場合はちょっと違った・・・。



≪カシーーーーン≫


「さあ、今度はキリュウ君の番よ」


ロングホール第2打を打ち終えると新垣亜衣プロが言った。ボクは、新垣プロのキツイ視線を感じながらスタンスに入る。


「しっかし参っちゃうなぁ。私よりドライバー飛んでるんだから」

「あはは、亜衣ちゃん。キリュウ君は結構いい勝負するだろう?」

「津嶋のおじさま。賞金女王が“にわか女子高生”にすっかり煽られちゃっていますわよ。この子ったら可愛いだけじゃないんだもの」


ボクも、惑星ハテロマで女同士の戦いは経験してきたけれど、地球に帰還してから女子選手とラウンドするのは初めてだった。それもいきなりトッププロとだ。


でも、女体化によって以前にくらべれば飛ばなくなったとはいえ、女子としてはそこそこの飛距離を確保していることは実感できる。なにしろ用意してあったゴルフクラブがばっちり合っているのだ。


なんとこれは先日母さんに連れられて行ったコンピタンスポーツのゴルフクリニックで計測してもらったボク専用のオーダーメイドのものだった。なんだか全てがお膳立てされていて、単にボクはその上に乗せられているだけみたいだ。でも、きっと津嶋氏は最高の条件をボクに与えて、どれだけ女子プロと実力で差があるかを見極めようとしているのかもしれない・・・。


となれば攻めるしかない。球のライはよし、この位置からはグリーン前の花道が開けている。ボクはスプーンを構えると、思い切って振り抜いた。


≪パシーーーーン≫


「おお、グッショ!」

「きっちり芯でとらえたぞ!」

「こりゃあ行ったんじゃないか?」


≪トーン トン トントン≫

グリーン手前8メートルに落下した球は、花道を弾みながらグリーンへと駆け上がった。


「ナイスオン!」

「イーグルチャンスだ!」

「お見事!」


同伴競技者の津嶋氏、初田社長、役者の八代目が口々に褒めてくれる。でも、新垣プロは冷ややかだ。


「さあ、お次は八代目の番ですよ。今みたいなのは全然参考にならないですから、フェアウェイウッドの力まない打ち方を教えましょう」

「力むも力まないも、ああいう風に結果を出されちゃあ戦意喪失だよ。お仲間でよかったあ、よかったあ」


さすがに女形をやる名優だけに、妍を競い負けん気を見せずにはいられない女の業の扱いなどはお手の物、軽くいなしてしまう。




結局、第2打もボクの球がベストボールに選ばれた。新垣プロの第3打はピンそば1メートルで楽々のバーディーエリアだが、アマチュアの4人の誰かが次のパットを決めるとイーグルとなる。距離は5メートル。


「ここは皆さんからお願いします」


とボクは打順を譲った。


「おほっ、嬉しいじゃないか。ランちゃんはオヤジ連中に花を持たせてくれようというんだね?」


途中から皆“ランちゃん”って呼ぶようになってしまった。

学校で何て呼ばれているかボクの愛称を知りたがったので、不本意ながら教えたのだ。だって女子高生が苗字で呼ばれている訳がないって追及するんだもの。


「八代目、入れなきゃ花にはなりませんぜ」

「な~に言ってるんだよ。わたしゃ“パットの蒼十郎”って呼ばれてるんだからね」

「そりゃあ初耳だ」

「見ててご覧なさいよ・・・よおし」


カップの逆サイドから傾斜を確認しながら軽口を叩いていたが、目つきは真剣だ。ボールの位置に戻りスタンスに入ると慎重にワッグルを繰り返す。そして、


≪カツン≫


下り傾斜を転がり始めた球は、カップに向かって真っすぐラインに乗った。


「いい感じだぞ」

「いや強すぎじゃないか?」


≪トン カッコーン!≫


「おお!」

「お見事!」

「ナイスイーグル!」

「いやあ、絶対強すぎと思ったけど。壁に当たって跳ねて入るなんてな」

「そりゃあ、お後に控えしお三方があればこその強気の攻めだよ。でもさ、強めでも真っ直ぐ狙えるところが名人芸ってもんさ。やっぱ人気商売“持ってる”んだよ、わたしゃ」


といいながら八代目は、上機嫌でボクの肩をポンポンと叩いた。




「どうだい賞金女王の新垣プロとのラウンドは?」


次のホールへと移動する間、津嶋氏が隣を歩きながら話しかけてきた。他の3人は、どうすればドライバーの飛距離が伸ばせるか、ワンポイントレッスンをしながらボクたちのずっと前を歩いている。


「まさかこういう機会をいただけるとは思っていませんでしたから、びっくりするやら嬉しいやらで混乱しています」

「ははは。急に呼び出したからな。で、競技ゴルフの選手としての感想は?」


前を見ると八代目が大仰なリアクションで場を盛り上げているので、ボクたちの会話は聞こえていないようだ。


「新垣プロにも飛距離では負けていません。ショットの正確さだって互角に戦えているんじゃないかと思います」


ボクは、ここまでのラウンドの一打一打を思い出しながら素直に言った。


「なるほど。やっぱりそうだったか。私の勘に間違いはなかったようだ」

「?」

「麗慶高校の練習場では話が途中になってしまったが、この機会に私がなぜ君に関心があるのか話しておこう」


津嶋氏は一拍置くと話し出した。


「今では飛ぶ鳥を落とす勢いの新垣亜衣ちゃんだが、私が最初に見つけたときは沖縄の地元の学校に通う普通の女子中学生だったんだよ」

「見つけた?」

「そう。彼女はダイヤモンドの原石みたいだった。一塊りの石くれにしか見えない原石。その中に最高の輝きを放つダイヤモンドが隠れているとは、本人も周囲の人たちも全くそれに気が付いていない時だった」


津嶋氏は、前を歩く賞金女王を見つめながら遠い昔を思い出すような眼をしていた。


「キリュウ君。私はね、自分自身アスリートであり、オリンピックの日本代表にも選ばれた経験を持っているのだが、それは決して自分の才能だけで成し遂げられたことだとは思っていないんだ。私の場合は、たまたま生まれた家が親代々の実業家だったから、若い時から海外留学もし一流アスリートたちと研鑽を積むことができたんだよ。どんなに才能があっても、それを開花させる環境がなければ一流アスリートは生まれない」


そう言うと、ボクに問いかけるような眼をして笑いかけた。


「私のあきつしまグループには、わが国のスポーツ振興を目的とする財団があってね、常に国内で才能のありそうなアスリートの卵たちを調査しているんだ。キミのことも、ずい分前から私に届けられるリストの中に入っていたよ」

「・・・だから、ボクに対してもいろいろ便宜を?」


津嶋氏はちょっと困ったような顔をしたが、言葉を続けた。


「まあ、正直言うと君は毎年そのリストに載っていただけで、うちの支援対象にはなっていなかったのだ。それが昨年の夏休み前、君が突然失踪したという情報が入ったんだよ。財団の担当部局は所在が不明で成長度合も不明となっては候補者リストから抹消するしかないと考えたらしく、翌年のリストでは抹消候補の方に名前が載っていたのだ。通常は1年間情報がないままだと完全にリストから外されてしまうのだが、なんとその前に突然君は姿を変えて戻って来た」


ボクは、自分の身に起こったことを地球時間に置き換えて振返ってみる。


「わずか1年の間に男だったはずのゴルフプレーヤーが女の子になっていた・・・」

「そう。その結果、失礼だけど男子ジュニアとしては物足りなかった君の評価が、女の子になったことで一気に変わったんだ」

「男子選手としては限界であっても、女子選手としては互角に渡り合える・・・」


津嶋氏は、ボクが意味をしっかり理解するのを待ってから言った。


「そうだ」


としても、ボクの地球帰還後の実力をどうやって確認したのだろうか・・・。


「でも、地球に帰還してからのボクは1試合も公式戦には出ていませんし、ゴルフプレーヤーとしてどう変わってしまったかご存知なかったはずでは?」

「まあ、情報というものには入手するための伝手がいろいろあるんだよ。種明かしをすると、日本ゴルフ連盟の中にも協力者がいて君の練習試合をチェックしてくれたんだ」


ボクは、あの日の事を思い出した。関東高等学校ゴルフ協会から女子のユニフォームを着る条件で、本戦に“飛び級”で出られるテストを受けさせられたっけ。あの時、ずっとボクの組に付いていたのは・・・。


「・・・それって、ひょっとして女子強化委員長の河原理事?」

「ピンポン♪ 正解だ」

「そうだったんだ・・・プレーを見た上で今のボクなら互角に渡り合えると?」

「渡り合えるだけではなく、他のアスリートにはない強烈な話題性を引っ提げてね」


津嶋氏は、いま一度ボクの容姿を吟味するように見ながら言った。


「話題性ですか・・・」

「うちのグループは、明日から始まる女子プロゴルフトーナメントを主催しているほどに、女子ゴルフには力を注いでいるんだ。どの世界でもそうだが、ひとりのスーパースターの誕生はスポーツ界の勢力図をも書き変えてしまうインパクトがある。君にはその資格があると見ている。今日いっしょにラウンドして私自身それを実感した」


ボクは凄い評価をされていたんだ・・・でも、それってボクに女として生きろということじゃないか。


「・・・でも・・・だとしても・・・ボクはまだ、自分でも女になりたいのかも分からないんです!」

「分かっているって。焦る必要はないんだよ。私はこれから君が歩む選択肢の一つを提案しただけで、無理やり君を女にしようとは考えていない。東京に帰ったら公式戦が待っているんだろ? いろいろ経験した上で自分で決めればいいことなのだから」


どうして津嶋氏が気に掛けてくれていたのか疑問は解けたけど、ますますボクを女にしようという圧力が強まっていることを感じざるを得なくなった。






「ありがとうございました!」


最終ホールを終えると、ボクは深々とお辞儀をして同伴競技者たちにお礼を言った。


「いやあ、18ホールで22アンダー! 1ラウンドで50なんて奇跡だよ、マーベラスだ! こりゃあ新記録での団体優勝間違いなしだ!」

「なにせミドルとショート全てバーディー、ロングはことごとくイーグルなんだからな!」

「こりゃあ祝勝会だ! 今夜は松山か桜坂、夜の街に繰り出すぞ! 君たちも来ないか?」

「八代目、新垣プロは明日は朝からトーナメント。ランちゃんは修学旅行生で未成年ですぞ」

「あ、そうか。どうも可愛い女の子たちを目の前にするとムズムズしてきてな。あははは」


オジサンたちが満面の笑みで興奮気味にまくし捲し立てているのとは対照的に、新垣プロは専属キャディにパターを渡しながら浮かない顔をしていた。


「ふう。今日は一日煽られっぱなしだったわ。スコアの半分はアマチュアのみなさんのお陰なんだもの」


新垣プロがため息交じりに言う。


「ま、プロは団体戦の順位で別途賞金貰えるんだし、よかったろ?」

「それはそうなんですけどね」


初田社長のひと言で新垣プロもちょっと微笑んだ。そうか、新垣プロの帽子には『HATSUDA』のロゴがついているから、スポンサーの社長さんなんだ・・・。


「ところで亜衣ちゃん。キリュウ君のゴルフの腕前はどうだった?」


津嶋氏が急に真面目な口調で尋ねた。八代目と初田社長も興味津々といった表情で新垣プロの方を見つめる。新垣プロは考えをまとめるように、黙ったままボクを見つめた。


「アナタ、女子プロゴルファーになる気?」

「え? いや・・・まだ・・・というか、ボクの登録は男子ジュニアですから・・・」


あ、思わず素の自分に戻って答えてしまった。


「“ボク”か。こんなに可愛くて綺麗な“ボク”ちゃんが、あんなに上手なゴルフをするなんてね」

「今日はたまたまです・・・」

「どのくらいのレベルかなんて、見ていれば分かるわよ。アナタ、ちゃんと基礎もできているし、勝負勘もいいみたいね。これでうちのツアーに出てきたらちょっと脅威かも」

「と、言うことは女子プロで通用するということだね?」

「言いたくないけど、ま、そういうことです。では、パットの調整をしたいのでこれでいったん失礼します」


新垣プロがパッティンググリーンの方に歩き出したのを見て、ボクもお暇することにした。


「新垣プロ、今日はありがとうございました。ごいっしょにラウンドすることができて幸せな一日でした」


と言ってボクが頭を下げたら、新垣プロが振り返って言った。


「あら、帰っちゃうの? 表彰パーティーでおしゃべりできると思ったのに」

「いえ。わたしはそろそろ帰らないといけないので」

「ん? まだ、いいじゃないか」


津嶋氏も引き留める。


「そうだよ。ランちゃんとは、女を演じるときの在り方についてじっくり語り合いたいしね」

「八代目の場合は、在り方よりランちゃんそのもののに興味があるんじゃないの? あはは」

「そりゃあ初田さん、こんな見事な女装少年はめったにいるもんじゃないからね」


八代目と初田社長もボクを引き留めようとする。


「いえ、わたしはセーラー服ですしパーティーになんて出られません。それよりせっかく修学旅行で沖縄に来ているので、友達といろいろ見て歩きたいんです」

「そうか、それもそうだな。オジサンたちといるよりは、同い年の仲間たちといた方が楽しい年頃だしな。じゃあ三田村に送らせよう。今日はありがとう。帰ったらまた東京でな」






セーラー服に着替えたボクを、津嶋氏の秘書である三田村が車で送ってくれた。


「携帯で言っていたからこのあたりにいるはずなんですよ・・・あ、あそこだ!」


国際通りの中ほど、デパートの前にあるファッションビルのエントランスで大勢の人たちがたむろしていた。その中でひと際背が高いのを見つけたので、ボクは窓から顔を出すと声を掛けた。


「カッちゃ~~~ん!」

「おっ、アラシか」


まわりにいた人たちの視線が一斉に集まる。カッちゃんは照れくさそうしながらも、車に近づくとドアを開けてくれた。


「それじゃあ、三田村さん。ありがとうございました」


ボクはカッちゃんの手につかまってステップを降りながら、運転席に声を掛ける。


「いえ、こちらこそ今日はお付き合いいただきありがとうございました。残り時間が少なくなってしまったようですが那覇探訪をお楽しみください」


発進した黒塗りのワンボックスが交差点を左折していくのを見送って振り返ると、ボクを取り囲んで人垣ができていた。


≪なんて綺麗な子なんだ≫

≪ひょっとしてタレントさん?≫

≪あ! テレビで見たことがあるかも≫


なんだか不穏な雰囲気になってきた感じが・・・。


「さあ、とりあえずここを離れよう!」


カッちゃんはそう言ってボクの手をつかむと、タイミングよく点滅しはじめた歩行者信号を走って渡る。後ろからついて来る足音がしたので振り返ると、2Cの男子だった。


「あれ沢村君? そっちは中野君?」

「ああ」

「今日は佐久間といっしょなんだ」

「ふたりとも私服着てるから分からなかったよ」


皆ジーンズにTシャツやポロシャツといった私服だった。カッちゃんは背が高いし普段着姿も見慣れているので直ぐに気がついたけど、ふたりはいつも制服姿で認識しているから分からなかったのだ。


そうか・・・沢村はサッカー部のエースストライカーで中野は左サイドバックだった。カッちゃんも中学時代はサッカーで鳴らしていたから、今日はサッカー仲間で自由行動に出たのだろう。


「アラシ、腹減ってるか?」


渡った先にあるデパートの入口まで来て立ち止まると、カッちゃんが言った。丁度ここは日陰になっているので、強い日差しの外にいる人からは見えにくい場所だった。


「うん。ハーフで軽食が出たのでお昼は食べたけど、終わると直ぐに着替えて出て来ちゃったから何も口にしてないんだ。のど乾いちゃったな」

「じゃあ季節はずれかも知らんが“ぜんざい”食いに行くか?」

「ぜんざい?」

「そう、沖縄名物さ。アラシがいっしょに歩きたいって言うから、ガイドブックを調べてお前の好きそうなものを見繕っておいた。おっと、その前にそれ、なんとかせんとな」


カッちゃんは、ボクを見ながら言った。




「似合ってる?」

「ああ。アラシはどんな格好しても似合うよ」


ボクはカッちゃんたちが用意してくれていた、黒縁セルフレームの“だて”メガネを掛けて目深にキャスケット帽をかぶっていた。


「バレない?」

「たぶんな。セーラー服着たメガネっ娘なら、そう注目はされないだろ」

「あ、委員長に言ってやろ~」

「アラシ、お前なあ。俺がいま誰の面倒をみてやってると思ってるんだ? お前が来るっていうから、3人で手分けして近くにいた女子たちを探し出し、拝み倒して借りてやったんだぞ」

「わかってるって。ほんと感謝しているんだから。みんなありがとう!」


メガネフレームの上から目を覗かせて上目遣いにニッコリ微笑んだら、みんな呆けた顔をしてしまった。


「く~~~~っ」

「か、可愛い・・・可愛いすぎる!」

「・・・かなわんなあ、こりゃ」




「おいしい! これが“ぜんざい”なんだ~」


ボクは、スプーンをくわえたまま舌の上で冷んやり融けて行く氷を楽しみながら言った。


「“ぜんざい”って言うからお汁粉みたいなものかと思ったけど」

「そう、かき氷なんだ。要は氷アズキなんだが、沖縄じゃアズキじゃなくて黒糖で金時豆を煮たやつを使うんだそうだ」

「これ大好き! ゴルフして来て火照った体にはちょうどいい甘さと涼感ね!」

「俺のも食うか?」

「え? いいの?」

「ああ。アラシにそんなに嬉しそうな顔をされるとな」


ボクは遠慮なく2杯目に取り掛かる。甘味処の小さなテーブル席で窮屈そうに座るガタイの大きいスポーツマンタイプの男の子3人、その前で嬉しそうにかき氷を頬張るセーラー服の女の子、店の中に居た人たちは皆不思議そうに見ている。


「で、アラシはどこか行きたい場所はあるのか?」

「え? 今日は一日ゴルフでつぶれると思ったから考えてなかったけど・・・あ、そうだ」

「どこだ?」

「うん。首里城に行ってみたいな。ガイドのネエネエもあそこは外せないって言ってたから。ひょっとして、もう行ってきちゃった?」

「いいや。俺たちは食べ歩きしていただけだからな」

「たとえ行っていたとしても、俺はキリュウが行きたいなら何度でも付き合うぜぇ!」

「中野、惚れたか? 何度も言うが、身体はこうだがキリュウの中身は男のままなんだぞ。コイツはずっと女部屋に閉じ込められて窮屈な思いをしているんだから、せめてこういう時くらい羽を伸ばさせてやろうって決めたじゃないか」

「・・・ありがとう、みんな。そうなんだよね、セーラー服は着ていても“ボク”としては男同士の方が気楽なんだよね」

「わかってるって、アラシ」

「じゃあ、せっかく沖縄に来たんだもの行ってみようよ!」


地図を確認して甘味処を出たボクたちは、ゆいレールの最寄駅「牧志」から終点の「首里」に行くことにした。


ゆいレールは那覇市内を走るモノレールで、沖縄県で唯一の“鉄道”だ。車両は二両編成で、丸味を帯びた人懐っこいヘッドと、銀とグレーに上下塗り分けられた中央を真っ赤なラインが走る特徴的なデザインとなっている。


「うわ~~あ、これって楽しいかもぉ!」


先頭車両の運転席との境を隔てるガラスに顔と手をくっ着けるようにして、ボクは次々迫ってくる景色に夢中になっていた。


「・・・アラシ、お前なあ、それじゃあ小学生以下だぞ」

「だって楽しいんだもん」

「キリュウって鉄子、いや鉄男だったのか・・・」


「おもろまち」の近代的な建物が並ぶ新都心を過ぎて、軌道が大きく右へカーブすると、家並の向こうに城砦がそそり立つ丘が見えてきた。赤い琉球瓦を頂く朱塗りの建物が目指す首里城だ。


「もしもし~、お客さん~終点ですよ~!」


首里駅に着いても先頭車両の窓にしがみついたまま離れようとしないボクに、カッちゃんがしびれを切らして言った。


「ほんと、アラシは子供なんだから。日が暮れちまうぞ」


渋々ボクは車両から降りた。




「おおっ!」


門をくぐり王宮前の広場に出た瞬間、カッちゃんたちから声が上がった。

目にも鮮やかな赤と白のボーダーに塗り分けられた広場が宮殿まで広がり、古い世界遺産のイメージでいたボクたちには、とっても意外でもの凄く近代的なデザインに感じられたのだ。


「こりゃあスゲーわ」」

「やっぱ、写真とは違うぜ。百聞は一見にしかずって奴だな」

「来てよかったぁ! 中に入ってみようよ!」


ボクは、宮殿の正面階段を目指して駆けだした。


「おいっ転ぶぞ! アラシ」

「やっぱ、キリュウはガキだな」

「ガキだが、見ているだけで楽しくなる」

「ああ。同感だ」


スカートの裾を翻しながら白い足を輝かして走って行く姿を見て、カッちゃんたちが頷いた。






「ランちゃん?」

「ランちゃんでしょ?」


見学を終えて首里城北殿にある土産物売り場でショーウィンドウを覗いていると、後ろから声を掛けられた。振り返ると、サヤカたちが立っている。


「あれ? サヤカちゃんにクルミちゃん。ユカリちゃんもいる」

「ほら! やっぱりそうだったわ」

「後姿がどうもうちの制服に似てるなって思ったのよ」

「メガネかけてるし帽子で髪隠しちゃってるから分かんなかったわ」


3人娘は私服を着ていたから、ボクの方も直ぐには気がつかなかったのだ。


「ひとり?」

「ううん。カッちゃんたちといっしょ」

「そりゃそうか。『絶対単独行動させるな』ってあれだけ岡崎から言われちゃってるんだし、ランちゃんがひとりの訳ないよね。で、アイツらどこにいるの?」

「あそこ。わたしの買い物が済むのを待ってくれているの」


ボクは、自動販売機の前のベンチに所在なく座っている男たち3人を指さす。


「ほんとだぁ。ランちゃんたら、うちの体育会系イケメン3人にエスコートされているんだ。やるじゃん」

「カッちゃんに電話したら、たまたま沢村君と中野君もいっしょだっただけだもん」

「まあ、買い物に付き合っていないようじゃ、アイツらも単なるガードマンか」

「?」

「男は女の買い物を面倒くさがるものなの。だけど好きな子の為なら、ずっと付き添うはずでしょ?」

「だから、そんなんじゃないんだって。気持ちは男同士なんだから」

「ま、いいけど。ほんじゃあ私たちがランちゃんの買い物に付き合ってあげるわ」


予想していなかったゴルフのおかげで、すっかりボクの自由行動の時間はなくなってしまったけど、カッちゃんやサヤカたちのおかげで無事母さんたちのお土産も買うことができた。


こうしてボクの修学旅行は帰りの日を残すのみとなった。


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